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第20夜◇月夜にはそれとも見えず梅の花~凡河内躬恒

月夜には それとも見えず 梅の花
香を訪ねてぞ 知るべかりけり


(意訳:月が照る夜には、すべてが白く輝いて、梅の花をはっきりと見分けることができません。香りを辿って、花の在りかを知るのでした。)

凡河内躬恒 古今和歌集


月夜というものは、白く照らされて見えない夜。

明るくてなにも見えない。
明るみで見える部分というものが、ほんの一面なのだと気づけば、これもまた一種の真実なのでしょう。

そんな見えない夜、ほのかな香りに誘われて、ふと顔をあげれば、そこには梅の花。

ただ花を見るという出来事が、これほど艶やかで美しい情景になりえるのかと、羨ましく思ってしまう。

先に香りの存在があり、その後視覚として花を見る。

香りで花の在りかを知ってから、少し間があったら尚良い。一息おいてから、ゆっくりと顔を上げるようであったなら..。

日頃、闇のない世で生きるしかないならば、沢山の見えないものに囲まれているのだと、せめて心に留めておきたいと思う。

香りに導かれて、辿り着く先には、どんな花があろうか..。