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『バンオウ-盤王-』第49話「最強の棋士」感想 勝利へ執着する葛藤描写が秀逸 ぼくは既に七島名人のことが好きなようだ


◆ホンマでっかTVで特集されました

12月22日(金)に『バンオウ-盤王-』の最新第49話が配信された。

めでたいですねえ!!

1:40から6分くらい川島さんが巧くプレゼンしてくれてるのでオススメです。時折茶化すような他の芸人のギャグが受け付けられなかったけど、まあ軽く流しとこう。

◆悲しい過去

本編は七島名人がスランプに至る数年前の回想からはじまる。世間では新堂竜王に注目され、七島名人は所謂オワコン扱いされてしまっている。当時もう既に三十半ば(に見えなくはないがやはりまだ若い気がする)とのことで、停滞の季節が訪れてしまったと周りから確信されてしまうのも仕方ない気がする。が、やっぱり苦いなあこういうのは…
将棋界にとっては若き新風が吹き始めた吉報とも言えるのだが、それは敗者の存在無くして成り立たない既成事実であるのだ。当たり前のことであるが、普通なら敗者にスポットを当てる機会は多いわけではない。この漫画は敗者にもスポットを当ててくれる故に、読み味がある。

しかしここ数年は勝率5割切っていたとかマジかよ。今は持ち直したとはいえ、相当意外な事実である。が、オワコン扱いに納得してしまったし。それほどのスランプに陥っていた七島名人の逆境はどんなものなのか注目したくなるわけだが…

月山さんと新堂竜王の姿が重なると、これからの決勝戦は如何なる勝負になるのか。更に楽しみが増していく。そして先程まで月山さんが好きだと言っていたのにもう嫌いになりそうな七島名人すごぶる面倒臭い。それほど相当こじらせているのが分かるのだが…

◆敗者の葛藤

恐ろしいことに、滝川さん相手でも勝てなかったことがあった七島名人。その証拠が全く冷や汗をかいていない滝川さんだ。逆に言えば滝川さん勝ち確オーラがあったわけで、彼の立場を踏まえると一体どんな心境だったのか気になる………が、それは別の話。大変もどかしいが、今はそれは頭の片隅に置いておこう。
勝率5割を切った七島名人のスランプ時代は更に激化していく。初登場時はすごぶるワルぽかったのが、弱者の立場になっていくとガラリと印象が変わってゆく。

勝てない世界は地獄のようだ。
敗北を重ねれば次がない。そんなプレッシャーが刃のように何本も貫く比喩表現があまりにも重い。重すぎる。
これが月山さんだったら刀何本もブッ刺さった状態でも「将棋たのし~」と狂気の笑みを浮かべていたかもしれないのだろうなあ。勝手極まりない想像だと自負しているが、将棋ジャンキーのあの人ならやりかねない正の信頼がある。

YouTube配信や自販機広告で新堂竜王が視界に映るたびに吐き気を催すほど苦しむ七島名人。強者への嫉妬…と言えなくはないだろうが、すごぶる分かる。悔しいよなあ。

ぼくは既に七島名人のことが好きなようだ
もう数話前から「この人闇ってるけど要は負けず嫌いじゃん。なら人間臭くて好感持てるよ」のスタンスだったのだが、この瞬間で七島名人のことを応援したくなってしまった。
良いですね。強者・勝者への逆恨みだけだと気持ちは分かるが小物臭くなってしまう。が、自分が弱いことを認め、それを許せないと本音を訴えてくると無条件で応援したくなるわけですよ。

◆もはや主人公

めっちゃ努力家じゃん!!!!ジャンプ主人公じゃん!!!!
友情要素はないけど!!

いや実際三十半ばでおっさん呼ばわりされてもおかしくないんですけど(月山さんだっておじいさんと呼ばれてたしな!)、「年齢は言い訳にしない」と言っていたのが地味ながらもカッコよかったわけですよ!若者なんかに負けてほしくないよなあと!
実際、今戦っている月山さんが自分より数百年も生きているという事実がこれまた面白いのだが。月山さんは年齢とか気にしなそうだけど

この漫画は善人が多いが、そういう作風を好まない捻くれた読者もいるらしい。ぼくには理解できないが、まあ胡散臭いとかそういう捻くれた見方をしてしまうのだろう。とはいえ「癖が強いけどなんだかんだで良い人だった」というパターンが多くなってきたのは否めない。
が、七島名人の参入で大きく流れは変わった。こういう人物も描けるんだなと。だからといって(最初から分かっていたけど)「結局ワルい人じゃなかった」というわけではなく…

はいワル~!!でもめっちゃうれしそ~~!!

ワルヅラなんだけども、七島名人を掘り下げてこの人のことが分かれば「新堂竜王にほんとに勝てて良かったなあ」と自分のことのように嬉しくなった。まあ一度きりの勝利ですべてを誇るべきではない。
が、前回から打って変わって今度は七島名人に「負けました」と頭を下げさせてやった。そりゃあご満悦だわ。ワルにしか見えないけど。

う~んでもこの最高の景色はすごぶる共感できるんだよなあ。
負の感情だけど、それでもどうしても理解できてしまう。敗北後のわからせ展開とも言える。故に、七島名人の敗北フラグが更に強まってしまったとも言えなくはないのだが…そこも苦いなあ。

それにしてもお兄ちゃんはマジで慧眼すぎる。
そりゃあこんなワルヅラしてくる人のことを余裕で気に入りますよ。実際この過去を直接見て知っているわけじゃないけども、ビンゴすぎますって。

◆最強の棋士、誕生

カッコイイーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
これは強い!!絶対強い!!

髪を結んでポニテになっただけなのに、めっちゃかっこよくなって強者感が増してきてしまった!!ハッタリだけど、画による説得力って大切なのだなあとわからせてくれる。
今回のアオリ「地獄の業火で打ち直し、鋭く磨かれた才の刃…!!」もカッコイイ。回想内で自分にブッ刺さった数本の刃があったけど、あれは敗北を経て得られた糧なもので、それを自分のものにしたと思うとクッソアツくないですか?そういう見方しちゃってよくないですか?

しかしこの対局の落としどころが見えないなあ。
七島名人は負けてしまうだろうけど、彼の葛藤がどうなるか検討がつかないんだよな。「負けても楽しかった」的な、月山さんみたいなメンタルじゃないだろうし。周りから祝福されて救われるというのも、うーん…
新堂竜王がキーマンになるのかなあ。「良い対局でしたよ」と褒められてもすんなり七島名人が喜ぶとは容易に想像しがたくて。まあとことん真摯にベタ褒めしまくってもいいけど。それだけに着地点がどうなるか楽しみです。来週も更新あるけど、年内決着はきびしそうか…?

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