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12月5日

12月4日の夕方頃、何だか体がだるくて横になりたいかも…と思った。やはり体は正直で、全部分かっているらしい。ちょっと変だなと思って熱を測ると37度7分。2020年のコロナ禍以降、発熱なんてワクチン接種後の副反応の時しかなかった。夜になると38度5分まで熱が上がり、インフルエンザも流行っているみたいだし翌日検査に行くことに。

12月5日
コロナとインフルの検査をしてくれる近所のクリニックで11時30分の予約が取れた。ただの風邪であることを祈りつつ検査結果を待っていたけど、結果はインフルエンザA型。インフルエンザにかかった記憶なんて成人してから全くなくて、本当に流行っているんだなと驚く。人混みに行く時はマスクをしてたんだけど、最近外食に行った時にもらってしまったのかな…などと思いつつ薬局で薬が用意されるのを待っていた、その時。

インスタを開くと、一番見たくなかった「大切なご報告」が目に飛び込んできた。

大好きなバンドThe Birthdayのチバユウスケさんが亡くなってしまった。今年の4月に食道がんと診断されたとのお知らせがあってからずっと、どうかまたライブで会えますようにと祈っていた。混雑している薬局で自制心が働いても、勝手に涙が出てきて静かにマスクにしみこんでいく。

帰宅して、玄関のドアを閉めてすぐ嗚咽が漏れる。悲しすぎるけど、受け止めなければいけない事実だし、ひとしきり泣いてまず出てきたのは「お疲れさまでした」という言葉だった。あの声量が出るのが信じられないような、普段からちょっと心配になるほど華奢な体で、がんの治療はどれだけ大変だっただろう。

その日は泣きすぎて頭が痛いのかインフルエンザによる頭痛なのかもはや分からなかった。熱は大して上がらなかったけどとにかく頭が痛くて、処方されたカロナールを飲んでも効果はあまり続かず、頭がぼんやりする。だけどそのおかげで悲しみにまつわるあれこれを具体的に深く考えずに済んだ。

経験したことのない悲しい出来事があると、誰かの言葉を思い出してそれにすがるように支えてもらうのが私なりの心の守り方みたいで、今回はチバさん本人の言葉が浮かんできた。

その日の夜はこちらも大好きなギタリストの関口シンゴさんのインスタライブがあって、悲しみの中にいながらも少し気持ちがほぐれて笑うことができた。何年も楽しみに待っていた関口さんのソロアルバムが翌6日にリリースになる。嬉しい。でもそんな待ち望んだ日の前にこれほど悲しい日が来るなんて。

12月6日
心は1つしかないので、この日はなるべく泣かないようにチバさんのことから意識的に少し距離を取っていた。とても楽しみにしていたリリースの日はやっぱり素直に嬉しい気持ちでいたいし、ちゃんと心から嬉しかった。2020年の春、コロナ禍で出会った素晴らしいギターの音色。1曲目の「Mystic」が聴き慣れた美しいギターループで始まっていてじーんとする。ギター動画などで曲名がないまま何度も聴いていた大好きな曲。(後でちゃんと別のnoteに感想書きたい)

インフルエンザを発症してから5日間(正確にはもう少し細かい条件あり)は自宅で療養するようにとのことで、外に出られない。引き続き体のだるさとひどい頭痛で頭がぼんやりして、眠ったり起きたりしながらこの日は関口さんのアルバムだけ聴いていた。全部通して聴き終えた時に軽やかで心地良い空気に包まれる、本当に素敵なアルバム。

サブスクでは聴けるけど、早くCDを手に取りたくてそわそわと何度も配達状況を確認しながら過ごしていたので、夕方に配達完了の表示に変わるまで一日が長く感じられた。本当はすぐにでもお店に取りに行きたいのに外に出られないもどかしさ。まさかまた外出自粛状態で関口さんのアルバムを聴くことになるとは思わなかったけど、それも含めて今回のリリースの思い出だ。

今週はライブに行く予定を1つも入れていなかったのがせめてもの救いだった。仕事も運良くというか素材の到着が遅れて手持ちがない状態で、インフルエンザになるのであればタイミング的にはここで助かったなと思う。

日付が変わる頃、ケンジさんの投稿を読んで、チバさんへの思いを知りまた泣いた。こんな日が来てしまうなんてやっぱり嫌だ、と思いながら。

12月7日
朝起きると、体からだるさがだいぶ抜けていた。でもまだあと少し、という感じ。体よりも心が弱っている。日中は日当りのいい寝室のカーテンを開けて、布団にくるまって窓越しの青空を見ながらまた関口さんのアルバムを聴いて、気付いたら数時間眠っていたりした。何もできないけど贅沢な時間。

