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写真の中の彼

私は彼が好きだった

彼を振ったのは私

彼に言えない秘密があった


高校生になった時
同じクラスに彼はいた

誰からも好かれる彼に
話しかけられずにいた

楽しそうに友だちとはしゃぐ
彼を見ていた

日直の仕事で同じになった時
彼から話しかけてきた

高田さん、休み時間、俺うるさい?

なんで?

高田さん本読みしてるし
たまにこちら見てるから
うるさいのかと思って

ううん
いつも楽しそうでいいなぁと
思ってるよ

そーか、それならイイや

次の日から、彼は
遠くにいる私に
そーだよね!高田さん
と話を振ってきた

私は「うん」とうなずくだけだけど
その輪の中にいるようで
心地良かった

2年生になってクラス替えで
彼とは違うクラスになった

隣のクラスなので
相変わらず楽しそうな声は聞こえてきた

ある日
図書館で本を読んでいたら
テーブルの前に座る人がいた

こんなに広いのに
テーブルも多いのに
ここ座らなくてもいいのに
と顔をあげたら
彼だった

小さい声で
後で、隣のカフェでお茶しようと
笑顔で言われた

可愛い笑顔に
思わず
うんと答えていた

それから
おしゃべりな彼と短い返事の私の会話

私は楽しいけど
彼は退屈じゃあないのかな?

そんな事を思いながら
ジュース一杯で長いこと話していた

帰り際に彼は
高田さん、帰り道一緒だから
明日から一緒に帰ろうと言った
 なんで?
俺、高田さん好きみたい
もっと、話したいし
ダメ?
 ううん
 私も もっと話したい
良かった


それから、帰宅部だった私たち
毎日一緒に帰った

まわりは驚いていた
すごく不釣り合いな二人?
に見えてた気がする

彼といることで
わたしは変わっていった
笑っている私が増えた

のんちゃんはやっぱり
笑ってる方が可愛い
と、私の隣で
魔法の呪文を唱える

その魔法で私は
自分を肯定できた
自信を持てた

彼の居ないところでも
笑って話せる人になった
友だちも増えた

彼という大きなベールに包まれて
私はとても幸せだと感じていた

ずっと続くと思っていた


高校3年の秋
それまで影を潜めていた
病気が再発した

小さい頃に病気になって
治療して
完治していたと思っていた

貧血のちょっと重い病気

都会の空気は私の身体では
対応できなくなっていた

高校卒業してから
療養所に入ることになった

卒業と同時に
彼にさよならする事を決めた

病気のことを伏せて
元気なふりをして

彼にどう言えばいいか
ずっと考えていた

療養所の近くに両親も
引越しする事になっていたので
もう、誰も私を探す事がないだろう

話があるんだと
卒業式の前の日に
待合わせした

裕くん、3年間ありがとう
裕くんと楽しい高校生活送れて良かった

 俺ものんちゃんがいて楽しかった

明日で裕くんとサヨナラしようと思う
卒業と同時に
私達の関係も卒業しよう

 えっ?どういう事?

私、卒業したら直ぐに
地方に引越しするんだ
だから、もう会えない

 どこに?
 そんな事、なんで1人で決めてるの?
 俺たち、付き合ってるよね

うん、ごめんね
私、もう、裕くんいなくても
生きていける
遠距離恋愛はできない
裕くんとはもう、会わない

 俺たち、それぐらいの関係だったって事?

うん、そーかも

 のんちゃん、それでいいの?

うん、そうしたい

 のんちゃん、変わったね
 俺はのんちゃんにとって
 スグに別れられる関係だったんだね

うん、裕くんのおかげで強くなった

 俺が嫌だと言っても
 気持ち変わらないの?

うん、変わらない

 なんか、俺すごくショックだ

ごめんね、裕くん
今までありがとう
頑張ってね
裕くんなら、楽しい大学生活送れるよ

じゃね!バイバイ

うなだれている彼を残して
颯爽とその場を去った


私の頬に
あとからあとから涙が溢れてこぼれた

彼に悟られないように
凄く強気な私を演じた


卒業式には顔を合わさない様にした
情けない顔を見られたくなかった


最後に
遠く離れた所から
バイバイをした

………………

あれから
何度目の春が来たんだろう

彼は元気にしてるかなぁ
青い空の下で
思うのは
あの日のふたり
彼の笑顔
笑い声

病室には
一枚の写真
高校生のふたり

思い出って
嫌な思い出は消されてなくって
笑ってる楽しい思い出ばかり


可愛い彼氏だね
と病室に来た人は
この写真を見て言う

ふふっと笑って
いーでしょ と言ってみたりして

この部屋だけの
秘密の私の彼氏

彼を想う気持ちが
私を生かしてくれる

今日はすごくきれいな青空だ
こんな日は調子もいい

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高田希子さん面会ですよ
お部屋ご案内しますね

とアナウンスがあった

誰だろう
お母さん達、昨日来たのになぁ?

コンコン!


ドアが開いて
そこにいたのは彼だった

なんで?……


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