三浦春馬さん作品レビュー:森の学校
12歳の春馬くんも、やっぱり春馬くんでした。
開始前
少し早く現地に着いたので、パンフレットを買うために並びました。数は充分用意してくださっていたので、並ぶ必要はありませんでしたけど。
劇場の入り口にミニ展示があって、何枚かの写真と、新聞記事が貼ってありました。新聞記事の中に「河合隼雄」の文字を見つけて、何で河合隼雄氏がコメントを出しているのだろうと疑問に思っていると、同記事に「原作 河合雅雄著 『少年動物誌』」と。
えっと・・・もしかしてこれは河合隼雄氏のご家族のお話で、春馬くんの演じる河合雅雄さんは、河合隼雄氏のお兄さん、ということ??
えええええー もっと早く言ってよーー
予習のしようもあったじゃない。
と心の中で叫んでみても始まりません。気づくのが遅すぎました。「天外者」に夢中になっていたツケを、こんな形で払わされることになろうとは。私の頭の中にあるのは、心理学者河合隼雄氏のお姿のみ。しかもそれほど詳しく知りません(文学部系でも心理学系でもないし)。
気を取り直して、貼ってある新聞記事の内容と写真たちを順番に眺めます。12歳の、まだあどけない春馬くんの写真。父役の篠田三郎さん、母役の神崎愛さんも。
劇場に入り、BUAISOUさんのバンダナと一緒に、パンフレットを眺めながら始まるのを待ちました。
あらすじ
昭和10年。男ばかり6人兄弟の河合家は、歯科医院を営む両親と子どもたちで自然豊かな丹波篠山に暮らしている。三男の雅雄は、しょっちゅう熱を出しては寝込む、あまり体の強くない少年で、母も祖母もそれを心配している。だがその一方、ガキ大将で仲間思いで、生き物が大好きな心根の優しい少年だった。これは、彼を取り巻く仲間たちと、家族の物語。
映像に観る自然の懐かしさ
18年前の映画ですから、画質は当時のクオリティ。高精細さは感じられません。しかし、どこか懐かしい田舎の山の緑と木漏れ日の温度を、とてもリアルに感じました。子どもの頃、福島県の母の故郷へ行って、伯父に山へ連れて行ってもらった時のことを思い出します。
懐かしさを感じさせるには、もしかして、こういった画質の方が効果的なのかもしれないと思いました。山の緑は美しく、川の水は飲めるのではないかと思えるほど透き通ってみえます。母の故郷の山にも川が流れていて、伯父に連れられて行ったとき、時々手で掬って飲んでいたの水の冷たさがよみがえりました。
雅雄少年と動物たち
やんちゃ坊主なのに、身体が丈夫ではなくしょっちゅう熱を出しては寝込む、河合家の三男、雅雄。生き物が大好きな雅雄は、体調が回復せず学校に行けない時は、ぼんやりと川を眺めて、亀を見つけたり、アメンボを見つめたり、友だちにモグラを連れてきてもらったり。本当に生き物が好きなんだなと思わされました。
雅雄少年を演じる春馬くん、当時12歳。お顔はすでに春馬くんのお顔でした(完成された、美少年でした)。
熱を出してウンウン言いながら寝込む雅雄。それを心配そうにのぞき込む家族。この時代のお医者さんはなんだか適当で、「回虫のせいでしょう」で済ましています。一体何が原因なのか、分からないまま物語は進みます。
雅雄は、家に「マミ動物園」を作る計画を立てます。どこからか板をもってきて、生き物たちのための小屋を作り始めます。作ったいくつかの小屋には、ウサギやニワトリが。いったい何種類の生き物を飼っているのでしょう。雅雄少年、毎日野菜を刻んで、律儀にちゃんと世話をしていました。
父と母の愛情
雅雄が熱を出すたび、お医者さんを呼んで「本当に大丈夫でしょうか」と心配する母。そんな心配をよそに、雅雄は熱が下がると何事もなかったかのように、弟を連れて外へ遊びに行ってしまいます。体調が整わないのに鉄砲玉のように出て行ってしまい、なかなか帰らない。こういったところも心配だったのでしょう。
一方、雅雄の父の方はもう少しおおらかです。学校へ行って勉強が進められなくても、まあ何とかなるだろうぐらいに思っているようでした。
