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The circle of Prayers(『リリカルなのは』二次創作小説・連作名『rallentando』)

リリカルなのは二次創作小説・ritardandoシリーズ(一作目二作目)の三作目、物語の〆となる作です。
当作も「1ファンの活動の一環であり『原作とはいささかも関わりがない』ことをご理解の上(GLというテーマ含め)ご自身の判断に基づいてご高覧いただければと思います。区切り線より下、本文です。


"いっそバインドを掛けてしまえばどうなんだ?"
"それは出来ない。犯罪者じゃないんだぞ"
"しかし、あの魔力量で抵抗されると厄介だ"

少し開いた扉から、周りを憚りトーンを落とした声が聞こえる。隠れる様な声に少しずつ苛立ちが募った。だから、私は扉を開けて ―

私が現地に向かいます。皆さんはバックアップをお願いします ―

「直々にですか?……では至急随員の見直しを……」

「それは無用です。公用車の空き、ありますやろか?」

私単独で動きますからそれで充分です、と伝えると、局員は一瞬動きを止め、窺う様な視線を向けてきた。

「当人の要望を確認し、此方の真意を伝えるのが今回の主眼です。大勢で押しかけたら、話せる事も話せなくなりますやろ?」
 
判らないのならば。分からない事が不安なら、自分で歩いて確かめればいい。

 ― The circle of Prayers ―

【 CASE 0 】

現地に向かったのは、三回目の通信を終えた翌日だった。公用中を示すシグナルを点灯させ、路地の端に車を駐める。車を降りて少し歩くと、少し古びた民家の前に少女が立っていた。こちらを見つめる瞳は、この場に不釣合いな位に真っ直ぐだった。

「管理局特別捜査官、八神はやてです。少し話をしたいと思いまして。あがってもいいでしょうか?」

お祖父様達にご挨拶もしたいですし、と言葉を繋ぐ。一瞬目を見開いた後、無言のままで少女は踵を返す。私は開け放たれた扉をくぐり、彼女に続いて家の中に入った。

「まずは、お線香を上げさせて頂いてよろしいでしょうか?」

机の上に二つの写真立てと香炉が置かれている。線香を立て、フレームの中で寄り添う二組の夫妻に手を合わせた。

「……知ってるんですね、ちゃんと」

「え?ああ、"お作法"ですか。ちゃんと、とは言えへんけど、一応は」

少女が私の横に並び写真に手を合わせる。表情の読み取り辛い顔が、クスリ、と小さく笑った様に見えた。

「この家、どことなく"和風"ですね。玄関に靴箱があったし。あ、和風て言うても分からんかな……?」

「知ってます。この家、お祖父ちゃんが建てたから」

小さい頃からよく聞かされていた、と語る少女に、ご先祖は第97管理外世界出身なのかと問う。頷く顔がそれを認めるのを見やり、言葉を繋ぐ。

「私は97世界― 地球 ―で生まれて、中学を卒業するまで住んでたんです」

だから靴を脱いでくれたんですね、玄関で。私の言葉を受けて少女は微かに微笑んだ。

言葉を交わす毎に少しずつだが和らいでいくその表情は、事を急がなかった事を是とする証になるだろうか。通信を含めた少女とのやり取りを改めて思った。

「……さて、そろそろ本題に入りたいんですが」

少女は私の目を見つめた後、頷いた。そこで待っててください、とローテーブルを指すと、立ち上がりその場を離れる。

ローテーブルの前に座る。正座なんて何年振りやろ、足、しびれんとええけど。そう独りごちて苦笑する。

「……どうぞ」

テーブルに緑茶を入れた湯飲みが置かれる。

お座布、勝手に敷かせてもらってます、と断りを入れると、頷いて、足は痛くないかと気遣いの言葉が返された。

「印象度を上げといた方が話を進めやすいかなぁ、思うて」

「通信で話した時から思ってたけど、やっぱり変わった人ですね」

でも、嫌じゃない。どうしてかな。そう話す横顔に少し赤くなった耳が覗いていた。

"本人の了承を得ました。今後の進捗は随時、八神より通達します。担当局員は通常任務に移行して下さい"

