スタントって毎日派手な仕事ばっかじゃないのよ~パート1


はい、どうもこんにちは、毎度おなじみ大島です。
今回はですね、世間で認識されている「スタントマンの仕事」というものの中から、「実は知られざる」私たちが実際現場でしている、意外な職務内容について書いていきたいと思います。長いので二記事に纏めます。パート1はその中でも、「日本」「海外」「男性」「女性」の違いについて。


前回の記事にも書きましたが、まず、「スタントの仕事」と聞いて何を思い浮かべますか?高い所から落っこちる、全身火だるまになる、車に轢かれる、何かにぶつかる&壊す、武器を持って縦横無尽に戦う…などなど、派手なものが多いのではないでしょうか。
もちろんこれら全てが正解です。ですが近年日本では、実際に現場でこれらのスタントが求められることはとても稀です。というのも、「安全性の無いもの」「確実性の無いもの」「制作費のかかるもの」はどんどんカットされて行ってしまっているからです。CGが普及したのも要因にありますね。
多くのスタントの人達が、やってみたい、やりたい、のに、やれる現場が少ない、と思っていることが多いです。なので、今いらっしゃる大御所の先輩達が経験してきた、作り上げてきた昔の映像作品のようなもののチャンスを頂くことすら、若手の人達には難しいのが現状です。


ついこの間も、コロナ自粛でチャレンジリレーが流行っていました。その中でも、「今までのキャリアで実際やったことあるスタント」からビンゴカードの様に穴埋めをしていく、というものがあったのですが、去年最後に一緒に仕事したアメリカ人のスタントの子が「階段転がり」「落っこち」「ワイヤー二本吊り」「水中」「体のどこかに火がついた」などこれら全て「やったことがない」と答えていて、とても衝撃を受けたのを覚えています。
彼は、「リメイク版のターミネーター」とか「ブラックパンサー」とか「デアデビル」とか今はマーベルの新作でオーストラリアに居たりとか、「スクリーンアクターズギルドアワード」(すごいやつ)賞とったりとか、すごい子なんですよ。

いや誤解を生まないようにわざわざ書きますが、だから悪い、とか下手、とかキャリアが足りない、とかじゃないです。ただ純粋に驚いた、という話なんです。いままさに前線で働いてる売れっ子スタントマンでもこういうことが起きるんだな、と。
あとまあ、スタントマンって個々でそれぞれ特技があって、もちろん特技の方に仕事内容も偏りがちなんです。たとえば、元々テコンドーのチャンピオンで、蹴りが抜群にうまく、どちらかというと立ち回り(戦う方)要因で、あまり飛んだり跳ねたりのアクロバットなどのリアクションは専門ではない、とか。
結構そういう特化したものの方に職種も偏りやすいです。日本刀や棒やヌンチャクは振れるけどバク転とかトランポリンはできない、とかトリッキングやアクロバットは得意だけど武術は学んだことがないので蹴りやパンチなどは不得意、とかいう感じにですね。あとはやっぱり過去に経験があるかないかは大きいと思いますね、カーヒットとか馬から落ちるとかはいつも同じ方がやっているイメージがあります。そういう「要因」として覚えられているんでしょうね(笑) わたしのイメージも、トリッキングやパワームーブというよりも、日本刀とか、蹴りのコンボだったりとかが必要とされる現場が多いです。

まあそんな感じで彼は、殺陣の方が得意な子なので(殴ったり蹴ったり戦ったり沢山の武器使えたり)なので、それも比例してきてるとは思いますが、結構沢山の友人のビンゴを見た上で驚きました。えっあの彼が?これやったことないんだ?とか意外な感じが多く見受けられました。
もちろんただのタイミングとかもありますけどね、どの仕事をどのタイミングで請け負ったか、という。スケジュールがうまく合わなくて仕事を断わらざるをえない事もしばしば。

ので、「やったことない」=「できない」では必ずしもないので、そこは各スタントマンの名誉のためにも言っておきますね(笑)

まあ結局なにが言いたいかと言いますと、ハリウッド現場でも、意外とそういう派手なスタント現場に恵まれるのが、珍しかったりする、ということ。そして海外と日本、両方を見て思うのが、日本は特にそこがとても顕著だと言う事。海外のがまだ俄然派手なスタントありますね、もちろん。制作費の差でしょうか?
日本だと下手したら、「危ないから」「時間がないから」「意味がないから」という理由で、同じキャラクターだけどその大きなスタントだけ、他の先輩が代わりにやったりとかも起きますので、どんどんチャンスって失われてくんですね。ここらへんもまた詳しく別記事に書きましょう。


