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【小説】菜々子はきっと、宇宙人

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<あらすじ> 大学を卒業し、晴れて新社会人となった美春。想像したよりも過酷で、憂鬱な社会人としての生活に、身体と心が限界になり、生きる意味を見失っていた。そんなとき、まるで宇宙か…
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2024年7月の記事一覧

【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第16話)最終話

【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第16話)最終話

菜々子がいなくなってから約半年の月日が流れた。
もう、この町に菜々子の気配はない。

菜々子がいなくなってすぐは、町の人も、職場も人たちもなんだか物足りないといったように、「菜々子は今どうしているのかな。」と思い出話に花が咲いていた時期もあったのだけれど、時の流れというものは、過ぎ去っていく日々を、少しずつ、少しずつ、気づかないくらいのゆるやかなテンポで消化して、いい意味でも、悪い意味でも、過去の

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【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第15話)

【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第15話)

厳しい寒さが和らぎ、少しずつ春の訪れを感じるようになった3月のはじまり。旅立ちの季節というのだろうか、職場では、部活やサークルのお別れ会で施設を利用する団体で賑わっていた。

「私はそろそろ旅に出る。」

2月が中旬に差し掛かった頃、そういえば菜々子も旅立つとかなんとか言いだして、新しく原付バイクを購入していた。

「名前はカブっていうんだ。カブみたいに白くて丸っこいデザインに見えるからカブ。」

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【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第14話)

【小説】菜々子はきっと、宇宙人(第14話)

季節は冬に移り変わった。山生活の冬は厳しい。私は毎日、痺れるような手足の冷たさに、必死に耐えながら生活をしていた。
1月に入り、一層寒さに磨きがかかってると感じていたが、近所の人いわく、一番寒いのは2月らしい。今でさえ凍え死にそうなのに、さらに寒くなるというのか。

1月は職場も閑散期に入り、定時で帰ることができる毎日が続いていた。私はとにかく冷え切った身体をしっかりと温めようと、仕事が終わるとま

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