局に報告を入れ、少女に向き直る。局と自宅の連絡先を渡そうとして、ふと思い付き、「八神はやて」と自分の名前を日本語で紙片に書いた。

「模様にしか見えへんやろけど。私の国ではこないに書くんです、私の名前」

少女は紙片を受け取り、しばし見つめた後、裏に返した。そこにペンを走らせる。右手首にはめられたシルバーブルーのブレスがチカリと光った。

「私の名前は日本語ではこう書くって、お祖父ちゃんから教わりました」

私の名と背中合わせに書かれたその文字は ―


【 CASE 1 】

「"偽"って漢字、なして"人"が"為"すって書くんか知っとる?フェイトちゃん」

「また唐突というか懐かしいというか。そういうのは、はやての方が詳しいでしょ?」

「漢文・古典は得意や無かったし。辞書引かんと分からんよ、そんなん」

なら何で私に訊くの? と訝しげにこちらを見るフェイトちゃんの前で携帯コンソールを開いた。

「字源辞典、データ化してもろたんよ、司書長様にお願いしてな。えーと……『人の行いには過ちが付き纏う為、尚諸説有り』か」

「はやて、職権乱用」

「ユーノ君のお休みに頼んだんよ。お礼はお昼のサンドイッチ」

ニヤリと笑った私の前に、湯気を立てたカップが置かれる。

「はやてちゃん。それ、"隅に置けない"ってヤツなのかな~?」

……なのはちゃん。含み笑い、私とええ勝負しとるやん。コーヒーを一口啜り、「ご期待に添えなくて恐縮や」と返した。

「さて、前振りは終わりや。お邪魔して早々に肩張る話やけど、二人とも、これ見てくれるか?」

微かな機械音を立て、コンソールの画面が切り替わる。一体のデバイスの映像と、その解析数値が浮かび上がった。

「インテリジェントデバイスだね。待機フォームはブレスレット、デバイスフォームが……ダガー?」

「せやね。製作者の意図によると、"鍔無しの小太刀"をイメージしたそうやけど」

画面が伝える情報を見て私に確認してくるフェイトちゃんに答える。表示されているデバイスは、使い手に合わせてカスタマイズ、リメイクを施したものだった。

「あの子がお祖父さんの遺したものを引き継ぐ事は問題ないんよ。ただ、それを実行する局員がちょいと勇み足してしもて、なぁ」

私は小さく溜息を付いて、次の資料を画面に呼び出した。


事例No.AB0033672891-D5873221
記述年月日:新暦0078年○○月○○日
報告書作成者:管理局事務官YY

【ミッドチルダ居住区XX在住 K.N(略称)保護活動記録2】

K.Nの祖父、メカニック技術官S.Nが○月○日に死去。両親及び祖母はKが6歳時に死亡しておりKの血縁者は皆無。届出事項等に基づき、居住住居を訪問、事情を聴取。
その際、祖父より相続・移譲されたK所有デバイスの特殊性に注目した局員CがK本人の同意を得ぬままデバイスの一時委託を試み、それを阻止せんとしたKがデバイス及び魔法を発動。尚、威嚇発動の為、負傷者はゼロである。
        (中略)
推移を憂慮した当件アドバイザー、マリエル・アテンザ技官の進言により八神はやて特別捜査官に対応を依頼、当事例の収拾を図る。
        (中略)
以後、当事例の対応については上記二名に委ねるものとし、当報告書を以って本事例を終息とする。



ねぇ、はやてちゃん。
画面を見つめていたなのはちゃんが、私に声を掛けた。

「起動フォームは単独のダガーだけど、ダブルに変形可能だよね。それとさ、この子の魔力だけど……」

「変形モードと殺傷設定は発動不可に固定されとる。解除コードはお祖父さんから教えられとるけど、デバイスマイスター以上の技術者やないと解除できないそうや。魔力は、これだけで断定できるもんやないけど……」

バーストショットの威力、当たる直前で逸らす制御力。魔導師ランクに換算するとAA以上、恐らくはAAA相当。私の答えになのはちゃんとフェイトちゃんが頷いた。
 

「デバイス起動も魔法発動もしたくなかった、てゆうてたそうや。大切な形見を引ったくられそうになって、心ならずも、やね。させてしもたんや、私らが」

「迅速な処理。その後ろに人を置き去りにしていないか。私にも覚えがある。胸が痛くなるよ、振り返ると。……それで、あの子はこれからどうなるの?」

はやてが暫く後見人になるんだよね。フェイトちゃんが私の顔を覗き込む様に訊ねる。

「詳しい事はこれからやけどな。卒業したら陸士訓練校に入りたい、ゆうとったよ」

― それは自宅訪問の三日後、通信で聞いた少女の決意だった。

「初めまして。マリエル・アテンザです。 カノンちゃんで間違いないかな、お名前」

通信コンソールに映る少女にマリーさんが微笑む。頷くカノンに話を続けた。

「私、メカニックの仕事してるの。カノンちゃんのお祖父さんにもお会いした事あるんだよ」

"お祖父ちゃんに?ほんとですか?"

