見出し画像

ライブ配信しか観ていない宝塚超初心者から宝塚の魅力はどう見えているか

敬愛する俳優、三浦春馬さんが私にくれたものがまた、一つ増えた。
宝塚との出会いである。

チケットを持っていたにもかかわらず、『キンキーブーツ』日本版の再演に行かなかったことをひどく後悔している私は、観たいミュージカルのチケットを片っ端から取ろうとするようになった。いつ二度と会えなくなるか、分からないからだ。

そして、歌舞伎や能、狂言といった様式的な表現に興味を持ちつつあった時に、頭に浮かんできたのが、宝塚である。

だが、宝塚歌劇団のかかわる公演だからといって、そもそも私はなぜあんなに『エリザベート・ガラ・コンサート』のチケットを取ることに執着したのだろうか。一度も観たことのない、どうやったらチケットを取れるかも良くわかっていない宝塚の公演、しかも5年に一度のガラ・コンサート(この時は何もわかっていなかった)のチケットを、何度も取ろうとしたのはなぜなんだろう。

自分でもよく分からないのだけれど、たぶん「勘」が働いたのだと思う。『キンキーブーツ』の時も、これは絶対観ておかなくてはいけないやつだと直感して、チケットを取ったのだ。あの時の私は、ミュージカルの観劇歴など、ほとんど無かった。

結局ガラ・コンサートのチケットは取れなかった(ぴあ会員ごときで取れるわけがないのだが)。だが、最新のテクノロジーが私に味方してくれた。

「ライブ配信」だ。

2021/4/24、宝塚版『エリザベート』と私は出会った。ミュージカル版ではなくて、コンサートバージョンではあるものの、その魅力は充分に伝わった。ライブ配信システムよ、ありがとう。

『エリザベート・ガラ・コンサート』がどれだけ素晴らしかったのかについては、以下のnoteを参照。

宝塚の魅力その1:演者のクオリティ

以前、ミュージカルについて初心者なりに魅力を語るnoteを書いた。

もう一度、私が思っているミュージカルの魅力について、ここで整理しておこう。主に以下の2つが挙げられると思う。本当は3つ目の魅力として舞台美術も入ると思うけれど、私は今、舞台美術について語る言葉を持ち合わせていないので、今回は省略する。

1)楽曲の良さ
そもそも、ミュージカルでは役のおかれた状況やその人の思いを、曲で表現するのが基本だ。

例えば、『キンキーブーツ』でチャーリーが工場を立て直すことを決意するときに歌う「STEP ONE」。歌いだしではここに居ていいのか・・・と悩んでいたチャーリー。軽快で弾むように「This is time for a shake up. Look at me wake up(起き上がるときが来た。目を覚ましたぞ!俺!)」と転調するところから、最後は「Look what Charlie boy has done. This is step one("チャーリー坊や”の仕事を見とけ!これが第一歩だ!!)」と終わる。いかにも「覚醒しました、俺」、とパッと明るくなってから、最後の「This is step one」の「ワーーーーン」という伸びる高音。実に、この場面のチャーリーの心情をよく表している。

そして、ミュージカルソングの凄さは、オペラと同様「人に寄せて作られていない」ことだと私は思う。

ミュージカル好きの方の中には、何を当たり前のことを言っているのだと思う人もいるかもしれない。だが、例えばシンガーソングライターが作る曲はどうだろう。自分が歌うことを前提に作るのではないだろうか。歌えない歌を作ったところで、誰にも届かないだろう。
そして、ミュージシャンが誰かに楽曲提供をするときも同じではないだろうか。歌い手の歌唱スキルで歌えない曲は、最初から作らないと思うのだ。

童謡なんかは、子どもも歌えるように音域も広くはないし、メロディもわかりやすいものが多い。

つまり、巷にあふれる曲で、歌のついているものの大半は「歌う(であろう)人に寄せて作られたもの」なのである。

ところが、オペラもミュージカルも、曲は「人」ではなくて「物語」に寄せたものなのだ。精緻に作りこまれたミュージカル曲は、音を正確に再現し、俳優が色を付けることで、物語の一部になる。

