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【ショートストーリー】こだわり

 雨水を弾く音と共に目の前に白い車が止まった。運転席を見ると、兄だった。
窓を開けて、
「乗れよ」と言った。
雨なので、兄の言う通り雨を避けながら助手席なので乗った。
バタン、高級そうな扉の閉まる低音がした。
「お兄ちゃん、また車を買い替えたの?」
「そうだよ。仕事がひとついい具合に進んだんでね」
「この前もそんなこと言って車を買い替えたばかりじゃなかった?それにいつも白い服、たまには違う色にすれば?」
「何言ってるんだよ、絶好の時に上を目指して全財産を投げうって車を新調するから運が舞い込むんだ。白い服も俺にとってはラッキーカラーなんだよ」
フロントガラスにあたる雨は綺麗にワイパーがリズムよく拭きとられていく。
呆れ顔でガラスが濡れた雨を見ながら松井帆詩花は、ぼんやりする。確かに兄は人生で成功している方だと思う。私の方がこだわりなく生きてきた。だから
今も仕事といっても単純作業。これを何年も。
少しはこだわりを持てば自分の生活が変わるのかな?
 するとしたら何にこだわるだろう?
分からないから明日考えることにする。
 考える。考えれば考えるほど寝れなくなりそうだ。

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