冬夜と言う名前の知ってる気がする彼
初めて会った日から
知ってる気がしたんだ
なんか独特の雰囲気のある
不思議な男の子
そんな印象
高校3年の夏休み明けに
転校して来た彼
岩下冬夜
冬の夜
その名前にも
なぜか、ひかれた
名前だけの素っ気ない自己紹介
この季節に転校は珍しいな
半年後に卒業なのになぁ
お父さんが転勤族なのかなぁ
そんな事を考えてたら
先生が
山﨑!
はい
の隣の席に
なんかわからない事あったら
山﨑に聞くように
わたしなの?
適当に決められた学級委員なのになぁ
冬夜はぺこりと会釈して席についた
なんか、この顔
どこかで見た記憶があるような…
まぁ、そんな訳ないよね
休み時間に
山﨑さん、あとで、校内案内してくれる?
と彼が言った
うん、イイよ!放課後でいいの?
うん
放課後
無言で案内するのもなー
と思ったので
私、ひとりで喋りながら
校内案内した
ここが、
職員室 ここ結構にぎやかなのよね、特にうちの担任
隣は校長室 校長先生優しいよ
音楽室 先生はベートーベンってアダ名
図書室 図書委員が仕切ってるよ
化学室 先生は暇な時、色んな実験してる
ひと通り回ったかな
岩下君、もう、3年生の後半になるけど
興味ある部活ある?
覗きに行こうか?
美術部
前の学校でも美術部だったの?
イヤ
ま、私の友達部長だし、取りあえず見に行こう
(なんか、会話しづらい)
ココが、美術部
まきちゃん、ちょっと見学したいんだけど
めずらしい、優子がここ来るなんて
転校生の岩下君の見学の付き添い
そーなんだ
岩下君、経験者?
イエ
今、秋の美術展の準備してる
色々作品作ってるから、見ていって
はい
岩下君が見学してる間に
まきちゃんに確認しとこう
まきちゃん、今からでも美術部入れる
ま、大丈夫だよ、文化部は引退ないし
ちょっと、あの子、口数少なくて
何考えてるかわからないけど
転校生は、最初はそんなもんなんじゃないの?
そーか、そーだよね
もし、入りたいって言ったらよろしく
うん、任せて!優子も入る?
えっ?私はパス、無理〜
岩下君、どうだった美術部?
うん
入るなら、言っとくけど?
うん
えっ?どっち?入る?入らない?
うん、どうしよう考え中
まーイイけど
前の学校でなんかクラブ入ってたの?
うん
なに?
軽音楽部
えっ?意外
フッ
なに?
山﨑さんて、顔にも言葉にもすぐ出るよね
ごめん、変な顔してた?
いや、山﨑さんが隣で良かった
へへ、そぉ?
明日も美術部見学付き合ってくれる?
イイよ
じゃあ、また明日
今日はありがとう
うん、じゃあねー
最後、なんか普通にしゃべれてたなぁ
まきちゃんの言ってたとおり
転校生はあんなモンかもね
次の日の放課後
マキさん、今日も見学してもイイですか?
うーん、そうだね
じゃあ、一週間体験入部ということにしよう
ちょっと待ってて
まきちゃんなんだか、ゴソゴソしている
はい、じゃ、ここで
これをスケッチして
テーブルの上に四角形と丸い花瓶
その後ろに2つのイーゼル
がようしとえんぴつ
まきちゃん、2つあるけど?
優子と岩下君の分
私、入部希望してない
岩下君ひとりだと、心細いでしょ
優子時間あるんだから
付き合ってあげなよ
うん、うん、と頷く彼
私も部員も美術展の作品作りで忙しいから
簡単な質問には答えるけど
じゃまはしないでね
さぁ、じゃあ始めて
私、何やってんだろう
苦手なのに〜
ふあっ〜と
窓から、優しい風とひかり
校庭から聞こえる運動部のにぎやかな声
作品作りに没頭する彼等
となりから聞こえるえんぴつの音
この空気感は好きかもしれない
彼を見習ってはじめてみた
対象物を、見ながらえんぴつを走らせる
上手に描けないけれど
心が穏やかになっていく
隣の彼はなんだか幸せそうな顔して描いてる
放課後の学校って、こんな感じなんだ
高校3年になって、はじめての体験
(わたし今まで、損してたかもしれない)
さぁ、そろそろ終了しましょう
と、まきちゃん
優子、岩下くん、初日はどうかな?
明日も頑張ろうね!
はい
うん
帰り道
山﨑さん、付き合ってくれてありがとう
苦手だけど、意外と楽しかったよ
うん、そーだね
色んな事考えずに
無心に描いていくのが良かったかも
(なんだろ?なんか悩みでもあるのかなぁ)
岩下くん、聞いてもイイ?
何?
今のタイミングで転校って?
なんでかなぁと思って
だよね、卒業まで待てっからでもって思うよね
両親が色々と揉めて、結局は
別れる事になって
俺は母ちゃんと一緒に
母ちゃんの実家に帰ってきたんだ
母ちゃんキツイ人だから、前からよく喧嘩してた
父さんはそんな、母ちゃん見るのが
嫌だったんだろうな
他の人に優しさ求めたのかなぁ
ごめん、余計な事聞いちゃった
大丈夫だよ
今は、笑ってる母ちゃん見れてるから
ただ、父さんと会えなくなるのはさみしいな
俺は、父親っ子だったから
ごめん
俺、この町好きだし、全然、大丈夫
小さい頃は家族で
夏休みとか
この町に帰ってきてた
そーなんだ
もしかして、小さい頃会ってたかもね
うん、会ってたよ
一緒に遊んだよ
ゆうちゃん〜って追っかけてた
覚えてないか
ずっと前だしね
えっ?待って、私と?
学校の北側の神社の隣の公園で
ソコは、私、お母さんと、よく行ってた
私は遠い昔の記憶を思い返していた
ボヤけた映像が段々と鮮明になっていく
小さな男の子がこちらを向いて
笑って手を振っている
なんか言ってる…
ゆうちゃん…
ふゆくん…
あっ、ふゆくん?
そうだよ、そう呼んでたね
あっ、冬夜、冬くんなんだ
うん
ごめん、忘れてた
俺はすぐわかった
ゆうちゃん、昔のままだった
面倒見がよくて
俺はゆうちゃんの真似ばっかりして
追いかけてた
そうだったんだ
ゆうちゃん、これからもよろしく
ふゆくん、こちらこそよろしく
また、明日!と笑って別れた
だからなんだ
初めて会った日から
知ってる気がしたんだ
明日から
もっと楽しくなる予感がした
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