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尾上菊之助の春秋 その壱 春

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尾上菊之助さんの話題が中心のマガジンです。筆者の長谷部浩は、『菊之助の礼儀』(新潮社)を以前、書き下ろしました。だれもが認める実力者が取り組む歌舞伎、その真髄について書いていきま…
有料記事をランダムに投稿します。過去の講演など、未公開の原稿を含んでいます。アーカイヴが充実すると…
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#中村吉右衛門

五月大歌舞伎、「團菊祭」ではないが、菊之助の『春興鏡獅子』も華やかに、見どころのおおい公演となった。

五月大歌舞伎、「團菊祭」ではないが、菊之助の『春興鏡獅子』も華やかに、見どころのおおい公演となった。

 歌舞伎座から五月大歌舞伎の案内が届く。長年、「團菊祭」が行われていた月だけれど、今年は菊五郎劇団と吉右衛門中心の一座が、合同公演を行っている。そんな印象の役者が揃っている。

 一方、海老蔵はどこに行ってしまったのか、気になる。調べてみると、明治座に立て籠もって無人の一座で、二日だけの興行が予定されている。実盛物語とKABUKUと題した新作歌舞伎舞踊を見せるのだという。

 長く続いた團菊祭がこ

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歌舞伎に未来はあるか、断崖にいる私たちについて考えたこと。

歌舞伎に未来はあるか、断崖にいる私たちについて考えたこと。

 大阪では、医療が緊迫している。東京も明日はどうなるか、わからない。

 ロンドンやニューヨークの大劇場が、閉鎖を強いられているなかで、日本はかろうじて綱渡りのような公演を続けてきた。

 感染者数や死者が、加速度的な上昇にまで至らなかったこともある。また、GO TO TRAVELや五輪との整合性を取るために、移動や大規模公演を認めざるを得なかった政府の方針もあるのだろう。

 けれども、第四波が

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【劇評209】芯のある時代物。菊之助渾身の『時今也桔梗旗揚』。

【劇評209】芯のある時代物。菊之助渾身の『時今也桔梗旗揚』。

 緊急事態宣言下にはあるが、関係者の努力によって、芯のある芝居が観られるようになった。

 今月の国立劇場は、歌舞伎名作入門と題した公演で、菊之助の『時今也桔梗旗揚(ときわいまききょうのはたあげ)』三幕がでた。多くは、「馬盥(ばだらい)」と「愛宕山」の場の上演だけれども、昭和五十八年、年吉右衛門が新橋演舞場で上演したとき、このふたつの場に先立つ「饗応」を復活した。

 四世鶴屋南北の時代物として知

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【劇評186】晴れやかに観る吉右衛門の「俊寛」。悪逆非道な清盛も痛快である。

【劇評186】晴れやかに観る吉右衛門の「俊寛」。悪逆非道な清盛も痛快である。

 国立劇場が、十月から充実した狂言立てで、存亡の危機にいる歌舞伎を支えている。

 十一月の第一部は、『平家女御島ー俊寛』。言わずと知れた近松の作だが、ミドリで出るときの二幕目「鬼界ヶ島の場」に先だって序幕に「六波羅清盛の場」を出している。

 歌舞伎ならではの楽しみに役者の変幻がある。
 今回、清盛の場で、吉右衛門が悪逆非道な清盛を演じ、鬼界ヶ島では、清盛に流された清廉な俊寛となる。
 同様に、

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【劇評171】吉右衛門、東蔵、雀右衛門、菊之助。「引窓」が照らし出す歌舞伎の未来。

【劇評171】吉右衛門、東蔵、雀右衛門、菊之助。「引窓」が照らし出す歌舞伎の未来。

 九月歌舞伎座、久し振りに一級の義太夫狂言を観た。

 平成から令和を代表する時代物役者といえば、吉右衛門の名前がまっさきに挙がる。

 四部制をとって、歌舞伎座が再開されて二ヶ月。本来は、これまで初代吉右衛門を記念して秀山祭行われていたが、残念ながら変則的な狂言立てとなった。
 そのなかで、吉右衛門が満を持して出したのが「引窓」。『双蝶々曲輪日記』のなかでも、親子関係のむずかしさ、なさぬ仲の辛さ

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「廓の掟に縛られながらも、懸命に生きていく薄幸な女をいつかは演じてみたいと思っていました」菊之助の『籠釣瓶花街酔醒』。初演当時のインタビューを再録します。

「廓の掟に縛られながらも、懸命に生きていく薄幸な女をいつかは演じてみたいと思っていました」菊之助の『籠釣瓶花街酔醒』。初演当時のインタビューを再録します。

五代目菊之助は、2012年の12月、新橋演舞場で『籠釣瓶花街酔醒』の八ッ橋を初役で演じている。八ッ橋をひと目見たとたんに魅入られる自動左衛門は、父菊五郎だった。

この初演のときに、菊之助を私がインタビューしたメモが見つかったので、ここに再録しておきます。

○今回、籠釣瓶花街酔醒の八ッ橋役を勤めることになった経緯を教えて下さい。

 10月の名古屋御園座で『伊勢音頭恋寝刃』のお紺を初役で勤めさせ

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巨象のような体躯を持った歌舞伎は、どこへ行くのか。

巨象のような体躯を持った歌舞伎は、どこへ行くのか。

 演劇は舞台と観客が同じ空間と時間をともにするのが基本だと思ってきました。
 その考えは、今も変わっていませんが、NTライブのすぐれた作品は、演劇ではないけれども作品としての価値が高いので、ときおり映画館へ足を運びます。千穐楽に行ったりすると、演劇関係者が半数などという日もあって、みんなよい舞台を観たいのだなとかねがね思っていました。

 コロナウィルスの脅威が始まってからは、急に歌舞伎界がこの配

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秀山ゆかりの「引窓」と吉右衛門の決断。

秀山ゆかりの「引窓」と吉右衛門の決断。

9月大歌舞伎の演目が発表になった。

 毎年9月といえば、秀山祭である。二代目中村吉右衛門は、現在の歌舞伎を代表する俳優であり、六代目菊五郎とならび称された初代吉右衛門の藝を受け継いでいる。
 初代の生誕120周年を記念して2006年に始まったのが、現在の秀山祭だが、十五年近く続いてきた看板を下ろした。今回の新型コロナウイルスの影響で、変則的な四部性を取っている。それぞれに芯を取る役者を置くと、一

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4月演舞場の無観客放映はありますか?

4月演舞場の無観客放映はありますか?

松竹は、3月歌舞伎座の放映を発表しています。

残念ですが、収録自体が行われていないようです。

演舞場の宣伝部からは、以下のようなメールが届いています。

拝啓 平素より格別のご高配を賜り、篤く御礼申し上げます。

この度、新型コロナウイルスの感染拡大と政府の緊急事態宣言を受け、
新橋演舞場「四月大歌舞伎」を全日程で中止することを決定いたしましたので、
ご連絡申し上げます。

(公演中止)新橋演

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