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【ミニ社長塾 第36講】成長するための戦略策定。

おつかれさまです。
中小企業診断士で、社長の後継者に【徹底伴走】するコンサルタントの長谷川です。

今週末の社長塾は、第20期の「価値創造計画の策定実習」ということで、2日間かけて自社の将来を描く研修を行います。ここから先は「答えは自分の中」にしかなくて、それを実現したい! と強く想い願っている人から計画が仕上がっていく印象があります。

近くで伴走していると「経営者の覚悟が決まったな」と感じる瞬間があって、それがこの2日間の時間に凝縮されているように私は思っています。

そんな研修を控えているところで、今回のテーマは【成長するための戦略策定。】です。2023年版の中小企業白書を読んでおり、ところどころお伝えしたい情報がありましたので、概略をまとめてみました。

※ちなみに情報量が多いので、何回かに分けて記事にしていこうと思います。全文は下記サイトからご確認いただけます。

価値創造計画の検討や見直しの参考になると思いますので、第36講のミニ社長塾も、どうぞよろしくお願いいたします!

1.戦略策定で外してはいけないポイント

「敵を知り、己を知れば、百戦して殆うからず」という孫子の兵法にもありますように、戦略策定のはじめに行うことは「環境分析」です。この環境分析に対して、「ターゲットとなる市場の分析(外部環境分析)」と「自社の経営資源に対する分析(内部環境分析)」の2つがあります。

この2つはどちらとも行っていただきたくて、「成長企業※」の8~9割がどちらも行っています。

※(株)帝国データバンク「中小企業の成長に向けたマネジメントと企業行動に関する調査」より、2020年~2021 年の売上高が2期連続で増収しているなど、感染症下においても成長している企業を「成長企業」として定義しています。

まずは「ターゲットとなる市場の分析」から話を進めていきます。どのように進めていくかについては「経営戦略策定時に、ターゲットとする市場の分析を進めた際の視点」についてのデータを見てみます。

中小企業白書2023年版 第 2-1-8 図 / 経営戦略策定時に、ターゲットとする市場の分析を進めた際 の視点

これによると、「ターゲットとする顧客の特徴」が最も多く、次に「競合他社の製品・商品・サービスの特徴や参入動向」、「市場に影響を与える外部の政治的・経済的・社会的・技術的同行」となっています。

分析手法で言うと「3C分析」「PEST分析」「5フォース分析」といったものが使われています。調査結果で見ると、3C分析は過半数の企業は行っているけれども、PEST分析は3割程度、5フォース分析に至っては1~2割程度のようです。

環境分析の結果を踏まえて、「競合他社が多い市場」と「競合他社が少ない市場」のどちらの市場にするかを選ばないといけないのですが、「競合他社が少ない市場」を選んだ方が企業の成長につながる可能性が示唆されています。

中小企業白書2023年版 第 2-1-10 図 / 経営戦略策定時に選定した市場の特徴別に見た、売上高増加率と付加価値額増加率の水準(中央値)

ただし、「競合他社が多い市場」を選んだからと言って成長できないわけではなく、「非効率な部分を標準化して効率化することで、競争優位に立つ」といったことにより付加価値額増加率の水準が高いことが調査結果により確認できています。

中小企業白書2023年版 第 2-1-12 図 / 競合他社が多い市場を選定した理由別に見た、付加価値額増加率の水準(中央値)

また、戦略策定を進める上で、「誰に、何を、どのように」という切り口は非常に大事です。よく言われる戦略と戦術の違いは、戦略は「あり方」で戦術は「やり方」としていただくと伝わると思います。

ですので、「あり方」はある程度ではなくて、
「ターゲットとする顧客を具体的にイメージする」
「ターゲットとする顧客に届ける価値を明確にする」
「ターゲットとする顧客に対してどのように価値を届けるかを明確にする」
と十分に検討される方が、「やり方」を具体的にしていくうえでは得策と思います。

そして、選んだ市場にリソースをかけるために「自社の経営資源に対する分析」を行うわけなのですが、他社が保有していない(差別化、独自化できる)強みを経営戦略を実行した際に活用したのは成長企業の約3割であることが調査結果により分かりました。

中小企業白書2023年版 第 2-1-15 図 / 経営戦略を実行した際に活用した、経営資源の強み

また、経営戦略の実行時に他社が保有していない経営資源を活用した企業は、活用しなかった企業と比較して、売上高増加率の水準にはそれほど大きな差は見られなかったものの、「誰に、何を、どのように」を明確にすると売上高増加率の水準に差が見られました

中小企業白書2023年版 第 2-1-17 図 / 経営戦略策定時の工夫・取組別に見た、売上高増加率の水準(中央値)

