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クリスマスケーキ

 久しぶりに休みがとれたので、ひとりでぶらりと街に出かけた。年末の週末ということもあって、人も多い。色んなショップを見て回るうちに、屋外に出ると太陽は既に沈んでいて、辺りはすっかり夜の空になっていた。
 お腹も空いてきた北川亜衣瑠は、海を見渡せるレストラン街を歩いた。どこもカップルで列になって並んでいた。みんな待っていても退屈そうには見えなかった。それぞれスマホ画面を見ては、笑っていたり、手を繋いで仲が良さそうだった。
 それにしても浜風のせいか、今夜はやけに風が冷たかった。そのため早くどこかの店に入りたかった。川の橋を渡る前に水色と白を基調とした可愛い店があった。デスプレイされたメニューを見るとパンケーキの店らしい。夕食にパンケーキはどうかな?と思いながらもたまたま空いていたので、亜衣瑠は店の中に入った。
中も可愛い。若い高校生くらいの女の子たちが甲高い声で楽しそうに友達と喋っている。
 空いた席に店員が案内した。渡されたメニューを見るとフルーツたっぷりのクリームでアイスにチョコシロップが掛かっていて、どれも美味しそう。
 注文を済ませて。しばらくすると隣の空いた席に、おしゃれなパパと中学生くらいの女の子二人席に座ってどれにするか迷っている。
 そのうち亜衣瑠のテーブルにも隣のテーブルにも注文の品が来た。
「パパ、交換して。美味しい。ママにも食べさてあげたかった」と言っている。
 パンケーキってそうなんだ。仲のいいその親子が羨ましかった。

 それから一年、新しい短期のバイトの初めての出勤日。亜衣瑠は、辺りを見渡すとひとりだけ浮いていた。ここに来ているバイトの男女は、毎年働きに来ているようで、皆顔なじみで、しかも商品を籠の中に入れていくのが早い。仕事慣れしていた。
「しょうがないな、誰か、北川さんとこ手伝ってやれ!おい、藍沢、宜しく」と、担当の男性が言った。
 亜衣瑠の後ろに藍沢くんが立って一緒に品を置いていった。
 次の日、藍沢くんはまたもや亜衣瑠の手伝い役になった。
 藍沢くんがすれ違う時に、昨日はなかったのに香水の香りがした。
 休憩時間に亜衣瑠は、温かいコーヒー缶を自販機で買ったのを藍沢くんに渡した。
「ありがとう」
 藍沢くんは、彼女がいるとしたら彼女とクレープを一緒に食べながら、
「美味しいね」ってお互い言いながら仲良く食べてるタイプだと亜衣瑠は思った。

一週間後、
「今夜は、9時まで延長して行う!」
「はい」皆んなが答える。
「丁寧に、運ぶんだぞ」
「はい」
今夜は、クリスマスイブ。各店舗に配送されるように、ケーキを籠に入れていく。
 終わった頃には夜の9時を過ぎていた。
イブももうすぐ終わろうとしている。
 仕事を終えて、車に乗って自宅へ向かっった。
 早朝、バイト前にコンビニへ向かった。まだ暗い空に白い雪が降りて来た。どんどんと。亜衣瑠の服に付着しては溶ける。明かりが煌々と光るコンビニに安堵する。コンビニでは綺麗に並んだクリスマスケーキがところ狭しと並んでいた。数時間違うだけで30%引き。そういえばクリスマスケーキ食べてなかったので買って帰った。
 次の日、バイトが終わって、藍沢くんが、
「一緒にスイーツでもどうですか?」と言った。

 もちろん、パンケーキを分けて、
「美味しいね」と言って食べ合った。

#短編小説 #ショートストーリー
#クリスマス #クリスマスケーキ  

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