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【本】人の歴史を知ることは、理解への一歩ー「三代」

先日のTHE M/ALLでの、Mooment Joonさんのトークショーで話に出てきた文藝2019年秋号に掲載された、自伝的小説「三代」が、i-dで全文無料公開が始まった。


トークの中では、父権主義の韓国の歴史的背景や、徴兵で軍隊にいたときに経験したことなどが語られたが、実際にこの小説を読んでいないと、断片的にしかわからなかった。

1時間のトークの中で、Mooment くんはものすごく深く自己対峙し、根源的なところから選んだ言葉を喋っていると感じた。
もちろん今の立場や情勢にも関わることはたくさん話しているけど、背景に当事者としての自分とその自分の語る意味みたいなものを感じる話し方だ。


それはこの小説を読んで、彼自身の中にどう作られてきたものかが理解できた。

三代では、祖父・父・自信が韓国の歴史の中(特に戦争や軍隊の経験)で
どう生き延びてきたか、そしてその経験がどう人格形成に影響を与えてきたか、ひいては現代韓国社会に、そうやって積み上げられてきた思想がどう根付いているかまでを示唆するような小説だった。

軍隊の縦社会のすさまじい暴力や支配は、太平洋戦争時代の占領下で旧日本軍をモデルにできてきたもので、敗戦により日本では解体されたものの、そのまま朝鮮では継続して体制が続いてしまい今も少なからず、その思想が受け継がれている。

父は逃げることを許さず、男らしく真っ当であることが正義であると息子に押し付けるようとする。
それは、単に父が「そういう人」ということではなく、生い立ちや軍隊の経験を経て、避けることのできない社会の構造から生み出されたものだったのかもしれない。


トーク中に磯部涼さんが、ある意味で韓国の現代に続く父権主義みたいなものが、「文藝」のテーマである「韓国・日本・フェミニズム」に対しての呼応したものになっているというような話をしていたけれど、まさにフェミニズムを語るときに、男性側(特に世代が上の)にミソジニーの人格否定や現代のあたり前を押し付け分断を生みがちではあるけれど、社会システムや歴史から生み出された思想を植え付けられるような経験をした、簡単には現代に順応していけない「被害者」とも呼べる人々もいる。(だからといって他人を差別・侮辱することを正当化する理由にはならないけれど)
それはフェミニズムの話だけではなく、他の思想対立や世代間分断にも同じことが言える。

そして、そういう歴史には大きく自分や自分の祖先も関わりを持っている。
なのにいま生きている私は、韓国の歴史も、今の現状も知らない。
今、私達は未来に続く子孫に、何を残す社会を作っているのだろうか。

身内だから掘り下げることができたのかもしれないが、身内や自信のことだからこそ、向き合うのは凄まじく苦しみを生むことだっただろう。
そういう人にしか、生み出せない言葉がある。重みがある。

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