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サッカーのフィジカルコーチの役割とは〜トレーナーなの?コーチなの?〜

サッカーにおけるフィジカルの重要度が近年増しています。

具体的にいうと、サッカー選手は前後半90分間で直線走と方向転換を含んだ全力疾走を間欠的に繰り返しながらおよそ10~12kmもの距離を移動し、数十回のスプリント、700~1200回ほどの方向転換を行っています。
そして最近では1週間に2試合以上、中2日、中3日の間隔で試合がある週も存在します。

このようにフィジカルトレーニングやコンディション管理の重要度が増していき、サッカー界ではそのような役割をフィジカルコーチが担うとされています。

では皆さん、フィジカルコーチはどんな人が担当するのかご存知でしょうか?

コーチ?トレーナー?どっちでしょう

さらに言えばトレーナーが担当するにしも、アスレチックトレーナー(AT)なのか、理学療法士(PT)なのか、ストレングス&コンディショニングコーチ(S&C)なのか、誰が担当するのか分かりますか?


そもそもAT、PT、S&Cって何それ、トレーナーにも種類あるの?トレーナーって、怪我の治療も怪我のリハビリもパフォーマンスアップも、全部できるんじゃないの?なんて思っている方も多くいるのではないでしょうか

そこで今回はフィジカルコーチの役割や日本でのフィジカルコーチの現状を明らかにし、フィジカルコーチの今後について話していきたいと思います。

トレーナーの役割

まずは各トレーナーの役割について見ていきます。

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この図のようにトレーナーは対象者や目的によって役割が異なります。

具体的にいうと一般の人を対象に怪我の治療や予防を行うのが理学療法士アスリートを対象に怪我の治療や予防を行うのがアスレティックトレーナーアスリートを対象に体力強化を行うのがストレングス&コンディショニングコーチです。

もう少し具体的にいうと 

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となっています。

そしてこのように

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それぞれのトレーナーがオーバーラップする部分もありながらそれぞれの職域で協力しながら仕事をしています。怪我から日常生活の復帰を理学療法士が行い、日常生活から競技復帰をアスレチックトレーナーが行い、ストレングス&コンディショニングコーチがリコンディショニングや怪我をしていない選手へのパフォーマンスアップやコンディショニングを担当しています。

ではフィジカルコーチの役割はどのようになっているでしょうか?


フィジカルコーチの役割について書かれた文献によるとフィジカルコーチの役割は

✅年間計画の立案  
✅フィジカルトレーニングプランの立案、実行
✅選手個々に合わせたプログラムの作成  
✅怪我の予防 
✅メディカルスッタフとの連携

 とされています。

つまりフィジカルコーチはS&Cコーチの役割に近いといえるのかもしれません。

ただサッカー界のフィジカルコーチの資格であるAFC Fitness Coaching Certificate Courseの募集要項を見てみると「A F C 、B級もしくはJ F A、B級指導者ライセンス保有と、一年以上のサッカー指導経験がある方」と記されています。

つまりフィジカルコーチはS&Cコーチとしての能力の他にサッカーの指導者としての能力も必要になるのかもしれません。

このようにフィジカルコーチの役割はまだまだ曖昧な状況です。そこで現場でのフィジカルコーチの認識を問うためにアンケート調査とJリーグでの雇用状況を調査しました。

アンケート調査

質問は項目は1〜34で1~7で回答者の特徴を、8~11でフィジカルコーチの雇用状況を調べ、12~34でフィジカルコーチの理解を5件法で回答して頂きました。

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結果&考察

-回答者の特徴とフィジカルコーチの雇用

回答者は107名
年齢 20代 71人 30代 29人 40代 6人 50代 1人
性別 男性100人 女性7人
職業 コーチ30人 トレーナー32人 フロント8人 選手20人 その他17人

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指導歴(平均) コーチ、監督 約5年5ヶ月   トレーナー 約6年2か月
フロント 約5年11か月 選手 約14年半
対象者 1種21人 2種18人 3種13人 4種15人
対象者、自分の所属リーグ 全国 22人 地域 30人 都道府県 30人 その他 17人
フィジカルコーチがいるか いる43人 いない57人

フィジカルコーチがいると回答した人の所属リーグを見ると全国レベルで20人、地域レベルで11人、県レベルで10人でした
カテゴリーで見てみると1種が12人、2種が4人、3種が7人、4種が0人

