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【ミニ社長塾 第49講】採用もそうですけど、離職にも目を向けてみませんか…? 

おつかれさまです。中小企業診断士の長谷川です。

今回のミニ社長塾は気になる記事を見かけたので、そちらについて色々と書いていこうと思います。その記事とはコチラ↓


1.「ホワイト離職」ってなんだろう…?

記事にもあるように、「働き方改革」により「働きやすさ」や「やりがい」といったことを意識した取り組みを進めた結果、仕事や職場が「ゆるい」、また「このままじゃ成長できない」と危機感を感じて会社を辞めるという現象のことを「ホワイト離職」と呼ぶそうです。

記事の中では2018年のデータを用いていますが、こちらでは総合求人サイト「エン転職」が2022年に行った1万人アンケート結果を見ていきます。

このアンケートでは表向きの「会社に伝えた退職理由」と本音の「本当の退職理由」について示されています。今回は、ホワイト離職について見ていきたいので、まずは後者の結果から見ていきます。

多い順にみていくと、「職場の人間関係が悪い」「給与が低い」「会社の将来性に不安を感じた」「社風・風土が合わない」「評価・人事制度に不満があった」が上位5つになります。ホワイト離職という視点で見ると、3つ目の「会社の将来性に不安を感じた」、4つ目の「社風・風土が合わない」といったところが当てはまります。

そもそも、ホワイト離職の理由としてあげられるものは、マズローの5段階欲求説で言うところの高次の欲求(自己実現欲求)です。その前に低次の欲求である「職場の人間関係が悪い」「給与が低い」といったことが解消されていなければ通常は発生しないものです。そのため、「職場の人間関係が悪い」「給与が低い」という2つの理由の方が多いので、このアンケート結果にはある程度の”確からしさ”を感じます。

また、「会社に伝えた退職理由」の方では、上から5つの理由を見てみると「新しい職種にチャレンジしたいため」「別の業界にチャレンジしたいため」「結婚などの家庭の事情のため」「給与が低い」「職場の人間関係が悪い」となっています。上位2つは退職者の成長意欲を感じさせるもので、ここだけ切り取ると確かに「ホワイト離職」が多いものと思ってしまいます。

「会社に伝えた退職理由」と「本当の退職理由」での違いについて、アンケートの別の設問を見ると「円満退社したかったから」や「話しても理解してもらえないと思ったから」という回答が多かったです。私も転職経験があるので、これらの回答に納得感がありました。

一方、今回取り上げた記事の中で紹介されているデータのなかで興味深いのは「あなたは現在働いている会社・組織で今後、どのくらい働き続けたいですか」というアンケートです。「ゆるいと感じる」人と「ゆるいと感じない」人とで「すぐにでも退職したい」「2~3年は働き続けたい」の合計値はほぼ一緒(なんだったら「5年は働き続けたい」まで含めてもほぼ同じ)なのですが、「すぐにでも退職したい」という意向は「ゆるいと感じない」人の方が「ゆるいと感じる」人の2倍多い結果でした。

このような情報を見ていくと、記事のタイトルにあるように「『ホワイトすぎて』退職って本当?」って思います。

2.心理的安全性に過敏になりすぎない

とはいえ、ホワイトな環境を求職者が求めているのはその通りで、下記は「2023年卒の就活生の企業選び」に関するアンケート結果です。

このアンケートによると、上位から「働きやすさ」「仕事のやりがい」「福利厚生の充実」「企業理念やビジョンに共感できること」「会社の安定性」でした。同じテーマでの他のアンケートを見ると「社会貢献」に対する項目が上位に入っているものもありました。給与や福利厚生の面は備わっていると思いきや、入社すると不満に思うことがあり離職に繋がっている、と考えることも出来そうです。

一方で、このような結果と併せて、よく見かける言葉が「心理的安全性」です。この言葉が登場して以降、特に「働きやすさ」「仕事のやりがい」といったところに焦点が当たるようになりました。しかしながら、「働きやすさ」や「やりがい」というものは副次的に発生するもので、基本的には目的ではないと私は考えています。目的は、あくまでも「目標達成」のはずです。

