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【ミニ社長塾 第47講】会社のパーパスの「自分ごと化」を進めるときに注意したい話。

おつかれさまです。中小企業診断士の長谷川です。

今回、このミニ社長塾でお話ししたいテーマはパーパスです。

経営理念やミッション、ビジョンだけではなく、昨今は「パーパス」という言葉を耳にすることも少なくありません。どれも似たような言葉ではありますが、違いがありまして、経営理念はその会社における「価値観」や「(主に創業から大事にしている)考えや想い」を言語化しています。一方で、パーパスとは、その会社の「存在意義」を表す言葉です。

実は、弊社のビジョンは「中堅中小企業の『社長の最良の相談相手』として日本一になること」なのですが、近々パーパスをHPにて公開する予定です。弊社のパーパスは「『強くて愛される会社』を一社でも多く世に生み出す」です。

当然、経営理念やミッション・ビジョン、そしてパーパスがお題目になってしまっては意味がないので、いかに会社に根付かせるかが弊社でも考えているところです。皆様の会社でも様々な工夫をされているかと思います。

今回、ある企業の事例を用いて書いていきます。どうぞ、最後までよろしくお願いいたします。


1.SOMPOのパーパス経営に見る進め方の事例

ある企業とは「SOMPOホールディングス」です。昨今のビッグモーターの件で話題にあがっていますが、実はSOMPOさんのパーパスの事例は非常に注目されているそうです。今回は、下記の記事を引用しながら紹介していきます。

パーパスとは、その会社の「存在意義」を表す言葉です。これを考える上で自社の歴史を知ることはとても大切なことです。SOMPOさんの場合は1887年の創業時を振り返り、どのような時代だったのかやどういう社会的な課題があったのか、といったことを見直されました。その結果、世の中に「安心・安全・健康」を届けるという志を確認し、『安心・安全・健康のテーマパーク』というパーパスが生み出されました。

次に、このパーパスをどのように社内に浸透させていくのか、という話です。SOMPOさんのパーパスをもう少し具体的に説明すると、次のようになります。

「安心・安全・健康のテーマパーク」とは、具体的にどのようなことを指すのか。それは「あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことができる社会の実現」であると原氏は言う。創業時の火事という社会問題に対しては火災保険を提供した。昭和30年代のモータリゼーションによる交通事故の激増には、自動車保険で対応した。このように、時代の変化に伴って現れるリスクに対し有効な解を提供して、社会に貢献していくこと。これがSOMPOの創業以来の精神であり、現在も事業推進の根幹となっている。

出典:「SOMPOの「MYパーパス」を追求した働き方改革」Japan Innovation Review.2022.10.11

パーパスが具体化された後、同社が次に行った取り組みは「社員一人一人がパーパスを『自分ごと化』させる」ということです。そのためには、まず「自分の人生を最重要に考え、そこに会社という1つの要素がある」という考え方へ意識を変化させることが必要だそうです。これが、パーパスを自分ごと化させるためのスタート地点、と語られています。

自分の人生と会社との関係性が整理されてから、はじめて「自分ごと化」が進みます。そこで必要となるのが「MYパーパス」です。どういうことかと言いますと……

MYパーパスとは人生において自らを突き動かすもの、自分はどうありたいのかという思いや人生における使命のことである。同社の社員はMYパーパスを自覚するために、「WANT(内発的動機)」「MUST(社会的責務)」「CAN(保有能力)」という3つの観点から自分自身と向き合うことが求められている。

「WANT」とは最もワクワクした瞬間、「MUST」とは解決すべき社会課題、そして「CAN」とは、これまでの経験を経て身につけた能力(運命が与えた能力)のことである。これら3つが重なり合ったものがMYパーパスであり、それは自分の人生で成し遂げたいことと重なっていく。

出典:「SOMPOの「MYパーパス」を追求した働き方改革」Japan Innovation Review.2022.10.11

つまり、自分自身のパーパスを言語化し、それを会社のパーパスを重ねていくことにより「自分ごと化」が進んでいく、ということです。非常にシンプルかつ論理的な進め方で、読んでいて「なるほどなぁ」と思いました。

2.MYパーパスを追求できるのか

パーパスの浸透を進めていくにあたり、具体的に次の3つの取り組みが行われているようです。

1.トップの発信(タウンホールミーティング)
2.現場の取り組み(MYパーパス1 on 1)
3.浸透の測定(エンゲージメントサーベイ)

出典:「SOMPOの「MYパーパス」を追求した働き方改革」Japan Innovation Review.2022.10.11

それぞれの取り組み内容については、冒頭の記事を参照いただきたいのですが、社長塾を通して色々な中小企業を訪問させていただく中で、今回の事例を参考とするのであれば、まず課題としては「そもそも社員の全員がMYパーパスを追求できるのか」ということがあるなと思います。これについては、原理原則である「マズローの五段階欲求説」に基づいて考えていきます。

MYパーパスとは「WANT(内発的動機)」「MUST(社会的責務)」「CAN(保有能力)」の3つの観点から整理検討されるものですが、この3つのいずれもが高次の欲求(承認欲求、自己実現の欲求)に当てはまります。

「マズローの五段階欲求説」では、低次の欲求が満たされなければ次の段階(高次の欲求)に進むことはできません。したがいまして、MYパーパスを考えるためには、生理的欲求や安全の欲求、社会的欲求といったものが十分であることが求められます。社員の目線でいうと、例えば給料の高さや休日が取れているか、働く環境が整っているかといったことです。

SOMPOさんは、2022年度の平均給与ランキングで上場企業全体で69位、保険業界で2位です。また、「女性が活躍する会社BEST100」で総合ランキング4位に入っているので、低次の欲求については十分だと拝察されます。低次の欲求が満たされているからこそ、高次の欲求に目を向けることができますし、「MYパーパスを追求する」ことができていると言えます。

https://www.sompo-japan.co.jp/-/media/SJNK/files/topics/2023/20230508_1.pdf?la=ja-JP

また、承認欲求や自己実現の欲求に対しても注意が必要です。といいますのも、これらは目線が自分に向いているからです。会社のパーパスはその性質上、目線が「外」に向いているものがほとんどです。

さらに、利他的な面に対してどのようにアプローチしていくのか、MYパーパスとどのように重ね合わせていくのか。このあたりを「トップの発信(タウンホールミーティング)」「現場の取り組み(MYパーパス1 on 1)」「浸透の測定(エンゲージメントサーベイ)」という3つの取り組みでフォローしていく意図がSOMPOさんの事例では伺えます。

※しかしながら、今回のビッグモーターの件では、傘下の損害保険ジャパンから多数の出向者をビッグモーターに出しており、保険金請求について不正の可能性があるという情報を得ていながら保険の取り扱いを再開していたといったということです。

「安心・安全・健康のテーマパーク」というパーパスを浸透、自分ごと化させていくにあたり、(企業規模の点もありますが)難しさを実感した事案でもありました……。

今回の記事は『会社のパーパスを「自分ごと化」させるときに注意したい話。』ということで記事を書きました。

そもそも働く環境づくりの面でもそうですし、利他と利己の面もあります。「強くて愛される会社」と呼ばれる会社に訪問させていただくと、理念の浸透には社内研修や面談などで常に時間を取り、気を配られている様子が伺えます。

別の切り口で、理念やパーパスといったものの浸透には5つのステップがある、という話も最後にご紹介させていただきます。また次回のミニ社長塾もどうぞよろしくお願いいたします。

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