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長谷部浩
2024年9月8日 16:05
歌舞伎を観て、心を熱くした 自主公演も第八回を数える。尾上右近による『研の會』は、大阪、東京と二都市でそれぞれ二日、昼夜四公演だから、熱烈に支持する贔屓が、右近を後押ししているとわかる。その期待にきっちりと応えていくだけの技倆と熱意が備わっている。出にたちこめる過去まずは、『摂州合邦辻』。右近によって、人間の業をめぐる芝居だとよくわかる。花道の出から、堂々たるものだが、夜の道をひと
2024年7月6日 14:44
趣向の芝居である。 七月大歌舞伎夜の部は、『裏表太閤記』(奈河彰輔脚本 藤間勘十郎演出・振付)が出た。昭和五十六年、明治座で初演されてから、久し振りのお目見え。記録によれば、上演時間は、八時間半に及ぶ。私はこの公演を見ていないが、演じる方も、観る方も恐るべき体力が必要だったろう。 二代目猿翁(当時・三代目猿之助)が芯に立つ。猿翁は、スピード、ストーリー、スペクタクルの「3S」によって、復活
2024年1月20日 17:58
驚嘆すべき『京鹿子娘道成寺』を観た。 尾上右近の渾身の舞台には、優駿だけが持つ速度感がある。身体のキレ味がある。しかも、下半身を鍛え抜いているために、速いだけではなく、緩やかな所作に移ってもぶれがなく、安定感がある。歌舞伎舞踊の身体をここまで作り上げるには、どれほどの汗が流れたことかと感嘆した。 もっとも、右近の白拍子花子は、この境地に至るまでの労苦を一切見せない。変幻自在な所作事の魅力
2022年4月6日 19:13
四月大歌舞伎、第二部は新作歌舞伎とめずらしい舞踊の狂言立てとなった。 真山青果が大の苦手な私にとって、唯一、愛着が持てるのが『荒川の佐吉』である。 この戯曲は、「運命は自らの手で切り開く」といったメッセージ性ばかりが立ってはいない。 偶然から共に暮らすことになった男ふたりと幼子の愛情の深さが描かれている。血が繋がっているから家族なのではない。ともに、いたわり合う心があってこそ、家族なのだ