男性のスタントの方に多いのは、前回の記事で説明しました、「絡み」と呼ばれる仕事が主なものだと思います。役者さんたちが戦う場面にて、周りで切りかかったり、殴りかかったり、押しのけられて転がったり…
もちろん男性で、役者さんと全く同じ衣装、ウィッグをつけて代わりにアクションをやる「吹き替え」のお仕事もまた、多いです。でも役者さんが出来た方がそりゃ良いので、監督も役者さん本人もトレーニングしてやりたがる方が多いように思えます。もちろん本当に危ないことは絶対させませんが。ただ、吹き替えを用意しておいても使わなかった、という確率が男性のが多いような気がします。
そして日本だと男性のスタントの方が女優さんの吹き替えをすることもまだまだ普通にあります。海外だとちょっと規律があるので…これは実際イギリスで私にも起きた事件で、長い話になりますので…私の実際の経験と共にまたいつか…(笑)

逆に女性のスタントに多いのは、ほとんど「吹き替え」になります。
どう考えても、ヤクザやマフィア、野武士、警察、自衛隊、これらどれをとっても、名もなき女性がわらわら主人公に食って掛かって戦いに挑むシーンなんてほとんどありませんからね(笑) ので、そもそも絡みの仕事がほぼないんです。特撮もののショッカーのように、体型やら顔やらが誤魔化せるものは別ですが。
そしてこれは私個人の意見になりますが、結局、たとえそれが悪いキャラクターであっても、所詮体格差が見えてしまう女性をタコ殴りにするところを映画やTVで見て、あまり気分のいいものじゃ無いからじゃないでしょうか。需要はどこかにあれど、とても少なそう。(笑)
たとえ悪い顔した10人以上の女性のチームだったとしても、アイアンマンのようなヒーローが10人の女性を片っ端からフルボッコにしてく絵なんてみたくないですよね(笑)それがまあ「特別な薬を打たれて見た目がハルクのようなほぼモンスターに近いレベルの格闘家の女性が20人ほど集まってヒーロー一人をタコ殴りにしてくる」とかいうピンポイントの映画とかならまだアレですが…。まあ、通常よく起きることではない、ということで。女性同士のキャットファイト作品も少ないですよね。

そして、日本の女性のスタントの方は男性の割合に比べてそう多くはないのですが、それに伴ってそもそも仕事の需要も少ないので、「ライバル少なくていいじゃん」とかよく言われるんですが、そういう事でもないです。なぜなら、先程言ったように、私たちは「名もなき絡みの誰か」で選ばれる事はほとんどないからです。なのでキャラクターでなくても「イチ絡み」としてどの現場にでも出れる男性に比べて、格段に仕事数が少ない。

私たちは「技術的にも合っていて、しかも募集を募っていて、その上で体型が合う上で、スタントシーンが必要なもの」がない限り、一切仕事無いんです。たとえば「日本刀が振れて、身長150cmで、〇〇日のスケジュールが空いてる」スタントウーマン「が、必要な映画またはTV、CMなどがあること」が条件下になります。このひとつどれが足りなくてもダメなんです。たとえば「日本刀は振れるけど身長が165cm」なだけでダメですし、「身長も技術もぴったりだけどその日は空いていない」とかというか、そもそもこの募集がかかるようなアクション映画、またはTVなどがまずこの世にあるのか、という話になってきます。近年ではどんどんアクションシーンって削られて行ってますからね。たとえば身長ぴったりの女優さんがいて、技術も申し分がないスタントウーマンがいても、「それが必要なシーンがある作品」がなければ結局永遠に出番は来ないのです。
伝わりますかね…この書き方で…。

しかもその上で、結構、それぞれのスタントチームなどで常に使われるほぼレギュラーみたいな女性が暗黙で決まっていたりして、大抵の方がフリーランスですが、もうほぼ実質固定でそこのチームのお仕事に関わっていたりします。ので、お仕事を頂きに入り込むのが難しかったりとかします。特に日本は、スタントウーマン需要も仕事の供給も共に少ないため、意外と体型とか身長とかごり押ししちゃうことが多々あります。他に居ないんで。これが現場の本音です。こんなにはっちゃけちゃったら日本の同業の方に怒られると思いますけど。(笑)
よっぽど10㎝以上身長が違う、とか衣装が着れない、とかでない限りは、その「暗黙の固定女性メンバー」を使っているところをよく見かけます。

「身長がぴったりだけど経験も少ないし、一緒に働いたことがないので不安、人間性もわからないので不確定要素が多い」新しいスタントウーマンの方より「多少体型はずれるけど、しっかりと仕事こなしてくれて、技術的に何ができるのか把握できている老舗の頼れるスタントウーマン」を使う、ということなのです。もちろんすべてのチームがそうしているわけじゃないですよ。私なんて特に、新しく起用して頂いて、お仕事のチャンスを貰って来た、先輩たちに感謝しきれない典型的なタイプの人間ですしね。ですが、ここらへんが日本の現場のリアルです。