祖母への反抗
雅雄の祖母は、孫の身体が丈夫ではなく、学校を休みがちなことをとても気にしています。
熱が下がって、静養している雅雄のところへやってきては、兄に勉強を教えてもらえとか、早く学校へ行けるようになれと言います。一番気にしているのは、雅雄だというのに。
おばあちゃんが孫の心配をする、というのは普通のことだと思いますし、大切にしてくれているのだなと感じるのですが、雅雄少年にとっては邪魔くさいだけだったようで、せっかくくれた父の机を途中で山において来たり、何かと雅雄の気に障ることを言ってくる祖母に対し、
「おばあちゃんは余計なこと言わんといて」「何も知らんくせに」
と、言い放ったりします。
これを聞いた父が激怒して、物置に雅雄をぶち込みます。「言っていいことと悪いことがある」と。
昔の夜は街灯もなくて、暗かったから怖かったでしょうねえ。出てきた雅雄、父に抱き着いて号泣していました。
この、物置に入れられて暗くて怖いというところ、なんだか勝手に演技だということを忘れて観ていました。子どもに感情移入してしまって。
やはり、春馬くんは上手いです。
ガキ大将・雅雄
友だちがいじめられたのを見て、相手と喧嘩しに行く雅雄。なんと相手は憲兵隊長の息子だそう。木刀をもって殴り掛かってくる相手に果敢に殴り掛かり、相手は鼻血を出して戦意喪失。大勝利をおさめます。
ところが、父である憲兵隊長が黙っていませんでした。
色々問題になるのですが、雅雄の父はこういいます。
「大したもんだ」と。
憲兵隊長の息子は木刀をもってかかった来たのに、果敢に素手で挑むとは、「大したものだ」というのです。
そして、憲兵隊長に「息子さんに喧嘩の仕方を教えてあげたらいかがですか」と言います。
雅雄、得意げです。
祖母との別れ
雅雄の祖母がどういう経緯で危篤になったのか分かりませんが、電話が入って、後から雅雄と弟が自転車で駆け付けた頃にはもう、すでに祖母は亡くなった後でした。
自転車で急ぐ道すがら、雅雄は「俺、おばあちゃんにあやまらなあかん」としきりに言います。
間に合わなかった、まだあのときのことを謝っていないのに。
幼い雅雄の心に、なかなか消えないであろう後悔が見えました。
家に帰った雅雄は、秋の虫の声と川のせせらぎが聞こえる中、ぽつぽつと母に話し始めます。
「俺、おばあちゃんに謝り損ねた」
そういう雅雄に、母はそっとこう言います。
一生懸命生きた人にはな、
「ご苦労さま ありがとう」って
言ってあげんねん
おばあちゃんの命は、お父さんに、雅雄につながっているんやで
雅雄は、空に向かって叫びます。
おばあちゃん、ご苦労様 ありがとう
終わりに
12歳の春馬くんは、声変わりしてないだけで、すでに春馬くんでした。
不満げな顔、怒った顔、笑顔、カメラの真ん中にいない時の顔。私がよくテレビや映画、舞台で観ていた春馬くんそのものでした。カメラが回っている間は、自分が画の中心にいなくとも、気を抜く瞬間がない。
一方で、俳優に必要なスキルとして積み上げてきたものも、はっきり見えました。表情筋の細かい動かし方(左右非対称に動かすこと含め)、目線の配り方、声の使い分け。天性のものは確かにあったことがはっきりわかりましたが、様々なインタビュー等で感じていた、彼が真摯な努力の人であることが再確認できました。真面目にエンターテインメント業に取り組み、一つ一つ必要なものを積み重ねていった、その努力の結果を見せてくれていたのだということが、よく分かりました。
できれば、河合雅雄さんの「少年動物誌」を一読した後、また観に行きたいものです。
でもあまり欲張ってチケットを取ってしまっては、皆さんの鑑賞機会を奪ってしまいますから、本を読んで我慢することにします。
春馬くん、素敵でしたよ。よくがんばったね。
18年前の彼に、そう言ってあげたくなりました。
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