【劇評247】勘九郎、愛嬌に溺れぬ『一條大蔵譚』。
勘三郎家にとって大切な『一條大蔵譚』。勘九郎は、父十八代目、祖父十七代目を受け継ぎつつも、自分なりの境地を開きつつある。
まずは「檜垣」。獅童の鬼次郎、七之助のお京が、檜垣茶屋で源氏の未来を憂えている。大蔵卿に使える計略を練るために、お京が女スパイのようになりがちだが、あくまで忠義本意に描く。舞が本格なので、筋目の通った人間であると説得力を持つ。
勘九郎の大蔵卿は、床几を傾けて、阿呆ぶりを強調するところも、あざとい笑いを避ける。品のよい育ちを守っている。お京をからかったり、また、お京をやとい太郎冠者に、歌女之丞の鳴瀬を次郎冠者に見立てるあたりも、趣味人の少し度が過ぎた遊びにとどめている。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。