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ダンスと法律

12月10日(2022年)、親の事情で出生届が出されず子が無戸籍になる問題を解消するため、子の父親を決める「嫡出推定」の規定を見直す改正民法が参院本会議で可決、成立したとのニュースを聞きました。日本に1万人以上いるという無戸籍の方々が、今後救済される事を望んでいます。
明治時代に制定されたこの法律が、遺伝子鑑定が可能になってからも長らく生き延びていたという事は現実に即していると思えません。
このように、法律にはかなり前時代的なものもあり、それが過去の亡霊のように私達を悩ませる事もあるというのは周知の通りですが、ことタンゴに関してもそれは例外ではありませんでした。
それは何かと言うと、風営法による規制です。

話は遡りますが、私がペアダンスと出会ったのは子供向けの絵本が始めだったと思います。(お城で催される舞踏会の事です。)
第2の出会いはというと、おそらくバザーか何かで数巻だけ手に入れた名香智子の「PARTNER」です。


PARTNER (名香智子の漫画) - Wikipedia https://ja.m.wikipedia.org/wiki/PARTNER_(名香智子の漫画)

1970-80年代は少女漫画界で次々にバレエ漫画の傑作が生まれた時代でした。そんな中、社交ダンスを描いた「PARTNER」は、ただ社交ダンスや競技ダンスの華やかな部分を描いただけでなく、日本における問題点を浮き彫りにした作品でもありました。
特に1巻の前半で、社交ダンスに出会ったばかりの主人公がたまたま競技会に参加する事になったものの、18歳未満であるという理由で途中棄権せざるを得なくなるシーンはまだ日本の社交ダンスの歴史を知らなかった当時の私には衝撃的でした。「18歳と17歳の違いは何なの?」という主人公の疑問は、そのまま私の疑問でもありました。

ペアダンスの日本における不幸な歴史は、それがテニスなどの他のスポーツや趣味と異なり、戦前にダンスホールが売買春の交渉の場として利用されたり、戦後にキャバレーなどで客引きを目的としたダンスが行われたという事によります。
取り締まる側からすると、それと一般のペアダンスの区別が曖昧だったのです。

こうしたことから、一般的なダンス教室、ダンスホールなど「設備を設けて客にダンスをさせる営業」に対する規制は実に2015年までまで続きました。

この風営法の規制によって日本におけるペアダンス文化の発展が妨げられ、ダンス人口が中々増えない現状に繋がっているのだと思いますが、こうした状況に対し規制からの除外を求めて働き掛けて来たのが社交ダンスをはじめとしたサルサ、タンゴなどの団体です。FJTA日本アルゼンチンタンゴ連盟https://www.fjta.jp/の認定インストラクター資格も、そうした風営法からの除外を目的として作られた部分があるのです。

けれど実際にはまだ深夜帯にお酒を提供する営業については、社交ダンスやペアダンスであってもクラブと同様に「特定遊興飲食店営業」の許可取得が義務づけられ、繁華街などでしか営業できないなどの規制が残っています。

サルサをやっている友人からサルサバーの話を聞いた時、タンゴにもそういう場所がもっとあれば良いのにと思いましたが、中々難しいのにはこうした事情があるようです。

ですから今すぐはまだ難しいかもしれませんが、タンゴをしない人がいてもいい、踊る踊らないに拘らなくていいような、そんな開かれた空間がもっと増えていく事を望んでいます。
そうした場所に友人を誘って行ければ、突然レッスンやお金のかかる発表会、大会などに呼ぶよりも敷居は低くなります。
そうすればタンゴに興味を持ってくれる方ももっと増えてくるのではないかな、とも思うのです。

そのためには現在タンゴを愛している人一人ひとりが現状に満足せず、こうした状況を知り、どうしたらいいのか考えていくことも必要です。その中から、解決の糸口が見つかるかもしれません。

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