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身体の基本構造の探究〜アキレス腱のバネ機構〜



writer:田所剛之
土佐94→東大理一/東京大学ア式蹴球部学生コーチ兼フィジカルコーチ



前回の記事は、初投稿ながら多くの方にお読み頂けて大変嬉しく思っております。

誠にありがとうございます。

今回の記事の内容は前回の記事と関わっているので、まだお読みでない方はぜひこちらもお読みください。



さて、今回の記事では、前回の記事で取り上げたHOPトレーニングについてより深く考察していく過程で経た、3段階の考察を順番に紹介し、僕の思考の流れを辿りながらアキレス腱のバネ機構についての理解を深めていくことを目標に据えて進めていきたいと思います。



1.前回の考察 アキレス腱=バネ

まずは、前回の記事にも掲載した動画をもう一度見てみましょう。

動画の左側がトレーニングを受ける前、右側が受けた後です。

前回の記事では、この2つのHOPの違いは踵を地面につけているか否かにあるとし、踵をつけることで撃力としての地面反力が直接アキレス腱に作用し、アキレス腱が短縮した後、伸長方向に力発揮するという説明をしました。(下図参照)


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これはアキレス腱を一本のバネと見て良い場合にはそこそこ説得力を持った説明になっているでしょう。

しかし、前回の記事を出した後、アキレス腱について色々調べてみたものの、アキレス腱が短縮位から伸長方向に力発揮をするというケースを発見することはできませんでした。アキレス腱が伸長位でのみ力発揮をするならば、アキレス腱を一本のバネとした仮定が間違っていたことになり、それに続く僕の説明も完全に間違っていたことになります。



2.SSC運動


やっちまったな〜と思いつつ、新しい説明をつけるために自分のHOPの動画を擦り切れるほど見ました。

注意深く見てみると、最初に接地しているのは爪先でその後足裏全体(踵まで)がつき、踵が勢いよく浮いて最後に爪先が離れていくような形になっています。そして、体が浮いた後は足関節が大きく底屈しています。

足関節が底屈しているということは下腿三頭筋が収縮しているということです。前回の考察においては、接地直前に下腿三頭筋は収縮せず、アキレス腱のバネは自然長を保ったままの状態であるとしていました。

しかし、この動画を詳しく見る限り、下腿三頭筋の活動も考慮に入れなければなりません。具体的には、下腿三頭筋は踵が離地する瞬間から一気に収縮しており、HOPの最高点から落ちる間に伸張されて足関節が背屈されています。

これは、典型的なSSC(Stretch-Shortening Cycle)運動であると言えます。最初爪先が接地してから踵が地面に着くまでの間、アキレス腱、下腿三頭筋が伸張され、アキレス腱では弾性エネルギーの蓄積、下腿三頭筋では伸張反射が起こります。その後、アキレス腱の短縮方向への力発揮、下腿三頭筋の収縮が同時に起こり、足関節を強力に底屈させるのです。

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実際に上の動画で接地後の踵の浮き上がり方を見ていると、SSC運動の強力さを実感できるはずです。

前回の記事でのミスを訂正しようとした結果、SSC運動というなんともありきたりな結論に至ってしまいました。しかし、もちろん僕の考察はこんなところでは止まりません笑

さらに考察を深めていきましょう。

SSC運動の遂行能力を向上させるトレーニングとしてプライオメトリクストレーニングが挙げられます。いくつかのサイトでプライオメトリクストレーニングのやり方を調べた限りでは、どのサイトにも接地時間を短くすること、膝を曲げないことくらいしかポイントが書かれておらず、踵を接地させるか否かについて言及しているものはありませんでした。

しかし、僕が受けたsunnyさんのトレーニングでは踵を接地させることをとにかく意識しましたし、実際踵をつける方が軽く高く飛べたので、踵を接地することは重要なポイントであると考えられます。

踵を接地することのメリットを基本的な物理の知識を用いて考えてみましょう。 

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まず踵を接地しない場合、爪先が接地した後、下腿三頭筋の収縮により踵を鉛直上方へ引っ張り上げる力が作用し、踵の持つ速度が0になった後に、速度0の状態から踵の引き上げを再開しています。

一方、踵を接地する場合、爪先接地後、踵は鉛直上方への力を受け多少は減速しつつも速度を持ったまま地面にぶつかります。地面と踵の反発係数がいくつかなんてことは分かりませんが、反発係数eとすると踵は地面にぶつかる直前の速さのe倍の速さで鉛直上向きに動くことになります。

ここで、まず弾性エネルギーを比較してみましょう。踵を接地しなかった場合、速度0になった切り返しの位置は地面より上にあり、踵を接地した場合は切り返しの位置は地面の位置になるので、アキレス腱のバネは踵を接地した場合の方が伸びていると考えられます。よって、弾性エネルギーは踵を接地した場合の方が多く蓄えられると考えられるでしょう。

続いて、切り替わり時点での運動エネルギーは踵を接地しなかった場合で0、踵を接地した場合では正の値(m(ev)^2/2)を取ります。

以上より、切り返し時点での力学的エネルギー(弾性エネルギー+運動エネルギー)を比較すると、踵を接地した場合の方が高くなると考えられ、この力学的エネルギーがHOPに利用されると考えると踵を接地した方が高く跳べると考えられます。

正確には、この後さらに下腿三頭筋の力発揮が仕事をすることが考えられますが、踵を接地した場合の方が下腿三頭筋が大きく伸長するため、伸張反射により発揮する筋力が大きく、その筋力により動く踵の距離も長くなるので、下腿三頭筋がする仕事は踵を接地した場合の方が大きくなると考えられ、やはり踵を接地した方が高く跳べると考えられます。

これで、HOPにおいてどのようにアキレス腱を利用しているのか、なぜ踵をつけるべきなのかといった部分が解明された気分になりました。

こんな簡単なことだったのかと思いつつ、何気なく太田潤さんの動画を見てみるとそこには驚きの光景が・・・

なんと太田さんは足関節を全く底屈させずにHOPトレーニングをしていたのです。

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