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父さんがいなくなった時 決めたこと

父さんがいなくなった時
決めたこと

僕は母さんのために
父さんの代わりに
ハグをしようと思った

母さんと父さんは
僕の理想

いつものリビング
母さんが笑ってるのを見て
父さんはうれしそうにしていた

ただ、それだけなのに
そのシーンは
幸せの象徴のような気がしていた

いつでも笑ってる母さんが
おおごえで泣いた日
僕は泣かずに手を繋いで
母さんの横に寄り添っていた

ただ、それだけしか出来なかった
その切ないシーンは
心の片隅の箱に封印した

あれから、16年
オレは26歳になっていた

今は離れて暮らす母さん
ハグは出来ないけど
おはようとおやすみの連絡は欠かしたことない

マザコンって言われたりする
マザコン!上等!
大切なものは大切だから
笑ってて欲しいから

珍しく、母さんから電話があった
高めの声が受話器から聞こえてきた

拓実元気?
 元気だよ!毎日連絡してるじゃん

今週の日曜日あいてる?
 ん、なに?
 残念ながら、空いてる

良かった、じゃあ晩御飯一緒に食べよう
拓の誕生日だし、ディナーしよう
 いいよ、場所は?
ママが予約入れとく
決まったら、また、連絡するよ
 うん、わかった

楽しそうな弾む声

なんとなく予感があった

当日、そこは隠れ家のような
静かで落ち着いたカジュアルフレンチのお店

母さん、こんなとこよく知ってたな〜

その答えはスグに理解できた

手を振る母さんの横に
スーツ姿の人がいた

拓、今日は
紹介したい人がいるんだ
 うん
彼は、今、お付き合いしてる〇〇さん
 うん

恥ずかしそうに言う母さん
優しそうな彼

はじめまして、〇〇です
 はじめまして、拓実です

母さんは恥ずかしいからと
早口で色々と話し出した

彼は職場の取引先の人で
何度か会ううちに
お互いの境遇が似ていることで
親近感が湧いた
彼の相談に乗っていた

彼は奥さんを病気で亡くして
それからひとりで一人娘を育てた

娘さんの結婚が決まって
彼は自分のコレからのことを考えたみたいだ

彼からプロポーズされたことを言う母さんが
やっぱり、どこか他人事のように思えた

きっと、長いことかかって
ここに至るのだろう

ふたりの間に流れる空気が自然で
見ていても不安要素がない

僕が反対する理由がない

拓実くんが嫌ならこのままで良いんだ
ただ、陽子さんのウェディングドレス姿が
見たかったんだ

と彼は言った

母さんが
もう、恥ずかしい

と乙女のように笑った

母さんは
ひと通り、彼の話を喋ったあと

忘れてたと

ふたりで選んだ誕生日プレゼントをくれた

前から欲しかった
〇〇の時計
きっと、彼が選んだのだろう
息子が欲しかったと言う彼の本心に
嘘はないだろう

彼の息子ってどんな感じだろうと思った

帰り際に母さんが

拓の誕生日に
いきなりでゴメン

びっくりしたけど安心した

〇〇さん、こんな母ですが
よろしくお願いします

拓実くん、ありがとう
陽子さんを幸せにします

今度、娘にも会ってください
お兄ちゃんができると喜ぶと思います
 はい、是非

拓実、ありがとう

この歳で
ウェディングドレスなんて恥ずかしいよね
 似合うと思うよ
 良い人だね
そう、私には勿体無いくらい良い人
 
そう、言った母さんの目が
少し潤んでたような気がした

母さんの幸せが
僕の幸せだから

ちょっと寂しいけど
僕は卒業していいんだな

母さんが
これからは彼とハグできるんだな

父さん

父さんの代わりは僕から
あのひとに交代するよ

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