見出し画像

編集者を料理人に例えると、インハウスエディターに求められるものは?

🎄この記事は「インハウスエディターアドベントカレンダー 2021」22日目の記事です!🎄

普段、支援会社として、事業会社のコンテンツマーケティングやSEOのお手伝いをしています。2021年12月からインハウスエディターも始めて、自社コンテンツ『アウェイツーリズムマガジン』を創刊しました。

副業でも時々、ウェブコンテンツの編集・ライティングをしています。

インハウスエディター・ウェブコンサルタント・編集者の3つの顔を持つ人間が、少し引いた視点から、インハウスエディターの役割や2022年に求められそうなことを書きました。

インハウスエディターとは

ここ数年、インハウスエディターという言葉を見ることが増えました。企業がコンテンツを作ることが増えたこと、コンテンツを作るノウハウやツールが普及したことがあるでしょう。

とはいえ、まだまだGoogleトレンドで検出できるほどではない

最初に、インハウスエディターという言葉を目にしたのは、モリジュンヤさんの2017年のnoteでした。ここでは「事業や広報を理解する企業内編集者」とインハウスエディターは定義されています。

さて、2021年、ますますリアルではなくデジタル上での企業と生活者とのコミュニケーションが増えてきました。

オウンドメディアが増え、支援会社も増えるなか、支援サイドに求められることって?インハウスにしかできないことって何???を模索する日々でした。

インハウスエディターと外部編集者のそれぞれのメリット??

以前に、広告運用会社のフィードフォースさんで、「広告運用のインハウス・代理店の違い」を取材する機会を頂きました。

  • インハウス広告運用のメリット:コスト削減・ナレッジの社内蓄積・メンバー育成

  • 代理店広告運用のメリット:高い専門性・最新情報のキャッチアップ・リソースの確保・他業界の成功事例/失敗事例の横展開

ここで語られていたのは、広告運用のインハウス・代理店運用の違いや未来についてでしたが、案外同じことを言えるんじゃないかと思っています。

  • インハウスエディターのメリット:コスト削減・ナレッジの社内蓄積・メンバー育成

  • 外部編集者のメリット:高い専門性・最新情報のキャッチアップ・リソースの確保・他業界の成功事例/失敗事例の横展開

ただ違うのは、取り組みが、広告かコンテンツか。

広告と違い、コンテンツは無闇に量産しても、ユーザーに届かない・読まれない・動かない・意味がない・自己満足に終わる時代です。

インハウスエディターがコストだけ最適化しても成果に繋がらないでしょうし、専門性のない外部編集者が「普通に読めるがありきたりな記事」を作っても成果に繋がりにくくなりました。

コンテンツ神話の冬の時代?

コンテンツが飽和し、検索エンジンでさえもページを登録しなくなるケースが増えてきています。

この変化は不可逆で、今後、1ページあたりのパフォーマンスはどんどん下がっていくでしょう。

ホワイトペーパーのユーザー価値も下がっています。

「ホワイトペーパーを量産し、ダウンロードさせるサイト設計をして、広告で訴求し、インサイドセールスがテレアポする」、そんな座組みはどんどん厳しくなるんじゃないかな〜と思っています。

では、インハウスエディターならではのコンテンツの向き合い方とは?

編集者=料理人として捉えると、インハウスエディターに必要なのはテロワールの創出では?

自分は「編集者は料理人」と捉えています。

料理人(編集者)は、食材(情報)を仕入れ、店やお客さんにあわせて調理(編集)し、提供する存在です。

編集者がいなくてもコンテンツは作れます。でもそれは、素材をそのまま出したり、生産者自らが簡単に調理したり、場合によっては、お客さん自らが調理することです。

それはそれで、安く済んだり、美味しいこともありますが、品質にムラがあったり、食中毒(致命的な誤りや炎上)のリスクもあります。

編集者は「文章を直す仕事」と思われがちですが、コンテンツは素材そのものの質に大きく左右されますので、その手前から編集者の仕事は始まります。寿司職人が酢飯に切り身を乗せるだけの仕事ではないように。


また店やお客さんに合わせた調理を行うのも重要です。お出かけメディアで、固い記事を出しても読まれないはずです。


インハウスエディターの強みは、どんなお客さんが多いのか知っていることや、生産者と直接つながっていることにもあります。生産者に直接、食材の希望を出すこともできます。


外部からでもGoogleアナリティクスなどを見れば、「火曜日は家族連れが多い」とか「脂っこいメニューよりもヘルシーなメニューが人気」というような定量データは分かります。


ただ、「市場では価値がつかないと捨てていた魚が、実は面白い料理になる」や「温かいメニューが好きな人が増えたとウエイターが言っていた」などのデジタルで現れにくいデータは存在します。

そして、メディア・コンテンツの個性を生み出す上で重要な要素、いわばテロワールを創出できる存在だとも思います。

テロワールは、「場所や風土に根ざした個性」のような意味です。ワインや郷土料理の味わいの表現に使われます。

テロワールとは:
テロワールという言葉はもう少し広義になり、ワインだけでなく、農作物、チーズ、肉や海産物にいたるまで、各地の特産食材などを語るときにも使われます。同じ地方で作られるワインと郷土料理、チーズなどとの組み合わせがよく合う理由として“テロワールが同じだから”と表現されることがよくありますが、気候を含めた土地の個性にその地方の風土や文化という概念が加わり、そこに愛着や価値が生まれ、食材の美味しさを語るキーワードの一つとして、テロワールは大きな意味を持っています。

https://francerestaurantweek.com/magazine/%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E8%A8%80%E8%91%89%E3%80%81%E5%9C%9F%E5%9C%B0%E3%81%AB%E6%A0%B9%E3%81%96%E3%81%99%E3%82%82%E3%81%AE/

