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ボロボロの卒業アルバムに馳せる思い

自分のアルバムに入れるつもりで人と接すれば、これからの一期一会がもっと充実したものになるだろう。


朝の電車。

出社を余儀なくされた人々の多さ、雨模様だったこともあってか、車内がどんよりジメジメしていた。スマホをいじる人、本を読む人、眠っている人。いろんな人がいるが、楽しそうにしている人なんていなかった。朝の満員電車なんてそんなもんだ。

そんな時だった。
ある駅で1人の男性が乗車してくる。ボロボロになった本のようなものを大切そうに両手に抱え、乗車口の窓から風景をぼんやりとした様子で眺めていた。なぜだろう、その男性が意外にも楽しそうに見えた。ずーんとした満員電車の中で不思議と一番星のように光っているように見えた。抱えていた本は洗濯したのだろうか、雨に濡れてしまったのだろうか、とにかくボロボロだった。なぜそんな本を大切そうに抱きしめているのだろうか。よく見ると多くの顔写真が碁盤状に並んでいる。なにか見覚えがあるな?


卒業アルバムだった。

余程、彼にとって学生時代は大切な時だったのだろう。思い出とともに今を生きているという感じだろうか。

思い返すと自分は学生時代、そんなにいい思い出がない。

部活・勉強を理由に多くの人と友達になるという選択肢を持たなかった。様々なグループがクラスに蔓延る中、自分は孤独を好み、他の人のように友達の目を気にして無理して仲良くするのが苦手だった。大人になった今だからこそ、学生時代にもっと色々な人と交流をもてばよかったなと思うのだが、当時の僕はそんなことを考える心の余裕なんてなかった。むしろ思春期あるあるの"1人でいる俺かっこいい"的な感じだったかもしれない。だからなんだって話だが。

もし、今まで出会ってきた人々の中で、特に大切にしておきたい人を選んでアルバムを作るとしたらどんなアルバムができるのだろうか。

中学・高校時代の部活のメンバー、大学時代のサークルメンバー、そうそう、居酒屋で出会ったおじさんたちも入れておこう。思いつく限りでは50人ぐらいだろうか。量にしてだいたい1クラス分。総ページ数1ページという、卒業アルバムにしてはとても薄い出来上がりになるだろう。


自分のアルバムに追加するつもりで、これから出会う人々の交流・ひと時を大切にすればきっと人生が豊かになるかもしれない。そしてどんなに嫌な人でも、そのアルバムに入れるために接すれば多少は楽に話すことができるかもしれない。

そんなことを思いつつ、アルバムを抱えた男性を見つめていた。素直に羨ましかった。大切にしたい人がそんなにもいるなんて。


まずは職場の上司からだな。
気怠く電車を降りた。

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