すきってなぁに
私が初めて出版した絵本は「すきってなぁに 」というタイトルです。
こびとの男の子が、森のどうぶつたちに「すきってどんな気持ちなの?」と尋ねていき、だんだんと自分の心の奥にある好きという気持ちに気づいていく物語です。
私は今、フリーのイラストレーターをしていますが、会社員の時はWEBデザイナーをしていました。
ですがデザインを大学で専攻していたわけではなく、先輩が作ったデザインを真似して勉強したり、本を読んだり、完全に独学で始めたので、そこそこの年数を経験しても未だにデザインを提出する時は不安になります。
私の中のざっくりしたイメージですが
デザインは削ぎ落としていくもの。
イラストは積み上げていくもの。
という全く真逆の感覚で作っています。
なのでイラストをずっと描いてきた私にとっては、デザインはとても難しい作業に感じてしまうのかなと思います。
そんなことは言っても社内にデザイナーが私1人しかいないので、なんとかどうにか作ります。
3案くらいラフを提出して、選ばれるのは大概私の中でこれはまぁ選ばれないかな。と思って作った捨て案なことが本当に多い。ますます私の中でデザインって何が正解なんだろう。というもやもやが積もっていました。
新卒で初めてウェブサイトのメインデザインを任された時、先輩に「納得できない修正がある時はディレクターにちゃんと違うって伝えた方がいいよ」と言われました。
その時私は自分が作ったデザインが好きじゃないことに気づきました。何日もかけて作ったデザインが大幅に変えられても特に何も思わなかったからです。柔軟な対応をしているわけではなく、譲れない点もこだわりもなかったからです。
きっと世間はこんなのが好きなんだろうな。とか、こんなの流行ってるしな。とか
私は好きではないけれど、どこかの誰かは好きなのかもしれないな。私は好きじゃないけど。
と心の中で思っているので、他の人がそういうならそれが正しいんだろうなとなんの疑問もありませんでした。
もちろん仕事なので自分の好き嫌いで判断するのは正解ではありませんが、
私生活でも、もしかしたら自分の感覚が人には認められない、間違ったものなんじゃないか。というような歪んだ感覚で自分の考えを押さえ込んでいると、
何が好きで、何が許せないのか
そんな当たり前の感情にも気づきにくくなっているような気がしました。
今でも難しいと考えてしまいますが、ひとつずつ私は目の前のこれが好きなのか、を考えます。
嫌いなものを増やす必要はないけれど、好きなものに気付けるのは、自分も知らない自分がいるような気になって楽しくなるので。
なので私は「まだ本当に好きになったことがないんだよ」という言葉が少し苦手です。
夢でも人でも趣味でも
少しでも感情が動いた時間があったなら
それでもう充分本当の好きだと思うからです。
他人からしたら本気に見えないような小さな感情でも、本人にとってはその時間がかけがえのないものかもしれません。
絵本の男の子みたいに、自分の中にある小さな「好き」という気持ちを大切に育てていけるようになりたいなと思って、この絵本を作りました。
絵本「すきってなぁに 」
わたなべはるか
文芸社
ISBN978-4-286-20394-2
定価1,200円(税別)
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