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松竹ブロードウェイシネマ 『キンキーブーツ』はとにかく最高だった

『GHOST』やら『アリージャンス』やら、やたらとミュージカルのチケットばかり取って観に行っていたうえ、それぞれでそれなりに心揺さぶられていた。noteも書いた。

しかも年度末で、仕事も家庭もアワアワしてるものだから、松竹ブロードウェイシネマ『キンキーブーツ』をようやく私が観に行くことができたのは、3/20。すでに公開から2週間以上経過した後だった。

↑ こんなに楽しみにしていたにも関わらず、一度は残業に阻まれた。恨めしいぞ年度末。

ともかく、日本版『キンキーブーツ』の初演初日しか観られていない私にとっては、いろいろと衝撃が大きかったので、ここに綴っておくことにする。

楽曲については、いつも新しい気付きをくれるRickyさんが素晴らしいnoteを書いてくださっているので、そちらに紹介を譲ることにする。多分楽曲について、Rickyさんはまだ続きを書いておられる途中だと思うので、ぜひそちらもご参照願いたい。

私の記憶はだいぶ改ざんされていたらしい

そもそも、こんなにずーーーーっと歌いっぱなし、暗転もなしのミュージカルだったっけ?? 「春馬くんが出ていた」という記憶によるものなのか、私の中での記憶の改ざんっぷりが、すさまじいことが分かった。

だって、ローラだけじゃなくて、チャーリーもすごいよ、これ。うん、だいぶ。

シンディ・ローパー(以前も書いた気がするけど、私の世代にとっては特別な存在と言える)の楽曲だということに気を取られていて、ローラのみならず、歌っている皆さんがどれだけすごいのかが、頭の中からマルっと抜け落ちていた。こんなことがあっていいのか。

やっぱり、観劇の記憶というのは、ネットで公開するかどうかはともかく、どこかに書き留めておくべきだな、と痛感する。

チャーリーとニコラの似合わなさ加減がすごい

オープニングの「The most beautiful thing in the world」。
ニコラは美しく赤いヒールにうっとりしながら「婚約指輪の前にこの靴を履かせてほしい」という。
チャーリーは「ノーサンプトンには合わない」と。

ニコラにとって、あの美しく飾られた赤いヒールが「ノーサンプトンという片田舎にある工場の街からの逃避」の象徴なのだろう。

一方のチャーリーはといえば、ノーサンプトンから心が離れていない。ロンドンには明らかにニコラに引っ張られてきたけど・・・という感じ。なんだろう。この2人全く似合ってない。本当にこの後結婚するのか?と思ってしまうくらいだ。

靴の意味するもの

ここで子どものローラが出てくるのだけど、彼女にとっての赤いヒールは「sex」なのだ。ニコラにとってもローラにとっても、それまでの自分からの脱皮、という意味合いを持つ「真っ赤なヒール」。

一方ノーサンプトンのプライス&サンで作っているのは、質実剛健な、一生ものではあるけど野暮ったい紳士靴。

「靴」に人生をかけたチャーリーの父にとっては、オシャレではなく質実剛健な機能性重視の靴こそが、自分の人生を象徴するもので、時代についていけない今の自分を、苦しめているものでもある。

チャーリーが「野暮ったい紳士靴」を作り続けてきたノウハウを活かして、それまでの自分から脱皮して、「sex」の象徴である真っ赤な高いヒールのブーツを作り、工場を救う。

そしてそれは、父と息子のわだかまりを解き、男として自立することにもつながっていく。

うん。なかなか素敵な物語だ。

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ドラァグクイーン・ローラの、華やかで美しい見た目ばかり記憶に色濃く残っていたが、あくまで彼女は物語全体の「触媒」だ。ローラと接することで、ジョージも、ローレンも、ドンも変わっていく。そして1番変わったのは、もちろん主人公・チャーリー。

…と、日本版『キンキーブーツ』を観に行ったときには「とにかく楽しかった」感覚だけが残っていたのだけど、ウエストエンド版をじっくり観たことで、言葉にできることが増え、こうやって記録に残せるのが本当に嬉しい。


ウエストエンド版ローラとチャーリー、歌うま!!!!!

ウエストエンド版では、チャーリーを演じたのはKillian Donnelly。レミゼやオペラ座の怪人にも出演している実力派。日本版の小池徹平さんのイメージで、のんびりゆったり座っていた私の、度肝を抜くに十分なパフォーマンスを魅せてくれた。

劇場で観るのとは違い、アップの画像が多かったおかげもあって、Killian Donnellyが丁寧に表情を作って、チャーリーの葛藤や決意を表現してくれていることがわかり、感動。

小池徹平さんがすごくないと言っているわけではなく、これはアップになるかならないかの問題も大きいので、単純な比較はできない。

・・・で、Matt Henryである。
ローラの登場シーンは、もう明確に覚えているので、パブからチャーリーが離れるところあたりからもう、こちらはテンションが上がっているわけだが、Mattローラの登場、もう驚愕しかなかった。

手、ながっ!!!!!
足、ながっ!!!!!
歌、うまっ!!!!!