2)ミュージカル俳優のスキルの凄さ(歌、ダンス、お芝居の上手さ)
1)の話を踏まえたうえで私の意見を書く。大きなミュージカル作品に出演する俳優に要求される歌のスキルは、おそらくMステとかに頻繁に出てくるアイドルやミュージシャンの比ではない。
・2000人規模の劇場の隅々まで「役の心情を」届けられる声量と滑舌
・物語に寄せて作られた曲を歌いきる音域の広さ
・物語に寄せて作られた曲に対する音程の正確さ
・役の解釈により変える、音の強弱の付け方やビブラートの効かせ方
等々、挙げればきりがないほど、歌だけでもきわめて高度なスキルが必要とされる。

加えて、舞台でのお芝居に要求されるのは、役に対する深い理解だ。映像作品のようにカメラで切り取られていない分、全身で役を表現する必要がある。ミュージカルの場合、曲の音を正確に再現することである程度役の心情を表せるはずだが、それだけで観客の心を震わせることはできない。役に対する深い理解は、歌声(声の強弱など)にも反映されるし、舞台近くの人に見える表情や動きにも表れる。以前、他のnoteで触れた「役者の表現力」を高める必要もあるということになる。

また、踊らないミュージカルも無いわけではないが、宝塚の舞台公演では「ダンス」もがっつり必要となる。宝塚音楽学校の入学試験には、歌のみならずバレエがあるらしい。ダンスの基本であるバレエを入学試験に課していることからも、宝塚歌劇団が演者に相応のダンススキルを要求していることは、明白だ。

宝塚歌劇団の魅力は、主に2)で触れた演者の技術が高いことにあると思う。宝塚音楽学校入学時点で、ある程度歌とダンスのスキルが高い生徒さんが揃っているところへ、音楽学校での教育、新人公演、本公演を通じてミュージカル俳優としての技量を高めていった結果、劇団としてみると日本屈指のチームになっている。しかも、メンバーは退団で入れ替わる。育成も含めてここまでの体制を作っている劇団は、おそらく日本には他にない。少なくとも、宝塚超初心者の私にはそう見える。

スキルの高いミュージカル俳優のお芝居が、いつ観ても楽しめるというのは、宝塚の大きな魅力の一つなのではないだろうか。

宝塚の魅力その2:男より男らしい男役、女らしさを強調した娘役

宝塚の公演をご覧になったことのある方、または宝塚の男役トップスターの舞台上の姿をYoutubeやテレビの番宣でご覧になったことのある方は、お分かりかと思う。宝塚歌劇団の男役さんは、普通の男性よりずっと男らしい。所作、姿勢、足の運び方、声の出し方。舞台上での男役さんのすべての立ち居振る舞いは、男として本当に洗練されていて、美しい。歌舞伎の女形が表現する女性の理想形に通じるものを、宝塚歌劇団の男役にも感じる。

娘役についても同様だ。女性らしい所作、男役と同じダンスの振り付けであっても、よりしなやかで柔らかく踊る技術を極めて、女らしさを強調している。

理想の男性と理想の女性が織りなす物語を、大掛かりな舞台美術とともに楽しむ。少女漫画的な要素が入った演目の多い宝塚の世界観には、ぴったりなのではないだろうか。

宝塚の魅力その3:演者としての成長を見守れる構造

宝塚の公演には「本公演」と「新人公演」があり、料金体系が違う。新人公演は、SS席であっても5300円。B席なら2000円。映画を1本観るのとそう変わらない料金で舞台を観ることができる。

新人公演は、入団1年目から7年目のタカラジェンヌさんが演じるもの。つまり、宝塚では「7年目までは新人」なのである。宝塚音楽学校から足掛け10年かけて育てて初めて、いっちょまえに宝塚の舞台に立てる。そういう構造なのだ。