海外になるとここらへんが全くもって変わってきます。身長3㎝違うだけで「う~ん」って悩まれたりします。こちらからすると、「まっすぐ立ってモデルウォークをする吹き替えでもあるまいし、なんであれ動いてる瞬間しか使わないのだから、3㎝くらいの違い逆にわかんないけどね?!?」って思えるんですけど、まあプロデューサーとか監督が俄然こだわりが強い様に感じられます。私は過去にスタントコーディネーターの勝手で知らぬ間に現場でやるはずのキャラクターを変えられた事があって、(笑)この話も波乱万丈で面白いんでどっかで。
ここでは要約しますが、その時の女優さんがいきなりモデルさんとかになって、20㎝以上わたしと身長違くて、ガリガリで、みたいな感じで。で、撮影現場がマイナス4度とかだったんで、ジャケットやらダウンやらみんなが貸してくれて、四枚くらい着込んでもこもこになってたんですよ、雪だるまみたいに(笑)いや、てかまじに雪降ってたんで。

画像1

当時の写真。全部借り物(笑)

雪ついてるし。ほんでこれで現場行った時に、アシスタントコーディネーターがぷりぷりやってきて「監督がいる前では全部脱いでなるべく細身のピタッとしたレギンスとかでいろよ!ちょっとでも女優に似てる風に見せとかないと!」ってガチギレされた時はさすがにポカンでしたね。マイナス四度だぞ。しておめーらじゃ、私のスタントダブルの女優勝手に変えたのは。(笑)

(そもそも当初オーディションで勝ち取った女優さんはボディサイズぴったりだったんですお、嘘じゃないお、ほら↓)

画像2

これが元々スタントダブルを担ってた女優さん。私顔パンパンやないけ。22歳とかだった。


もちろん、ハリウッド作品であっても、「見つからなかった場合仕方なく使う場合」も「多少体型は違くとも、このパフォーマーの技術が必要だ!」といった先程言った日本風の感じで選ばれることももちろんあります。
主にスケジュールのせいで受けられなかった作品とかめっちゃあります。正直これが一番悔しいです。わたしはとある作品のスケジュールがかぶってしまって、昨年、「ブラックウィドウ」と「トレッドストーン(ボーンシリーズの新作)」と「Infinite」という作品などを泣く泣く断りました。

あとその中でもう一つ、去年ハチャメチャに面白かったのは、あるお仕事のメールを頂いた時でした。「The Eternals」というマーベルの新作です。
ちなみにこれ、よかったらどうぞ。原文メールです。↓↓

画像3


「貴方のデモリールを拝見させて頂きました。あなたの技術は素晴らしく、まさに私達の役者に求めているスタントなので是非働いて頂きたいと思ったのですが、残念ながら、身長190㎝のスタントダブルを探しています。他にどなたかこのサイズに合ったスタントウーマンをご存じでしたら、紹介して頂けるとありがたいです。(要約)」


いや私に聞くなや!!!!!(大声)


めちゃくちゃおっきな声出ちゃったやんけ(笑)


去年イチ笑った。私に探させるなや(笑)これ海外だとよくあんの?って聞いたら友達もみんな「ありえない。初めて見た。頭おかしい」って笑ってました。
ちなみに小話なんですが、恥ずかしいお話ながら、わたくしとてもマーベルシリーズに疎くて…というかこの仕事ずっとしてるくせに全然こう…ミーハー心がないというか…芸能人の方にも疎くて…ほんとに…すいません…過去に友人に怒られてから以降、存じ上げない役者さんとかいらっしゃったら事前に調べてからお仕事するようにしたりしてまする…ショボ…

んでエターナルズの時も、作品をよくわかっておらず「エターナルズ結局もらえなかったヨ~」って何の気なしに話したらその場にいた周りのスタントの友人みんなが「デカい仕事だったのに…」と私の代わりに私より落胆してくれてました。マーベルファンからすると垂涎ものらしいです。なんかすまなんだ。(他人事)

とにかく、「デモリールを見て使いたかったけれど身長に合わなかった」ということは、技術を褒めて下さってた、ということなのでまあありがてえ、って思っておくことにしました。マーベル作品にはとことん縁がないみたいです(笑)

それではパート2に続きたいと思いますので今回はここらへんで。


じゃあの



































































気が向いたらサポート頂けると、全てが私の励みになります。ありがとうございます。私の経験したことが、少しでも貴方の心に響いていたらなと思います。