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謎を謎のままに〜かとうひろみ『小さい本屋の小さい小説』のこと

かとうひろみさんの新刊『小さい本屋の小さい小説』(生活綴方)を読みました。

横浜・妙蓮寺にある石堂書店の向かいに昨年、オープンした姉妹店・生活綴方で、お店の奥にあるリソグラフを使って印刷され、手製本された小さな本で。企画と組版は石堂書店の上で三輪舎という出版社を営んでいる中岡祐介さん、装丁・装画は佐々木未来さん(本の中にも佐々木さんの絵が入っている)。

いわゆる文庫本より背の低いサイズで52ページ、可愛らしい本です。印刷にも製本にも明らかなズレがあったりして、それもそれで楽しいかなあという感じがある(自分も自宅のプリンタと手製本でつくったらこうなる場合があります)。

さて、『小さい本屋の小さい小説』、「小さい小説」というと「小さい小人」みたいで可笑しい感じがありますけど、掌編というのか、Sudden Fictionというのか、ほんとうに短い小説が12篇、収められています。だいたい、どれも1000字くらいかなあ? じつに短い。

「あとがき」によると、生活綴方という店は「有志がかわるがわる店番をするという独特のシステム」で成り立っているそうで、かとうさんはその一員で。そこで昨年の夏、「やりたいことをやってみてください」という宿題に応えてかとうさんは「小説を書こう」となったらしい。月に一度、"小さい小説"を書いて、それをリソグラフで印刷したものが店頭で無料配布されていました。じつは、私は昨年の秋に、その"小さい小説"を2つ、受け取っていました。

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こんどの新刊は、それを1年間続けた集大成とも言えるもの。

かとうさんの小説は、『るるるるん』というリトル・プレスで読んだことがありましたけど、ここまで制限された文字数で書かれたものを読むと、少し印象が違います。

かとうさんの書くものは(私の読んだ範囲で言うと、ですけど)、いつも、日常からズレたところにぐいっと踏み込んでゆく、入ってゆこうとする。

その行為からして、謎をはらんでいる。謎をはらみやすい書き方という言い方もできそうですけど、そうなると、「…というのは、つまりそういうことだったの(かもしれないの)である。」となってもおかしくないところで、かとうさんの文章はそうならず、スッと前に出る。そして謎を謎のままにして、振り切れる感じがある。

それって、どういうことだろう?

書き手が、日常からはみ出しそうになりつつも、ぐっと踏みとどまっているということかもしれない。そのことをはがゆく感じる人もいるかもしれないが、私はそうならない。踏みとどまって、書き続ける中に何が見えてくるか、と思う。この時代、そういう小さな行為の中に何か見いだせるのではないかと思うから。実際、ここでは何か見出している感じもある(まだわからない感じもある)。

「気に入った小説はあったろうか」と「あとがき」で聞かれているので、私も返答をしたい。ひとつは、以前にも読んでいた「希望」(煙草屋の話)、もうひとつは、今回はじめて読んだ「ジェスチャーゲーム」。

本の最後に収められている2篇なのだけど、どちらも、何というか、「別れ」の話だ。そこでかとうさんのことばにぐっと力がこもるような気がする。その、こめられる力を感じながら読んでいます。

(つづく)


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