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『バンオウ-盤王-』第66話「軌跡」感想 吸血鬼が羨むは、限りある命で描かれる人間賛歌


◆無我夢中

5月24日(金)に『バンオウ-盤王-』の最新第66話が配信された。クライマックスに向けてか今週は超大増29ページ!それなら残り2話も尺一杯描けるかもしれない。

「いいところだからちょっと」というぼくにもあるある光景。月山さんも新堂竜王もそろそろ腹を空かせる頃合いになってきたのだろうか。

料理ふたりでやっているのかよ!この夫婦微笑ましいな!伊津先生は最初から料理できるのか、それとも奥さんに教えてもらったりするのか、色々想像が捗る。休日担当、か。何か大盤振る舞いしたくなる料理でも作っているのだろうか。

奥さんはこれまで辛辣な印象があったのだけれど、今回ばかりは旦那さんが空腹に打ち勝つまで将棋に見入っていることに理解してくれていると良い奥さんだなあと嬉しくなれる。これもあるあるな描写なのだが、空腹を抑えてまでこれだとこっちが作ってあげたくなるよなあ。

◆300年分の将棋

新堂竜王の表情がすごい…
ついに持ち時間が切れ、汗が流れ落ち、目にハイライトが失いつつあり、今にでも気絶してもおかしくない様子だった。将棋が如何に過酷な競技であるかをわれわれにわからせてくれる。疲労困憊余裕だろこれ…

月山さん本気か!?本当にこれで最初で最後なんだと誓う覚悟なのか!?前々から何度も繰り返すように何度でも続けてほしいが、いやしかし逆に考えるんだ。これが本気の最後なつもりで悔いなく終局を迎えさせると考えるんだ。
それにしても同じく持ち時間を使い切っているとクライマックス感がヤバイ。竜王戦はラストバトルだけあって長い尺を要していたが、気が付けばもうそろそろなんだなあ…いやでもこれあくまで1局目なんですけどね。だが残り2話だ。

大胆な告白みたいだ!!
実際300年もの将棋を愛し続けてきたからな月山さん。それを竜王戦という大舞台でぶつけられるなら、そりゃあやりたくなるよな。けどモノローグとはいえクソデカ感情すぎるよ!全然やっちゃってもいいけど!

将棋の面白さを体現する」はめちゃくちゃ共感力が高かった。何故ならぼくは本作第1話で「時代が進むにつれて戦法の流行が変わっていく」という件で刺さっていたからだ。そこに将棋の面白さをわからせられていた。9×9のマスの盤上でまだまだ遊べる。300年もの間、棋士を続けてきた月山さんなら面白さを体現化できていい説得力は十分あっていい。

なんだかTRIGGERアニメっぽいノリだ!
いやすべて網羅しているわけじゃないし、仮に映像化しても本作のような基本「静」を強調した作品を得意とするアニメ会社ではないと思うのだが、こういうゲキアツな感情のぶつけあいにはTRIGGERみを感じずにはいられなかった。

持ち時間なしの一分将棋。だが根津先生に「寸分の狂いもない」「美しい将棋だ」と評されるのは相当なものだろう。盤面が具体的にどうなっているかはわからないが、本能で戦っているのは伝わってくる。

◆お兄ちゃん

きれいなお兄ちゃんだー!!
もうこの前から会場入りはあきらめたのか賢者タイムに突入してたみたいですけど、なにこのギャグ要素皆無なきれいなお兄ちゃん!?後方お兄ちゃんすぎて、いやでもこういうクライマックスはこんなリアクションが正しい判断だよなあ。茶化すほうがアレだもんなあ。「楽しそうだな」と微笑ましくなっているのがうれしくなっちゃうわけですよ。

今まで勝手に兄を自称しててふざけまくっていたけど、これはまさにお兄ちゃんの姿として完成された瞬間だと断言したい。

◆人間賛歌

アマチュアが竜王に挑むというシチュはこの先あるかもしれない。が、この闘いそのもの、そしてこの興奮を超えられるものは果たして存在するだろうか?かなりハードルが高いかもしれない。300年将棋を愛し続けてきた月山さんだからこそ実現できた唯一性があった。

月山さん、あなた素敵な主人公だよ…!
こうやって吸血鬼が人間に敬意を表すのって大好きなんですよねー…老い衰える運命、有限な一生を授かった人間だからこそ戦うの、マジ人間賛歌ですわ。これを月山さんが語るのが実に尊い。そして切ない。
たとえば数十年前に尊敬する棋士が命尽き果て惜しくもこの世を去ってしまったケースがあったと想像できる。訃報を知ってブラウン管TVに見入り、新聞を握りしめる月山さんの姿が想像できてしまう。事実かはさておき、そういう拡張性がぼくの中で自然と生み出されたんだよな。そしてそれはこれからの未来もなのだろう。

月山さん…あなたこの満足した表情、まさか、やり切ったというのか………!?

まじかああああああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

まさかの敗北。いや勝っても負けてもおかしくないんだけども。
繰り返すようにこれはまだ第1局に過ぎないのだが、残り2話だし、実はここから逆転勝利できましたーってオチは立つ鳥跡を濁す作劇なのは否めない。
月山さんはこの第1局から燃え尽きるようにすべてやりきって満足できた、そう解釈したい。2局目以降はどうするのかは、ダイジェストになるか、棄権となるか。つーか月山さん真っ白に燃え尽きそうなんだよなあ。今暫くは余韻を味わってほしいけども。

綺麗な決着だったし、良い最終回だった(最終回はあと2回あると思うの)のだけれど、やっぱり敗北はショックだ…月山さんがこの漫画で一番推せる人にして基本敗北は有り得ない主人公だからこそ、余計におつらい。

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