以上のことを整理しますと、次の通りです。

・環境分析は、「ターゲットとなる市場の分析(外部環境分析)」と「自社の経営資源に対する分析(内部環境分析)」のどちらも行いましょう。
・市場選択は「競合の少ない市場」を選んだ方が良いです。
・「誰に、何を、どのように」を明確にすることは戦略策定では鉄則。
・成長企業のすべてが、他社と差別化・独自化できているわけではない。

2.成長するためにどういう戦略を取るべきか

戦略を検討する上で有名なフレームワークは「アンゾフの成長マトリクス」です。田の字に「新規」と「既存」で「市場」と「商品・サービス」を分けて整理するものです。

中小企業白書2023年版 第 2-1-18 図 / 既存事業拡大と新規事業創出の概念図

これを見て思われたと思うのですが、ほとんどが「新規事業」です。ですので、成長していくためには「新規事業を頑張らないといけない!」と思われるかもしれないのですが、実は成長企業の約6割が既存事業拡大に取り組んでおられ、新規事業創出に取り組んだ企業は約5割でした。新規事業創出は既存事業拡大と比較して不確実性が高いので、まずは土台となる既存事業での利益創出が基本です。

中小企業白書2023年版 第 2-1-19 図 / 直近10年間における既存事業拡大と新規事業創出の取組状況

そのうえで、新規事業創出を成功させるために必要な工夫・取組を2つ紹介します。

①既存事業の足下の業績が好調なうちに新規事業創出の取り組みを開始する

「新規事業創出を開始した際の、既存事業の業績」についての調査結果をみますと、足元の業績が好調な企業は7割以上となっています。博打的に新規事業に取り組むのではなく、余力のあるうちに(または、余力をつくってから)取り組んだ方が成功しやすいということが示唆されています。

中小企業白書2023年版 第 2-1-21 図 / 新規事業創出を開始した際の、既存事業の業績

②既存事業で培った経営資源を活用しながら、新規事業創出に取り組む

繰り返しになりますが、新規事業創出は既存事業拡大と比較して不確実性が高いです。新規事業を成功させるためには、不確実性を取り除いていく必要があり、その一つが経営資源をどうするかです。既存事業で培った経営資源の活用状況を見てみると、約9割の方が「大いに活用した」、「ある程度活用した」と回答されています。

中小企業白書2023年版 第 2-1-23 図 / 新規事業創出に取り組んだ際の、既存事業で培った経営資源の活用状況

以上のことから、企業を成長させるためには新規事業に取り組む必要があるとは考えるものの、その前に既存事業の拡大が優先と考えられます。既存事業が好調であるのであれば、新規事業創出の取り組みタイミングで、全くゼロベースで始めるのではなく、既存事業で培った経営資源を活用するなど、不確実性の高い要素を取り除いていくことが、新規事業の成功に繋がっていることが示唆されています。

3.自社分析するためのツールをご紹介

最後は、社長塾で実際に使っている環境分析のツールをご紹介させていただきます。

①PEST分析

外部環境を政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4つの要因に分類し、自社に与える影響を整理していく分析手法です。

②5フォース分析

競争業者、供給業者、買い手、新規参入者、代替品の5つについて、競合各社や業界全体の状況と収益構造を整理していくためのマーケティングのフレームワークの一つです。社長塾でお伝えしている「池クジラ」をつくり上げる上で、この5つとも自社が優位な状態であることが重要な要素となります。

③STP分析

セグメンテーション(市場細分化)、ターゲティング(狙う市場の決定)、ポジショニング(自社の立ち位置の明確化)で自社の商品・サービスを整理していくためのマーケティングのフレームワークの一つです。重要なポイントは「顧客目線」です。客観的に整理していきましょう。

④4P分析

これもマーケティングのフレームワークの一つで、Product(製品・サービス)、Price(価格)、Place(販売場所・提供方法)、Promotion(販促活動)の4つの視点で整理していきます。

⑤バリューチェーン

製品の製造や販売、それを支える技術開発や情報システム、経営管理など、すべての活動を価値の連鎖として捉える考え方です。社長塾では、各項目を「強み」「弱み」に整理して、お客様が考える価値に程度を付けて捉えています。

⑥SWOT分析

①~⑤まで行ってきまして、それらの情報を強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4つの要素で要因分析をします。

上記①~⑥をもとに、「クロスSWOT」として「強み×機会➡積極策」や「弱み×脅威➡致命傷回避策」など検討し、戦略策定に使うことができます。

今回の記事は「成長するための戦略策定。」と題して、主に戦略策定についての話をさせていただきました。社長塾を受講中で計画策定を進めている方、あるいは修了された方のどちらにとっても戦略を見直していただく機会となれば幸いです。

次回の【ミニ社長塾】も、どうぞよろしくお願いいたします。

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