カノンの問いにマリーさんが頷く。少しの時間だったのが残念だ、教えを請いたい程、優れた方だった。そう語るマリーさんの言葉にカノンの目が大きく開かれ、目元が赤らんでいく。

"お父さんから、そしてお祖父ちゃんから。魔法とヴァリアントエッジ、デバイスの使い方を教わりました。大切にしたいんです、これからも"

「そうか。改めて聞くけどな。ここにいるマリーさんと私で相談に乗れる事はないやろか?考えて、聞かせて欲しい」

"……はい。決めていること、ひとつだけあるんです" 

カノンは画面を射抜く様な、あの真っ直ぐな瞳を私達に向けた ―
 

「カノンちゃんは11歳、通うとる魔法学校の卒業まで後一年や。カリムんとこの学校の話はしたけど、決めたことは変えへんやろね」

私が財産面の、マリーさんがデバイス面での後見を勤めるのは、ヴァリアントエッジをカノンの手元に留める為でもあった。

「"マスターに相応しい人の傍にいるのがデバイスの幸せ"。マリーさんらしい言葉だよね」

なのはちゃんが窓の外を見やりつつ呟く。彼女の胸の紅珠も、友の金色の宝石も、私の胸に下がる小さな剣十字も、静かに佇み存在を潜めたままで。

「ヴァリアントエッジのメンテはシャーリーが適任者やて、マリーさんのご推薦があんのやけど」

フェイトちゃんの横顔を見やる。シャーリーに話したら、腕まくりして待つだろうな。紅色の瞳が笑みの形に細められた。

「フェイトちゃん、なのはちゃんは勿論やけど。カノンちゃんの力になれる人、仰山おんねんな」

「はやてちゃんの人脈、今まで努力を重ねてきた証でしょ」

なのはちゃんの言葉に首を横に降り、話を続けた。

「改めて思たんやけど。色んな人の力があったからなんやね、私らが魔導師としてやってこれたんは」

少しずつ返して、次に伝えていかんとな、これからも。その思いは音に乗せず。

「『鳴島花音』ちゃん。綺麗な文字だよね」

少女の名が書かれた紙片を見つめるなのはちゃんの髪が風に揺れる。三人で窓辺に立ち、雲が夏の形を結ぶ空を仰いだ。


【 end of case 】

地面を滑る水の音が聞こえてくる。昨日の天気予報、外れやね。雨が降っとる。覚め切らぬ頭の奥でそう思い、瞼を上げる。いつもと違う、けれど見覚えのある天井。……ああ。これは、波の音や。

物音を立てぬ様にそっとドアを開き、外へ出る。コテージの前に立つと、砂浜が見える。海辺へと歩を進める。空は淡い朱が水色に変わる途中だ。
久し振りやなぁ、潮の香り。砂を踏みしめ、ぐっと背伸びをした。

「随分、朝早いのね。眠れなかったんじゃないわよね」

「お陰様でぐっすりやよ、アリサちゃん。雨も降らんと思うし」

そんな事、言ってないわよ。勝気な翠の瞳が私の横で笑う。

「おはよう。いいお天気になりそうで良かったね」

少し遅れてすずかちゃんが私に並んだ。

「はやてちゃーん、おはよー」

後ろからなのはちゃんののんびりした声が届く。

「……なのはぁ、ちょっと待ってよ」

……フェイトちゃんもか?雨は降りそうも無いんやけど。

横に立つ二人に笑みを返すと、私は声の主に振り返った。

「おはよう。晴れてくれて良かったなぁ」

貝を拾おう。まだ夢の中にいるヴィヴィオの為に。そして、この青空が繋ぐ人達に。青空を届ける為に。

海鳴の夏。淡い青が私達を見下ろし、きらりと光った。



The story of three heroines closed.The overall title is "rallentando"…I wish that people who read these tales feel warmth.
照れ隠しに格好付けの英語でご無礼を。捧ぐべき全ての感謝を込めて。    
Form: Harunaga Mutsuki            

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