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喫茶店の必要

今日は仕事で北浦和へ初めて行った。駅から公園、そして美術館のある方へ散歩していたら、なんとなく良さそうな、懐かしい感じの喫茶店を見つけた。「越コーヒー」という。いわゆる"純喫茶"というのかな。現存して、元気にしているのを見たら嬉しくなって、思わず入ってみようということになった。

ぼくは故郷を離れて、大阪の大学生になりひとり暮らしを始めた頃、その後たいへん(個人的に)重要な場所となった喫茶店との出会いがあった。

それはあべの橋筋にあった「田園」という喫茶店で、入り口は狭いが、中は広かった。最初は、ほんとうに"たまたま"入ってみたのだった。頻繁に通っていたので、お店の人とは顔馴染みになるのだが、程よい距離感で放っておいてくれるので、使い勝手がよくて、何かあれば「田園」へ行くという生活になった。

その「田園」では、ひとりの時間が多かったが、1対1の、あるいは3〜4人での、語り合いの場になることもたまにあった。

仕事を持ち込むこともあったし、原稿や手紙を書いていることもあったし、ただ本を読んでいるようなこともあった。

嬉しいことがあって行くし、悲しいことがあって行く。悩み事を抱えて行く。仕事を進めるために行くし、ぼーっとするために行く。

知り合いとバッタリ会うということもあったが、ひとりで過ごしている時間を、皆、お互いに、大切にしていたと思う。

「田園」で生まれたアイデア、書かれた作品、数えきれないほどある。

そこにゆくと、何かがリセットされ、考えられるようになるというマジック(?)もあった。

さて、その「田園」がどんな喫茶店なのかというと、仕事の合間なのだろうサラリーマンや、スポーツ新聞を読みに来るおじちゃんたちや、永遠に喋り続けるおばちゃんたちの巣で、デートの待ち合わせ場所にしている若者もいて、その中には例えば大学の先生がいたりもしたが、インテリの集う場所というわけじゃない。雑多な人たちが出たり入ったりする場所である。

"街場"とは、ああいう場所に生き生きと存在していた。

ぼくは大阪に12年くらいいて、流れ出て行き、その2年後に横浜で結婚して、さらにその1年後くらいに、妻を連れて一度だけ大阪へ遊びに行った。

大阪の街はすでに大きく変わってしまっていて、あべの橋筋も様変わりしていたが、その時はまだ「田園」は(なんとか)生きていた。「田園」を妻に見せられて、ぼくはちょっと嬉しかった。店長さんにも久しぶりに会って挨拶できた。

その少し後、「田園」は「改装のため休業」ということになったと聞いている。

コーヒーを出す店なら幾らでもあるが、あのような場所は、少数派になってしまった。

でも、あちこち出歩いていると、今日みたいに、たまに出会う。出会うと、嬉しくなるのだった。

(つづく)

「道草の家・ことのは山房」のトップ・ページに置いてある"日めくりカレンダー"、1日めくって、4月7日。今日は、桜とハンバーガーの話。

道草の家2階の"ひなた工房"、4/20(土)に「横浜馬車道エキナカフリマ」に初出店します。詳しくは、新しくできた"ひなた工房"のウェブサイトをご覧ください。

※"日めくりカレンダー"は、毎日だいたい朝に更新しています。

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