新人公演で出てくるタカラジェンヌさんたちは、たぶん本公演に出演される方々よりも初々しく、技術的にもまだまだ、と言ったところなのだろうと思う(観てないからわからないけど)。そういう段階から応援して、演者としての成長を温かくファンが見守る、という構造が普通にあって、興行的にも成立しているって、すごいことだと思う。

宝塚の歴史はファンが支えているのだなと強く感じるし、きっと何代にもわたって宝塚ファンだというご家庭も、少なくないのではと想像する。いやはや、すごい世界だ。

そうして宝塚の舞台に立つだけでもすごいのに、トップスターになるというのが、どれだけ特別なことで、どれだけの人に支えてもらって出来ることなのかということを考えて、また感動してしまう。

是非、生で観劇してみたいものだと強く思う。

終わりに 三浦春馬さんがくれたものの広がり

ミュージカルに対する、「突然歌い始めるのはなんでだ」という違和感や、宝塚の俳優さんに対する「メイクが濃すぎて気持ちわるい」問題は、いたるところで目にするし、耳にする。

だがこれらは両方とも、舞台でやることを前提としたミュージカルという表現方法において、当たり前だと思うのだ。物語の展開を洗練された音楽に乗せ、感情表現を歌に託す。歌い始めるのは「突然」じゃない。感情が高ぶったゆえの「必然」なのだと思う。

それに、舞台化粧が濃いのは当たり前だ。最近は円盤にするために録画したりするし、配信もあるけれど、基本的には2000人入る大劇場の後ろの方からでも見えるようにしているのだ。ミュージカルを劇場で観る、というファンタジーの世界を構成するのに、必要だからそうしているのである。

だから、ミュージカルは「リアルなお芝居こそ素晴らしい」とお考えの方には向かないかもしれない。好みがあるから、観に行ってみて合わないと感じたなら、仕方ないと思う。

人により好き嫌いはあるだろうが、私の尊敬する役者・三浦春馬さんは舞台を、ミュージカルを愛していた。彼が演じた『キンキーブーツ』のローラは本当に素晴らしかった。

2020年7月18日のあの日以来、春馬さんが愛したミュージカルを知ろうと、いろいろな作品を観に出かけた。ミュージカルの世界には、他にもたくさんの魅力的な演目があることを知った。物語を彩るたくさんの名曲たちを観客に効果的に見せてくれるために、俳優さんにはすごい技術が必要なのだということも分かってきた。

今の私は、観られるミュージカルを片っ端から楽しんでやろうと思っている。色々と調べていく中で、配信でしか観たことのない宝塚の観劇チケットは、たぶん何らかの手を打たないと、永遠に配信でしか手に入らなさそうなことも、知った。

そんなわけで、ついに「宝塚友の会会員」デビューを果たした。これで、公演のチケットは取れるようになるだろうか。まずは新人公演からとするのか、本公演の中から演目で選ぶのか。悩ましいところだが、初心者なのでまずは本公演の演目の内容を調べてみて、面白そうだと思ったものがあればB席かA席をとってみようかと思っている。

春馬くんへ

宝塚への扉を開いてくれて、明日海りおさん・望海風斗さんとめぐり合わせてくれて、本当にありがとう。退団後もイケ散らかしまくっているこのお二人を、これからもずっと応援していきたいです。

そして改めて宝塚歌劇団の世界にも、ゆっくり足を踏み入れ、愛していけたらいいなと思っています。

春馬くんの愛した世界が見せてくれたもの。
ゆっくり、堪能させてもらいます。

2021年5月18日 10回目の月命日に寄せて。

いただいたサポートは、わたしの好きなものたちを応援するために使わせていただきます。時に、直接ではなく好きなものたちを支える人に寄付することがあります。どうかご了承ください。