目標を達成するための試行錯誤のうえに「働きやすい」環境が生まれますし、目標達成することや結果としてお客様や仲間からかけられる言葉により「やりがい」を感じます。スポーツでもそうで、勝ち続けるチームはチーム内の雰囲気はスゴク良いですが、負けが込んでくるとチームの中で負けの理由を探し出す…。雰囲気は言わずもがな。昔から「勝ち馬に乗る」という言葉もあるくらいです。

目標達成し続ける状態=ちゃんと本業で利益を上げられている状態でなければ、「働きやすさ」や「やりがい」というものは正しく発生しないものだと思います。しかし、心理的安全性に過敏に反応し過ぎているが故に、その順番は逆になり、結果として「手段の目的化」のような状況になっているのでは、と思う会社や組織を見ることも少なくありません。

少し話が変わりますが、私がプログラムディレクターを務めている「社長塾」では、受講生それぞれで自社の経営計画をつくっていただいています。その経営計画のプレゼンが今週末に行われます。自社の10年後を意識した計画をお話しいただくのですが、前もって拝見させていただいた資料を見ていると「良いな」と思いました。その理由は、まず「会社を強くすること」を真正面に描いてから、「会社が愛される」ためにどうするかという順番で書かれていたからです。

計画のはじめから「社員が輝く職場にするには」や「社員がイキイキと過ごせるように」といったことが書けるのは、ビジネスモデルや財務状況がある程度しっかりしている会社です。ただし、「働きやすさ」のなかの例えば会社内の風通しのよさや何でも言い合える雰囲気といったもの(安全欲求、社会的欲求)は最低限担保すべきです。どこまではクリアしておかなければいけなくて、どれを優先順位高めで取り組むべきか、ということを一度整理しておいてはいかがでしょうか? そうでなければ、時代の動きに振り回されてしまうことになりかねません。

3.やめるかどうかの理由はシンプルに「ここにいたいかどうか」

ベストセラーの「リーダーの仮面」や「数値化の鬼」の著者、株式会社識学の安藤広大氏の著書「とにかく仕組み化」で示されている話をご紹介させていただきます。

※要約はコチラのサイトが良かったです。

会社の成果を再現性を高めて上げ続けていくために「仕組み化」に力を入れる必要がある、という話なのですが、「仕組み化」の対になる言葉が「属人化」です。いわゆる、仕事が人についている状態、というものですね。

なぜ属人化するか? というと、結論「自分のポジションを守りたいから」です。「自分は会社にとって替えが効かない存在だ」としてしまうことにより居場所をつくるわけです。その方が安心できますからね。

ところが、属人化により不平等が発生してしまいます。「あの人よりも頑張っているのに、何で給料が…」など。評価制度などが十分でなければブラックボックス化してしまっているので余計に不満がたまります。その結果、離職が発生してしまいます。

離職を抑えるためには、この書籍で書かれている「仕組み化」の5つのプロセスのすべてを押さえることなのですが、特に「企業理念」と「進行感」という危機馴染みのない言葉を見てみます。この2つはセットで、企業理念の実現に近づいている感じがあるということを「進行感」という言葉で示されています。企業理念に共感を持っている社員にとって、「進行感」は非常に大きな意味を持ちます。なぜならば、企業理念の実現こそが、ここ(=この会社)にいたいと思うことの大きな理由になるからです。また、企業理念を持つことも「仕組み化」の大きな要素です。企業理念は自社の存在意義であり、会社が行う意思決定の判断基準の一つだからです。

今回の記事をまとめますと、

仕事や職場が「ゆるい」、また「このままじゃ成長できない」と危機感を感じて会社を辞めるという「ホワイト離職」が増えているというが、本音の部分では「職場の人間関係が悪い」「給与が低い」という安全欲求や社会的欲求の面が多い。

・求職者は安全欲求や社会的欲求の面は当たり前と思い、自己実現欲求の面に焦点が当たっている。このギャップが離職を引き起こす要因かもしれない。

・心理的安全性にとらわれすぎると、目的を見失ってしまう。ちゃんと本業で利益を上げられている状態でなければ、「働きやすさ」や「やりがい」というものは正しく発生しない

・離職の要因の一つは属人化による不平等と考えられる。

・「ここにいたい」と思ってもらうために、企業理念への共感とそこに社員全員で向かっているという「進行感」という視点は押さえておいた方が良い。

今回は『採用もそうですけど、離職にも目を向けてみませんか…?』ということについて記事を書きました。また次回のミニ社長塾もどうぞよろしくお願いいたします。

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