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長谷部浩の俳優論。

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歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
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2023年2月の記事一覧

【劇評294】仁左衛門の水右衛門に、悪の真髄を見た。

【劇評294】仁左衛門の水右衛門に、悪の真髄を見た。

 「一世一代」とは、その演目をもう二度と演じない覚悟を示す。役者にとって重い言葉である。

 仁左衛門はこれまで、『女殺油地獄』、『絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)』、『義経千本桜』「渡海屋・大物浦」を、一世一代として演じてきたが、二月の大歌舞伎では、自らが育ててきた演目『通し狂言 霊験亀山鉾—亀山の仇討—』もその列に加わった。

 もちろん淋しさはつのるけれども、筋書によれば「この狂言は、長い

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【劇評293】亡父富十郎を思い出させる鷹之資、渾身の『船弁慶』

【劇評293】亡父富十郎を思い出させる鷹之資、渾身の『船弁慶』

 鷹之資、渾身の『船弁慶』を観た。
 この踊りに真摯に取り組む姿を観ながら、十八年前、二○○五年六月歌舞伎座に出た『良寛と子守』が思い出された。

 良寛は四世富十郎、子守およしが二代目尾上右近、当時、本名中村大を名乗っていた鷹之資は、里の子大吉だった。

 まだ、幼かったからだろう。踊りの途中で、鷹之資は舞台から引っ込んでしまった。あわてた富十郎は、急に父親の素に戻って「大ちゃん、大ちゃん」と必

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【劇評292】那須佐代子、凜による『おやすみ、お母さん』。人間の真実をふかくえぐり出す傑出した舞台。

【劇評292】那須佐代子、凜による『おやすみ、お母さん』。人間の真実をふかくえぐり出す傑出した舞台。

 母と娘が、容赦なく、これまでため込んできた思いを言葉にする。

 マーシャ・ノーマンの『おやすみ、お母さん』(小川絵梨子翻訳・演出)は、セルマ(那須佐代子)とジェシー(那須凜)の親子の人生を、台詞劇として凝縮している。

 八二年に初演され、八十三年度にピューリッツアー賞を受賞した戯曲を初めて観たとき、私はテネシー・ウィリアムズの『ガラスの動物園』を思い出した。この作品は、強烈な個性を持ったアマ

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