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【書評】楽じゃないわ!とツッコミをありがとう『イルカも泳ぐわい』(Aマッソ・加納愛子)

私は大食い動画やゲーム実況を見るのが好きなのだけど、ときどき気になるコメントがある。

「ご飯食べてるところ撮って流してるだけでお金もらえていいですね」
「ゲームをプレイしている動画を流しているだけで稼げて楽な仕事ですね」

こんなようなコメントを見かけたことがあって、モヤモヤしていた。
楽な仕事なわけないだろう!
どんなご飯を食べるか?
どんなゲームをするか?
どこをカットするのか?
テロップはどう付けるか?
悩みながら動画を撮影し、編集しているのだ。
遊んでいるように見えて、YouTuberって本当に大変な仕事だと思っている。

私自身も、本を読んで書評を書いたり、キュレーション記事を書いていると、ときどきこんな言葉に会うことがある。
「本を読んで感想を書くだけでお金もらえていいですね」という言葉。
厳密に言えば感想と書評はちがうのだけど、そんなに楽に見えているのだろうか。
本を読んで、文章を書く仕事が。
遊んでいるように見えているのだろうか?

YouTuberさんと一緒で、書評家さんも本を読みながらどこの部分を切り取るか、どこの部分のセリフや文章を記事に使うか、引っかかるところはどこか?とかを考えながら読んでいる。
仕事なんだよ。それが。
娯楽としての読書を、仕事にしているんだよ。
そうやってずっとモヤモヤしていたのだけど、このエッセイを読んでスカッとした言葉に出会った。

「大きくなったら私も絶対にこんなふうに作品つくる~遊んでるみたいに見える仕事する~」

「イルカも泳ぐわい」より

これは著者が幼いころに見た、セミ・ドキュメンタリー映画「おちゃめなドラゴン」を見て思ったことだ。
芸人の仕事を遊びだとはとても思えないけれど、著者はこの映画を見て芸人を志したそう。
この「遊んでるみたいに見える仕事する」ってすごくいい言葉だ。
端から見れば「こいつこんなんで収入得てんのか!?むかつく!」と思われるほど楽しく仕事をするって、大事だと思う。
楽しくというのは決して「楽をする」ということじゃない。
やりがいとか、目標とか、向上心とか、そういうものを持って臨める仕事が「楽しい」ってことなんだと私は思う。

作品を書いてるわけでもなく、プロの小説家さんが書いている作品をいかに興味をもってもらえるかの文章を書くことを生業にしている身の私は、どこかで「本を読んで感想(書評)を書くことが仕事」ということが端からどう見えるかを気にしていた。
もちろん遊んでいるつもりはまったくなくて、真剣に読んで、真剣に悩んで書評を書いてるのだけど、「どうせ感想でしょ?」という意見を見ることもある。
身も蓋もない言葉を目にすると、落ち込む。
けれど、著者の言葉を見て思った。

「遊んでるように見える?楽そうに見える?いいでしょ、こんな仕事ができて」

次に「本の感想を書いてお金をもらえるなんていいね」と言われたら、こうやって言い返してやろう。

芸人というまったく違う分野の仕事をする著者に、自分の仕事を肯定してらえた気がする。
これからも楽しそうに仕事をしてやろう。

はるう






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