【小説】月が見えますかvol.8
病院の運ばれた食事を終え、薬を飲んでから窓の外を見ると、激しい風と雨だった。病院の中だと外の気温も肌寒いのか、暑いのかわからない。
この日は雨のため、外にも行けずにずっとベットにいる。仕方なく富士山の刺繍をしていると、
「お風呂の時間です」と、看護師 2人のうちの一人がそう言って、私をシンデレラ抱っこをして車椅子に乗せた。
湯船に浸からせてもらい、身体も洗ってもらった。
「お風呂に入れてもらいました。やっぱりお風呂は気持ちいい。入れて下さった方に感謝です」
すると、「よかったですね、心も身体ももリフレッシュできて」もコメントが来た。
見たことも会ったこともない人から、歩けない自分に話しかけてくれることが嬉しい。こんな自分を偏見の目で見ながら話されるより、気軽にこのように話しかけてくれることがどんなに嬉しいことか。
単調な毎日に、そんな普通の人の言葉が安心したりするのだ。
horse woodさんは、どんな方なのだろう。年齢は?結婚は?
そんなことを思いつつ富士山の刺繍を投稿した。
外の雨は今も激しく降っている。horse woodさんのところもこんなに激しく雨が降っているのだろうか。
「情熱を注ぎ込めるものを、最初から
持っているものはいない」岡本太郎氏の言葉を画用紙に書いて写真を撮って、病院室のベッドの明かりを消して。僅かに聞こえる雨音を聞きながら布団を被った。
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