雇用形態 フルタイム 21人 パートタイム 22人
その他のトレーナーがいるか いる34人 いない9人
いるトレーナの種別 

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のようになっていて、このことから、フィジカルコーチの雇用はトップレベルに偏っていること事が分かります。
その理由として高いレベルでは、フィジカルコーチを雇用する経済的な余裕がある。
フィジカルコーチの必要性を理解している。
フィジカルコーチ自体の数が少なくて雇用がトップレベルに限られているなどが考えられます。

-フィジカルコーチの理解

後半のアンケートは五件法を用い、全く当てはまらない、当てはまらない、どちらとも言えない、当てはまる、大変よく当てはまるの5項目で回答していただきました。

そして集まった回答を記述統計し分散、標準偏差、平均値を出しました。

全く当てはまらないを1~大変よく当てはまる5にしたので、平均値が1に近いほど当てはまらない、5に近いほど当てはまるのように解釈しました。

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アンケートの回答からフィジカルコーチの役割は

✅パフォーマンスアップ(4.14)
✅障害の予防(3.95)
✅フィジカルトレーニングの指導(4.28)
✅練習の負荷の設定管理(4.15)
✅ウォーミングアップ(3.82)とクールダウン(3.69)の指導

だと理解されています。
世間ではフィジカルコーチの役割はS&Cコーチの役割と近いと認識されていてメディカル系の役割やコーチとしての役割はしないと理解されています。

※メディカル系の回答 外傷の応急処置(2.41)テーピングを巻く(2.38)怪我からの復帰(3.38)マッサージやストレッチなどのケア(2.61)
※コーチ系の回答 指導者ライセンスを保有する必要がある(3.33)、サッカーの技術的指導(2.63)、試合の采配(1.55)

ただし、職業別に回答の平均値の差を検定してみると

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のようになっていて、コーチはトレーナーに比べてメディカル系の役割を担当すると考えている傾向が見られ、フィジカルコーチとの職域が曖昧になっている可能性があります。


-Jリーグ雇用状況

J1〜J F L全71チームのホームページ上のスッタフ情報を基にフィジカルコーチの数やその他のトレーナーの数、公開されている各トレーナーの取得資格を参考にJリーグでのフィジカルコーチ、各種トレーナーの現状を把握するのに利用しました。

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フィジカルコーチはJ1〜JFLの71チームで46名その他のトレーナーは、A Tが29名、P Tが23名、トレーナーが133名、その他が22名、全体でトレーナーは253名が雇用されています。

カテゴリー別に見ていくとフィジカルコーチは、J1、18チームで20 人、J2、22チームで18人、各チームに1人近くフィジカルコーチが雇用されていて、尚且つフィジカルコーチ以外のトレーナーも合わせて雇用されています。そしてカテゴリーが下がるにつれてフィジカルコーチの数、その他のトレーナーの数も減っています。

このことはアンケート調査の結果とも類似していて、レベルが上なほどフィジカルコーチが雇用されています。

その理由は

フィジカルコーチを雇用する財政的な余裕がある。フィジカルコーチの必要性を理解している。カテゴリーが上がるほど試合数が多くなりコンディショニングが重要になる

などが考えられる。

また所得資格を見てみると、フィジカルコーチでは、J F A B級ライセンス、NSCA-cscs、A F Cフィットネスコーチなど、A Tでは、JSPO-AT 、P T、鍼灸師など、P Tでは、P TやA Tなど、トレーナーでは、鍼灸師、柔道整復師などを取得している事が多い。

ただしフィジカルコーチやA T、P Tとして雇用されるために、取得していなければいけない資格は定義されていないのが現状です。

今後の課題


今後の課題はフィジカルコーチの需要に供給が間に合っていないトップレベルに雇用が限られている境界が曖昧、の3つあります。

需要に供給が間に合っていないことは、アンケートのフィジカルコーチはチームに必要であるか、という回答を種別に見てみるとよく分かります。

回答の結果は1種(4.6)2種(4.5)3種(4.53)4種(4.4)のようになっていてどの年代でも需要がある事がわかります。

それなのに、アンケートの結果ではフィジカルコーチはトップレベルに雇用が偏っていて下のカテゴリーでは雇用されていない現状があります。つまり需要に対して供給が間に合っていないという事です。