夜になり、スカパラがアップしていた動画で不意にチバさんの歌声を聴いてしまう。涙は出ず、ただかっこいい、と思った。「カナリヤ鳴く空」は一度だけ生で聴くことができた。あれは2019年の今はなき新木場スタジオコースト。チバさんを迎え入れる前にゴッドファーザーのテーマを演奏する粋なスカパラと、イントロと共に登場し大歓声を余裕で軽くあしらうチバさんが本当にかっこよかった。MVの若き日のチバさんもかっこいいけど、チバさんは常に"今"が最高にかっこいい人だったと心底思う。

そんな動画に触発されてまず思い出したThe Birthdayのライブは、2020年11月のNHKホール、「COME TOGETHER」を初めてライブで聴けた時のこと。なかなかライブのセットリストに入らないこの曲をいつか生で聴きたいと思っていて、それがコロナ禍に突入してから初のライブで実現してすごく嬉しかったのだ。

仕事で行けなくなったライブがあったのが悔やまれる。まだ一度もライブに着ていってない新しいグッズのTシャツもある。今年の6月に開催予定で奇跡的にチケットが取れていたQUATTROツアーが実現していたらどんな曲をやったのかなとか、だけど今年の3月に最後のライブを会場で見れたことはとても幸せなことだと自分に言い聞かせたり。深夜、涙も出ずにぼんやりと喪失感が広がっていく。底なしの無に飲み込まれそうで、これはまずい、と思って深呼吸する。

12月8日
体にもうだるさはなく、頭痛が残っているだけになった。今日もまた飽きることなく関口さんのアルバムを聴いて、他の新譜を聴く気力はまだ出ず、少し眠って、夕方になると不意に泣けてきて、これを書きながらバスデの曲を少し聴けた。

チバさんの中で最後にどんな音が鳴っていたのかなとふと思う。バンドの音、歓声、「16 Candles」(ライブの登場SE)、ノイズ、波の音、好きな曲、新しいフレーズ、それとも無音だったのか。最新曲がいつだって最高にかっこいいThe Birthdayだった。もっと4人のライブを見たかったし、もっと新曲を聴きたかったし、もっとチバさんの書く歌詞を味わいたかった。

4月24日に休養が発表される前、チバさんの最新のインスタの投稿は4月19日で、3つ並んだエフェクターの写真に添えられたキャプションは「Which One To Choose?…」だった。チバさんぽい言葉に変換して訳すと「どれにすっかなぁ」だろうか。

去年の11月、チバさんと少しだけ言葉を交わしてサインしてもらえた夢みたいな日のこと。原宿のKIT Galleryで開催されていたチバさんの写真展の最終日、何とご本人が在廊していて物販の横に立ち(たまにベランダに出てタバコを吸ったりしながら)、ファン1人1人に名前を聞いてサインをしてくれていた。

私はTシャツと6枚入りのポストカードを買い、チバさんを待たせているし後ろにも結構人が並んでいたから、どの絵柄のポストカードにサインをしてもらうか急いで決めようとしていた。その一瞬の焦りの空気を見逃さずに、チバさんはすかさず「ゆっくりでいいよ」と声をかけてくれた。至近距離すぎてチバさんのほうを見れずにいたけど、その優しい気遣いに感動して思わず顔を上げて笑みがこぼれてしまったのを覚えている。

ゆっくりでいいのだと、チバさんにかけてもらった言葉をまた自分に言い聞かせる。何か書かないと気持ちの整理がつかなくて、でもこの悲しみは永遠にきれいに整理できるようなものではないのだと思い至り、今はただこの数日の感情の動きを記録しておく。チバさんが撮る風景や植物の写真も、その真っすぐなまなざしが感じられて大好きだったな。

あの爆音で鳴らすThe Birthdayにしかできないロックンロールをもう浴びることができないのが悲しい。もっとすごいライブをこれからたくさん見られるはずだったのに…と思ってしまうくらい、バスデのライブは見るたびに凄みと優しさを増していた。どの会場でも老若男女いろんな年齢層のファンがそれぞれの思いを抱えてステージを見つめていた。いつも最後にチバさんが優しい笑顔で「ありがとう。またね」と言ってくれるのが嬉しかった。

でもこんなことを書きながら、時間が経つにつれてやっぱりまだチバさんがどこかで曲を作ったり歌ったりしているような気がして、今は寂しさが少し和らいでいる。これは逃避なんだろうか。

12月10日、今日の東京は最高気温が20℃とあったかい日で、インフルエンザの療養期間も昨日で無事終わり、体調もすっかりよくなった。日が暮れる前に、5日ぶりに外へ出て少しだけ散歩した。

サイン入りのポストカードは額に入れて大切に飾ってある。あの時、6枚の中から空と海とチバさんの影が写るこの写真を選んでよかったと思う。ゆっくり選ばせてくれてありがとうチバさん。他に何て言えばいいのかまだ分からないから、またね。

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