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モテないおばさんが結婚に至るまでを書きたい5

私はイケメンが苦手だ。画面や紙面越しに眺めるのは大好きだ。イケメンは目と脳の栄養にとてもいいと思う。二次元のイケメンも大好きだ。乙女ゲーも好きだ。イケメン(二次元)が喜ぶ返答の三択ならまかせてほしい。やったね!バッチリ好印象!

だがこれがリアルで自分の目の前に現れると大好きなイケメンも恐怖の存在でしかなくなる。例えばそれが店員と客という立場でも逃げ出したくなるくらい自分が惨めになる。

私なんかと話さなくてはならなくてすみません、ブスがあなた様のようなイケのメン様の前に居てすみません直ぐに消えます、と本気で思ってしまう。

32歳の時に職場の男上司からとある男性の紹介を受けたことがある。どんだけ職場の人から紹介されてんだよ!と思うが私は仕事だけは真面目なので上からの評判は悪くなかった。

その紹介された男性がイケメンだった。本当にイケメンだった。今思い出しても胃が痛くなるくらいイケメンだった。黒髪短髪鍛えられた身体爽やかな笑顔趣味アウトドア、私の理想を体現したような男性だった。嬉しさよりも恐怖だった。

目は見れないし話はどもるし笑顔はひきつるしすぐにでも帰りたかった。だがイケメンは心もイケメンで優しいのだ。少しお茶をしてそのまま映画を観に行くことになった。隣を歩くのも惨めに感じた。鏡に映るイケメンと私が釣り合わなすぎて申し訳なくて泣きたかった。映画館へ着き隣に座ったら吐き気がして退席した。トイレへ直行して吐いた。イケメンの隣にいる、隣に座るという緊張感から耐えられず吐いてしまった。映画が終わってさよならし連絡先は交換したが連絡はなかったし私からもしなかった。惨めだしいい年してこんな自分が情けなかった。

これは若い頃からそうだった。ブスでコンプレックスだらけの自分を卑下してきたので必要以上に卑屈になってしまうのだ。うちはごく普通の一般家庭で両親から愛されて育ったのにこんなに卑屈になってしまったのはやはり体のコンプレックスの影響だと思う。ここには書けないが大きなコンプレックスがあるせいで処女を拗らせて早39年、戻れないところまで来てしまった。

話は戻って美容師である斉藤さんと会うことになった件だ。あまりにも気になったので斉藤さんの美容室のホームページでお顔を拝見しようと試みた。載ってはいたのだがスタッフ数名と一緒の全身画像で顔がはっきりわからない。

ただお店のホームページに載ってるってことは本当に美容師なんだということがわかった。(阿保の感想文並み)

当日、指定されたお店へ向かった。5cmヒールのパンプスに薄いニットセーターとベロア生地の長めのタイトスカートを履き、髪も巻いてセットした。化粧も2時間かけた。相手が私といてくれる限り回りには連れだと思われる。なので今現在私が出来る最上級のお洒落をした。(土台がアレだからたかがしれてるが)

私はお酒を飲まない(体質的に苦手)ので普段飲み屋というものに行かない。たまに行くとしても職場の懇親会とかで行く白木屋やつぼ八などのチェーンの居酒屋くらいだ。

指定された店は繁華街にあるお洒落が過ぎるイタリアンバル(人生で初めて使った言葉)だった。

斉藤さんは少し遅れるらしく先に入店してて欲しいとメールが来た。まじか、美容師との待ち合わせという時点で吐きそうなくらい緊張してるのにこんなお洒落が過ぎる店に一人で入れというのか、初めてのお使いよりハードル高いぞ。外で斉藤さんが来るのを待っていたかったが入っていてと言われては大人(39)だしそれくらいできないと仕方ない(♪しょげないでよベイベー♪)

お店は二階にあり階段を上がる足がどんどん重くなった。(太っているせいもある)入り口に飾られた海外のお洒のお洒落な瓶も、凝った細工の鉄のドアノブを引くタイプの木製の扉も全てが初めてで開けるのが嫌だった。チェーン店なら自動ドアで気楽に入れるのに。

ドアを開けるとチャリーンと鈴が鳴った。店内は外観から想像するより広かった。男性店員がカウンターから出てきて私が「あ、あの今は一人ですが予約がしてあるかと…」としどろもどろで言うと

「ああ、斉藤君の?こちらへどうぞ」

と笑顔で個室のようなブースへ通された。

普段飲み歩いたりデートしたりする人からしたら普通の店なのかもしれない。でも私はこういう雰囲気のお店は初めてだったので、なんだこのお洒落スポットは!東京か!?ここは自由が丘か三軒茶屋か!?(お洒落の情報が古い)とパニックになり店内をキョロキョロと見渡した。

斉藤さんが来るまで注文は辞めよう、とお水をもらい緊張から3杯ほどがぶがぶ飲んだ。お洒落な店は水も美味しい。川越シェフの店なら一杯800円だがここは無料なので良かった。

斉藤さんとは1ヶ月メールのやりとり(内容は淡々)をしたが電話はしていない。声もわからない。顔もホームページのぼんやり全身写真でしかわからない。

どうせ今夜限りの付き合いだ、ホームページの写真もぼんやりだし凄く変な男性かもしれない。第一美容師=イケメンという考えが間違いだ、私を紹介されるくらいだし昔一度行った美容室の男性美容師は聞いてもいない自慢話しかしないクロムハーツのアクセしまくりの油ぎったむっちりおじさんだったじゃないか気楽になろう、このお洒落な店の美味しいものをたらふく食べてさっさと帰ろうなどと思いながら4杯目の水を飲もうとしたところで茶髪の若い男性がふらっと入ってきた

「遅れてすみません」

斉藤さんは イ ケ メ ン だった。

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