世界一予約の取れないレストランで知られるエル・ブリはテロワールを重視し、「郷土」と「料理」の結びつきを大事にしているそうです。

ただ美味しい料理・豪華な料理ではなく、テロワールを汲み取った料理が人を惹きつけファンを作っています。

大衆に受ける「面白い」「バズる」コンテンツだけではなく、「らしさ」や繋がり、一貫したユーザー体験を提供するリサーチ力とある種の信念なのだと思います。

テロワールのあるコンテンツのヒントは、コンテクストデザインにある

テロワールの創出には、コンテンツと読み手の間の特別な繋がりが必要です。

そのヒントになるのが、Takramの渡邉康太郎さんが書かれた『コンテクストデザイン』。

「語り」によって、たんなる即時的「消費」を越えて、読み手は作品とあらたな関わりを結ぶ。そして、その瞬間に読み手は書き手に入れ替わる。結果生じるのは作品との主体的な関わりと多義的な解釈だ。

作者が作品に込めたメッセージやテーマ=「強い文脈」をきっかけに、読み手一人ひとりの解釈や読み解き=「弱い文脈」が主役になる。この弱い文脈の表出こそを意図したデザイン活動が、世のなかに不足している。コンテクストデザインは個々の弱い文脈の表出を促す。それは読み手を書き手に、消費者を創作者に変えることを企図するデザインだ。

https://note.com/waternavy/n/nba719b704057

ここでは、作品と読み手、という関係性で語られていますが、これは企業とユーザー(社会)という関係性でも読み解くことができます。

例えば、サービスにおける強い文脈のメッセージ(スペックや実績、料金)を出すのが広告やPRだとすると、弱い文脈のメッセージ(色んなユーザーの使い方や感想、事例、新しいアイデア)を促し、撚り合わせることがインハウスエディターに求められることになりそうです。

それを組織的に取り組まれているのが、SmartHRさんの事例です。

コンテンツを通じて、一方向で認知獲得やファネルを進めていくだけでなく、コンテンツを作る取り組み自体で、オーディエンスとの関係性を作っていく別のファネルとの組み合わせになっているそうです。

https://note.com/fujijune/n/n9f809b01ed05

強い文脈だけで弱い文脈(例えばクチコミ)がなければ、誰も買ってくれないですし、弱い文脈(例えば特定ユーザーの嗜好やナラティブ)が強すぎれば、ユーザーを絞ってしまったり、炎上のタネになります。


つまるところ、インハウスエディターは「記事を作る」だけではなく、様々な取り組みを通じて、会社と社会とのコンテクストを編むこともまたミッションなのかと思います。

自社のアセットやリソースを生かし、すでに持っている資産を把握し、社会から求められているコンテクストをキャッチアップし、弱い文脈をすくい上げ、企業にフィードバックし、プロダクトに生かしたり、テロワールを創出する。

いまはなくても、長い時間をかけて、話題を育て、必要なときに芽吹かせる。中期的にオーディエンスやコンテンツの繋がりを発酵させていくことは、インハウスでないと難しい取り組みです。


さて、最後に、実際にインハウスエディターに取り組んでみた上での気づきを少し紹介します。

実際にインハウスエディターに取り組んでみての意外な気づき

今回、「アウェイツーリズムマガジン」という公式noteマガジンを始めました。

もともと「スポーツを通じて日本を元気にする」という会社のミッションから始まり、「アウェイツーリズム」という楽しみ方を広めたいというアクションに落とし込まれたプロジェクトになります。

自社発信だけでなく、すでにアウェイツーリズムを書いているnoteクリエイターを紹介する取り組みでもあります。

強い文脈(自社コンテンツ)と弱い文脈(他の人のコンテンツ)をより合わせて、アウェイツーリズムという文化を盛り上げようというわけです。

創刊号noteを公開して、反応を見ていくなかで、いくつかの発見がありました。

  • リサーチで想定したよりもシェアされない

  • 読んだ方のエンゲージメント(好き率やRT数)は高い

  • 自分たちがとらえていた定義が、社会と少しずれていた発見

発信したことで、アウェイツーリズムは「事業者サイド」で語られる地方創生的な文脈と、「サポーターサイド」で語られる観光文脈の二つがあることがわかりました。

また、言葉も有識者の間では当然のように浸透している考え方でしたが、知らない人も多く、知っている人にとっても「自分の知っている言葉と違う」という反応が感じ取れました。

新しく「アウェイ沼」「アウェイ旅」というキーワードも発見できました。

こうした反響は、今後アウェイツーリズムの活動や地域活性の支援をしていく上で、サービスそのものへの重要なフィードバックになります。

インハウスエディターは、会社のなかの存在であり、事業や組織により近い存在でもあります。

企業内の考えや言語を発信し、フィードバックすることも、またインハウスエディターを持つ企業の大きな強みとなるのではないでしょうか?

🎄この記事は「インハウスエディターアドベントカレンダー 2021」22日目の記事でした!🎄


いつもサポートありがとうございます!サウナの後のフルーツ牛乳代か、プロテイン代にします。「まあ頑張れよ」という気持ちで奢ってもらえたら嬉しいです。感謝。