一体、何なんだろう。何とも言えないこの色っぽさ。そして歌のグルーヴ感。
やはり、ローラはどの国のローラであっても最強なのか。
(普段はやらない、乏しい語彙力の表現お許しください。とにかく筆舌に尽くしがたかったのです)

そしてこのKillianとMattのコンビ、コメディパートでも息がぴったりで、ついクスクス笑ってしまうのだった。

エンジェルスのパフォーマンスがものすごい

「Land of Lola」では日本版でもおなじみ、エンジェルスの皆さんが出てくるわけだが、ウエストエンド版のエンジェルス、とにかくスタイルも踊りも素晴らしかった。ヒップラインから足の太もも、ふくらはぎに至るまでの美しさが格別。特にヒップ!

ローラの真横にいる2人は大体同じ人で、「SEX IS IN THE HEEL」のシーンでピンクのヒールと金色のヒールを履いている人だと思うのだけど、まあよく足が上がること。姿勢も美しい。バレエ経験者か何かだろうか。

立ち姿の美しさって、なかなか一朝一夕には身につくものじゃないと思う。ウエストエンド版のエンジェルスの皆さんは、ほぼ完ぺきに近い出来に見えた。もちろん、日本版のエンジェルスの皆さんも頑張ってくれていたとは思うんだけれども。でも再演が観られていないからなあ。観られていたら、私はどういう感想を抱いただろう。

再演を観て、ウエストエンド版も観られていたらベストだったのに、と思うと悔しい。

ローレンのコメディエンヌっぷりがすごい

日本版でソニンがやっていたローレンしか記憶にないので、ローレンの弾けっぷりにびっくりした。あんなに振り切ったコメディエンヌの役だったっけ? あれじゃ日本ではモリクミさんしか演じられないじゃん(いや、年齢的にダメでしょ)。

もはやソニンがどう演じていたのかも記憶からぶっとぶほど、ローレンに爆笑させてもらった。一挙手一投足がいちいち面白い。こんなの演じられる人、日本にいたかな? ソニンどのくらい頑張ってたっけ・・・

とにかく、あの顔芸をこなせる日本のミュージカル女優に心当たりがない。

”Hold me in your heart”のMattローラと春馬ローラ

ローラが故郷の老人ホームで披露する、「Hold me in your heart」。この時、ローラはチャーリーからひどいことを言われて、仲違いした後だ。

チャーリーからの謝罪電話に吹き込まれたメッセージを聞いた後なのかどうかは、わからない。わからないが、とにかくローラは父の前で、ありのままの自分をさらけ出し、美しい歌声を披露するのである。

父への愛が心を打つナンバーである「Hold me in your heart」だけど、Mattローラは意外と動くのだ。もちろんこのスローナンバーではダンスはしない。でも、日本人的感性では「動きすぎじゃね?」と思ってしまう程に。

春馬ローラは確かこのシーン、まるで演歌歌手・石川さゆりが天城越えを歌うがごとく、情感たっぷりに、ゆったりとした動きで歌い上げていたと記憶している。この辺りは、お国柄の違いなのかなと観ていて感じた。

いやもちろん、私は日本人ですから、どちらが好きかといったら、ねえ。

思わぬところで、自分に刻まれた「日本人的リズム」を自覚させられた。

Just Be

『キンキーブーツ』の楽曲は全部好きだけれど、なんだかんだ言って、私の一番はやっぱり「Just Be」しかない。

「Just be who you wanna be
 Never let 'em tell you who you ought to be 」
最後に全員で歌い上げる。なりたい自分になりなさい、と。

マスクの下で、口パクでずっと歌った。いつの間にかマスクがずり落ちる。
ずり落ちたマスクを直す。歌う。またずり落ちる。また直す。その繰り返しを何度しただろう。

そして、小さく踊った。誰も踊っていなかったけど。

何度もずり落ちたマスクを直し、踊る中年女。『キンキーブーツ』を観ていなかったら、完全に不審者である。いや、観ていても不審者か。

「6つのステップ」とともに胸に刻んでおきたい。本当はいつでもローラに会えるようにしておきたいけれど、当分叶いそうもないことだから。

1.Pursue the truth
2.Learn something new
3.Accept yourself and you'll accept others, too
4.Let love shine
5.Let pride be your guide
6.You change the world when you change your mind

終わりに 日本版の再演に関する後悔

思い起こせば、再演のチケットは確か2階席で、きっと春馬くんは豆粒ぐらいにしか見えないだろうなと思っていた記憶が、蘇ってきた。

でも、何度もいろんなチケットサービスの優先予約に申し込んでははずれ、申し込んでははずれを繰り返した末、幸運にも確保できたたった1枚のチケットだったはず。

それを、私は無駄にしてしまった。

子どもの用事があったという記憶はあるのだが、そもそもなぜ予定を空ける努力をしなかったのだろう、とか、今考えても後悔しかない。

だって、この目でジャパンカンパニーの進化ぶりが確認できなかったから。

春馬ローラだけで成り立つものではなく、ジャパンカンパニーが全員一丸となってレベルアップをはかり、作り上げた素晴らしい舞台を、観られなかった、というより自らその権利を手放したことが悔しくてたまらない。

で、ウエストエンド版である。

いやあ、もう本当に素晴らしいとしか言いようがない。語彙力が乏しくて申し訳ないけれど、観られる環境の方は、是非是非観ていただきたい。

一人でも多くの人が、『キンキーブーツ』の魔力に取り付かれてくれますようにと、祈りながら私はまた、チケットを予約する。

公開される劇場が、津々浦々まで広まってほしい。

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