Column: 「働く」というベクトルが指すモノ
デイサービスセンターポエムでケアマネージャー として働く矢内さんの居宅訪問に同行し、その柔らかく、温もりがある意思疎通のメソッドや、居宅訪問した家庭との距離感などから滲む、そのハートフルでオープンマインドな人間性に大変感動した。
初めに訪問したYさんご夫妻は、代々同事業所が居宅訪問の担当を引き継いでおり、長く関わっているが故に、私を入れた4人で掘りごたつに当たったり、夫のKさんがマシンガントークを繰り広げたりしていた。Kさんは、輝いていた頃の昔話を長らく話すのだが、それは健康状態や妻をケアする優しさなどを褒め立て、「あ~、そうなんですか?」と小気味良く相槌を打つことで、巧妙にKさんを乗せていた矢内さんの「聞く力」の賜物でもある。さらに、「顔を向け、目を合わせる」という会話の基本を忠実に守り、またケアする家族の悩みや愚痴を「聞いてあげる」同情ではなく、世間話や昔話を「聞かせてもらう」謙虚な姿勢でコミュニケーションに参加し、心を開き、つい話してしまうムードを演出していた。
最後に訪問したWさんご夫妻は、Kさんとは打って変わり控えめな性格だったので、矢内さんは「こないださー」と喋り始め、農業の話からナチュラルに疾患を聞き出し、ケアマネージャーとしてアドバイスを送っていた。また、ご高齢の方と話を合わすための「昔はね、」や「今はね、」、「うちの娘はね、」といったキラーワードを備え持ち、加えて、奥さんのデイサービスの様子を心配する旦那さんの不安に、ケアマネージャーとして的確に解消しようとしていた。
矢内さんは世間話とケアの話をバランス良く織り交ぜ、「いつもとの違い」に留意して観察している。ケアマネージャーは施設利用者の入り口であり、ケアする家族の吐き口だと思っていたが、YさんやWさんは矢内さんをケアマネと言うより「度々話しに来る人」と認識し、身近に接している気がした。
相当に気を使う務めだが、Wさんが言ってくれた「デイが楽しい」の素朴な一言は私も嬉しかったし、矢内さんも利用者さんの生の声を直に聞けるのがやりがいだと教えてくれた。
正直に言うと、私は時給980円のTSUTAYAのバイトに責任もやりがいも感じていない。なぜ続けているのかさえあまり分からないし、そんなことは瑣末なものだと思っていた。だから、矢内さんの様な献身姓や思いやりのスピリットを持って働くことはなかった。しかし、Wさんが漏らした「デイが楽しい」の7文字は確かに嬉しかったし、かけがえのない働き甲斐を得る矢内さんを羨ましく思った。この気持ちは一番自分に近く、他人行儀に接客する自分を省みたとき、雑然と淀む「自分にとって働く意義」とは何か、リアリティーを持って考えることができた。
ケアマネージャーとは、介護保険制度において、ケアマネジメントを実施する有資格者のこと。要支援・要介護認定者およびその家族からの相談を受け、介護サービスの給付計画(ケアプラン)を作成し、自治体や他の介護サービス事業所との連絡、調整等を行う。介護保険法に基づく名称は介護支援専門員であるが、ケアマネージャーとも呼称される。
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