その課題の原因としてはAFC Fitness Coaching Certificate Courseの受講条件が指導者ライセンスB級以上となっていて受講できる人が限られていることやサッカーのフィジカルコーチとしての知識を身につける機会が少ないことが考えられます。

このように、フィジカルコーチとして統一された知識を身につけるために必要な資格が、限られた人にしか受講出来ない状況ではなかなかフィジカルコーチの数が増えいかず、供給は増えていきません。

そして、統一された知識を持った人が少ないと色々な問題が生じてしまいます。具体的にいうと前のフィジカルコーチできていたことが今のフィジカルコーチでは出来ず、チームや選手にとって混乱が生じたり、フィジカルコーチは求められた役割をこなすために自分の得意ではない分野を担当することになりかねず、双方に不利益が生じてしまいます。


また、今の日本の現状で最も問題なのは育成年代にフィジカルコーチが雇用されていない事だと思います。

NSCAによると育成年代へのフィジカルトレーニングによって傷害の発生を防いだり、傷害の程度を軽くすることが出来るそうです。

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ただ、今のような現状が続いてしまうと、将来日本をしょって立つような選手が怪我によって選手生命が立たれてしまう可能性があります。

しかし統一された知識を持ったフィジカルコーチが増え3種や4種などの下のカテゴリーでも雇用されるようになれば、怪我で苦しむ選手を減らせたり、パフォーマンスアップに貢献し日本サッカー界に大きな利益をもたらします。

なので、現状の課題を早急に解決する必要があります。

課題解決のための提言

現状の課題である、フィジカルコーチが統一された知識を身につける事と、育成年代への普及を解決するためには、資格制度を見直す事コーチに対して知識の普及をすること、の2つが必要だと考えています。

具体的に言うと、AFC Fitness Coaching Certificate Courseの受講条件をC級にし、受講出来る人の裾野を増やすことや下位資格として別の資格を設け、より多くの人に受講してもらうようにするなどの改善が考えられます。

そうすることで統一された知識を持ったフィジカルコーチが増えていくと思います。

しかし、資格制度を変えるとなると、JFAに働きかけなければならず、大きな組織を動かすにはそれなりの力が必要となり、しかも時間がかかってしまいます。

そこで新たな資格を作るのではなく、今現場にいる指導者に知識を普及し、フィジカルコーチっぽい人を増やしていく方が即効性があっていいのではないかと思います。

これは、最近4種のお父さんコーチと話をした時に、「みんなフィジカルについては興味があって自分たちで考えてやってるけど、それが正解なのかとか分からないから、宮脇くん教えてよ〜」って言われたのがきっかけです。

1からフィジカルコーチとしての知識を学びたいという人はそこまで多くないかもしれませんが、今見ている子供に何かして上げたい、でもフィジカルについてはよく分からないって人は多くいると思います。

なのでそういった人達に基本的な知識を身につける機会を作ってあげることが大切だと考えています。

そうして様々な指導者にフィジカルの知識を普及し指導者がフィジカルコーチっぽくなるだけで、多くの子供たちを助けることが出来るはずです。

ただ、僕はまだ普通の学生です。大した知識もなければ、人脈も、影響力もありません。具体的にどうすれば今現場で活動している指導者の方にフィジカルの知識を伝えられるのか分かりません。

なので皆さん力を貸してください、アイデアをください、僕と同じ気持ちを持っている人は、ぜひ一緒に現状を変えていきましょう。お願いします。


まとめ


ということで今回はフィジカルコーチの現状と今後の課題について話していきました。

フィジカルコーチの役割は

✅パフォーマンスアップ
✅障害の予防
✅フィジカルトレーニングの指導
✅練習の負荷の設定管理
✅ウォーミングアップとクールダウンの指導

のように理解されていて、雇用はトップレベルに限られているという課題がある。

その課題を解決するには

✅資格の受講条件を変え、受講できる人を増やす

✅指導者に知識を普及しフィジカルコーチっぽくなってもらう

事の2つが考えられます。

ただ僕にはなんの力もないので皆さん力を貸してください!笑

みんなで日本サッカー界を良くしていきましょう!

編集後記

卒論で扱った内容をとりあえずnoteに書いてみました。フィジカルコーチの役割って多くの人がはっきりと答えられないものな気がします。

この卒論をきっかけに多くの人にフィジカルコーチの存在意義や必要性が理解されればいいなと思います。


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※卒論添付しておきます。良かったら読んでみてください。




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