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【劇評321】女優六人で演じられる『東京ローズ』は常識を疑う意欲作となった

 新国立劇場が、フルオーディションによるミュージカル『東京ローズ』を上演した。スウィングをふくめ七名の女優のみを選んだところで、この舞台が意欲的な作品であるとわかる。

 私の世代にとっては、ドウス昌代によるノンフクション『東京ローズ』がなじみ深い。
 今回のプロダクションは、二○一九年にエディンバラ・フェスティバルで初演されたミュージカルを基にしている。バーン・レモン・シアターによるオリジナル自体が、女性のみのキャストで上演されており、今回の藤田俊太郎演出もその配役のやりかたを踏襲している。

 もちろん、性別や肌の色にこだわらないキャスティングは、現在とくにめずらしいものではなくなった。ただし、本作を通して観ると、メリットとデメリットがあり、その成否を考えることは重要だと思われる。

 メリットは、こうした日本軍による宣伝番組の制作や、戦後の「東京ローズ」裁判が男性の支配によって行われた歴史に対する痛烈な批判になっているところにある。
 この作品における軍や裁判のありかたが時に滑稽であるとすれば、男性中心主義を疑わない戦前のありかたそのものが狂っているからである。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。