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ただ歩く人の試み〜10月の雨の日に

先週の土曜、湘南の散歩屋さんことmiuraZenさんが初めて開催する「湘南を歩く人」に参加することになっていた。が、その日は朝から、天気予報通りの雨で、朝一番で中止が決定された。

が、その1週間前に「道草の家の文章教室」でmiuraZenさんに会っていたぼくは(彼はそこでは常連のひとりなのだ)、「少しくらいの雨でも、歩き出してみたいですね? 江ノ電の沿線を歩くなら、途中で諦めることもできるし」などと話していた。

さて、中止だけれど、決行! ということになった。

奇妙な言い方だが、「湘南を歩く人」は、健康のために歩くとか、体力づくりとか、そういった意図を持たず、"ただ歩く"("歩くために歩く")ということらしかった(その中に感じられるメッセージに呼応して参加したいと思ったのだ)。「イベントは中止、しかし、歩きたいひとは雨でも歩く、何なら、誰も来なくても1人で歩こう」というわけだ。主宰者の他に、ぼくも含めて2人が集まった。計3人で、雨の中を歩くワークショップの試みが始まった。

ぼくは、鎌倉駅から江ノ島までを歩く、という以外の前情報を持っていなかった。聞こうとも思わなかった。知らない方が面白い。

前もって貰っていたのは、ワークショップの狙いとして、「歩きながら考えたいようなことがあるか or ないか」「考えたい or 考えたくないのはなぜか」という問いかけだった。

ぼくは普段から自分があれこれ考えていることを知っているので、歩くときはできるだけ頭を空っぽにしたい。とはいえ、そう思っていても自分は何かを考えてしまうだろう。自然と考えてしまうことは、ま、受け止めよう。──などと、現地へ向かう前に「朝のページ」の中でぶつぶつ書いていたら、ああ、そうか、ぼくはいま、"自分のケア"ということを再び考えているんだな、と気づいた。

コロナ禍を通して、"自分を助ける"ということの感触が、少し変化してきているような気がしていた。じわじわと変えてゆく必要がありそうだ。なぜ? そりゃ、もちろん生きてゆくためだ。これまで通りでよいと考えることは、自分にはめったにないことだが… 今回は自分だけじゃなくて、『アフリカ』や文章教室で付き合いのある人たちとのやりとりから感じていることでもあり、"自分だけのケア"を考えているのではない。

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最近、文章教室で使わせてもらっているゲストハウス彩の近くを過ぎて、和田塚という、鎌倉末期の遺跡に立ち寄ったりして(とはいえ何も知らずに立ち寄ったのだ、歴史散歩のつもりはない)、まずは浜に出た。

海を前にすると、いつだって静かな気持ちになる。海の前に住んでいる人は常にそうなのだろうか?(違うのかもしれない)波の音は、いつまでも聴いていて飽きない。パラパラと雨が舞う中で、しばらく過ごした。

しばらく浜を歩いた後、アスファルトの道に戻り、移動のスピードを速める。

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写真なんか撮らないで、ゆっくり歩いたり、たたずんだりしていればよいのだが、今回は中止になったのであり、参加費を払わずに"試み"にのっかっているので、せめて記録写真くらい撮っておこうと思った。

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少しだけアップ・ダウンもある。miuraZenさんの案内で登ってゆくと、先ほどまでいた海岸が、見渡せた。傘をさして雨に包まれながら眺める。

こういう起伏のある道のりは、歩いていて飽きない。楽しい。あっという間である。

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歩いていると、80代らしいおばあちゃんが傘をさして、危なっかしくふらふらしながら歩いているのに出会った。思わず、「だいじょうぶですか?」と声をかけると、パッと明るい顔になって、何やら話し始める。たくさん話したいことがあるようだ。ずっと聞いていてあげたいが、詫びを言って先へゆかせてもらう。

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やがて再び海岸に出た。稲村ガ崎が見える。以前、外出支援の仕事で来たことがあったのを、そこまで来て思い出した。あ、あのときに来たのは稲村ガ崎の公園だったのか、と(その土地と光景だけが記憶に残っていた)。

波の中にはサーファーたちが見えたが、そこは岩の浜で、降りてはゆかずに道路をゆく。

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その頃には、雨でからだが冷えてきていた。寒さを感じていたのは指だった。写真を撮ろうとスマホを触るときにそれがわかった。あと、足だった。

ぼくは数年前に足底腱膜炎をやって以来、歩くとき、いつもではないが、足に微かな痛みを感じることが多い。その日は、すごく調子が悪いわけではなかったが、朝から微かな痛みを感じながら歩いてはいた。

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しかししばらくして再び砂浜に降りてゆくと、その微かな痛みが、うそのように消えた。あれっ? と思った。

砂浜を歩くのは、アスファルトの道を歩くより体力を使う、その方が疲れると思っていた。でも痛みを秘めたぼくの足には、湿り気を帯びたその日の砂浜は優しかった。

その日は結局、予定通り江ノ島まで歩いて、約2時間半。外出支援の仕事では、もっと歩くこともあるので、自分にはたいした歩行距離ではない。とはいえ、ただただ"歩く"に意識を向けながらゆく道のりは、いつもとは少し違ったような気もする。

1人で歩くと、もっと違うことになるだろう。数名で歩くのは、互いのペース調整もし易くて、楽だ。1人だと、ぼくはついペースを上げすぎてしまうから。逆に数名で歩くと、お喋りをしてしまうせいか、ペースが落ちすぎる傾向にもある。もう少しペースを整えて、もう少し長距離を歩いてみたいような気もした(晴れか曇りの日にしたいですね)。

それにしても、電車移動のできる距離を、あえて歩くと、歩いていないと見えない光景がどんどん見えてくる。移動のスピードを人力に合わせる(?)ことによる恵みをたくさん受け取った。

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(つづく)

道草の家の文章教室、10月は「歩く」をテーマにやっています。が、いつも通り、テーマは頭の隅に置くだけ置いて、好き勝手に書いてもらうので(も)構いません。「書く」ことをめぐる、自由気ままな教室です。初めての方も歓迎、お気軽に。事前にお申し込みください。詳しくはこちらから。

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