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【インタビュー】コンサドーレ内定の田中宏武(立正大)の魅力とは?弟へのライバル心が生んだストロングポイント

2022年より北海道コンサドーレ札幌への加入を内定している立正大学4年・田中宏武。

ピッチ内での最大の持ち味は、切れ味鋭いドリブルからのチャンスメーク。
左サイドを引き裂く、そのドリブルの突破力は大学屈指のレベルといっていい。

ただ、ピッチ内だけでなく、ピッチ外においても彼の強烈な個性は際立つ。

そんなパーソナリティを形成するに当たり、欠かせない人物が実弟でJリーグベガルタ仙台でプレーする田中渉だ。

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今回のインタビューで、兄・宏武の口からというワードが発せられた回数は実に40回。

「なんでそこまで弟に拘るの?素直に応援すればいいじゃんって言われたりもする事もあるんですけど、自分の中でサッカーをやっている理由は?と言われた時にサッカーが好きというのが4割で、残りの6割は弟に負けたくなからやっているって部分もあるんで。」

弟・渉への強烈なライバル意識を隠さず、むき出しにする様は彼のプレースタイル同様に爽快で清々しい。

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そんな負けず嫌いの塊のような宏武がいかにして大学屈指のドリブラーに成長したのか?
田中宏武とはどんな魅力を持った男なのか?
そして、コンサドーレで見据えるプロキャリアは?

彼の言葉から紐解きたい。

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見た目はクール、中身は熱い 田中宏武

大学のトップオブトップを10点満点とし、
自己評価を付けて欲しい。

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そうお願いしてみると、返ってきた答えは以下のものだった。

オフェンス 9
ディフェンス 5
スピード 8
ドリブル 10
スタミナ 8
シュート 6
クロス 8
逆足精度 8
メンタル 10

正直、事前に想定していた数値とほぼ一致した。

そう。彼、最大の魅力はキレキレのドリブル。
そして、何よりその勝気でタフさが垣間見えるハートの強さなのではないかと思う。

メンタルの強さを裏付ける、あるエピソードを教えてくれた。

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※9番田中宏武 15番田中渉

「過去で言えば、高校最後の試合となったプリンスリーグ関東への参入戦で、前半1-3でビハインドを許して、チームメートがみんなシュンとなってたんです。

でも僕はそういった時でも全く気落ちしないというか…ここから全然いけるっしょ!と思う気質で、仲間達に「後半、俺が活躍して逆転するから、俺のその姿を見ておいた方がいいよ。」っていうのをあの時は言いました。

実際にその後半は誰にも止められなかったと思いますし、そこから3点取って逆転して、昇格を果たして引退できましたね。

また、先日の大学リーグ、拓殖大学戦もここで負けたら、降格争いに巻き込まれるという大事な試合だったので、みんな気合が入っていました。

ただ、0-0で折り返して、自分が後半から途中出場する時に、〝今日は俺の試合だよ〟ってことは周囲にも言っていた。

プレッシャーが掛かる試合でどんな展開になろうと、メンタル的にぶれずに前を向いて、やり続けられるのは自分の強みだと思いますね。」

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同上の関東大学サッカーリーグ第7節。

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立正大学と拓殖大学との試合は互いにここまで1勝ずつと、ここからの巻き返しに向け、共に勝利が是が非でも欲しい状況だった。

だがチームの中心的存在ながら、この試合でベンチスタートとなった田中宏武。その背景は、前日の練習にあった。

「試合前日のクロス練習で中の選手と全然合わなくて…次合わなかったら、宏武抜けていいよ。と言われたんですけど、それが見事に合わなくて…雷を落とされてベンチスタートになってしまいました。

プロ入りが決まって、自分が天狗にならないように厳しくしてくれているスタッフ陣の愛情でもあると思うんで、試合で結果を残すしかない!という思いでしたね。」

そんなチ―ムとしても個人としても、結果が求められた状況で、後半開始から定位置の左サイドハーフで出場すると、そこから幾度もチャンスを創出。

そして、試合終盤に右足でのコーナーキックと左足のピンポイントクロスの2アシストを記録し、立正大学を勝利に導いた。

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この試合、左右両足でのアシストを記録した田中宏武だが、彼のプレーを見ていればそれは驚く事象ではない。

なぜなら、両利きではないか?と思う程、両足を遜色なく使いこなせる選手だからだ。

しかし、彼が両足を使いこなせるのも決して天性のものでない。

その理由を彼のここまでの歩みを振り返りながら解き明かしていく。

弟・渉へのライバル意識が生んだ田中宏武のストロングポイント

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宏武は小学3年から地元の群馬でサッカーを始めると、FWからスタートし、CB・両サイドバック、サイドハーフと様々なポジションを経験。
その中で高校3年から現在に至るまでは左サイドハーフを主戦にしている。

そんな兄・宏武と同時期に1学年下の弟・渉もサッカーを始め、そこから桐生第一高校に至るまでの計10年間、2人は共にプレーした。

兄・宏武は弟・渉の存在を最大のライバルと言って憚らない。

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渉は一番のライバルですね。兄弟でサッカーを始めたタイミングも一緒だったし、常にずっと比べられてきていたので。
弟がいい選手じゃなかったら、自分も成長出来なかったと思います。

自分は鈍感というか、メンタルが強いって周囲にもめっちゃ言われます。
実際、評価の部分で他人に何かを言われても全然、気にならない。

ただ、弟より下っていう所だけは絶対に言われたくなかった。それだけは許せなかった。だから、常に負けないようにやってきました。

例えば、弟が左利きで自分が右利きなんですが、やっぱり左足でも負けたくないと思って小学生の頃からめちゃくちゃ左足の練習をしました。
その結果、今では左右両足蹴るのも全く問題ありませんし、むしろ左足の方がキック力や持ち運びはしやすいくらいです。

また、弟がボールを持つことにも長けた選手だったので、そこで自分も負けたくない。身体能力は自分の方が勝っていたので、弟の特徴を自分も身に付ければ、絶対に負けないといった所でドリブルの練習にも励みました。

今の自分のストロングポイントは弟に勝つために必死に練習して身に付いたものです。」

そんな宏武は高校時代、群馬の桐生第一高校に進学すると親元を離れ、寮生活をスタート。

高卒でのプロ入りを目指し、四六時中サッカーに打ち込んだ。

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「今の時代、あれかもしれないですけど、SNSとかも一切禁止で、とにかくサッカーだけに打ち込んでました。とにかく高卒でプロに行きたい!と考えていたので、そこを目指して3年間ずっとやっていた感じです。料理以外の家事も全て、自分達でやってましたね。高校の時は副キャプテンでしたが、自分は嫌われることを厭わないタイプというか、周囲が言いづらい事も自分が言っていたと思います。」

サッカーに明け暮れた高校生活だったが、3年の高校サッカー選手権の予選決勝で前橋育英に敗れ、選手権出場は惜しくもならず。そして、高卒でのプロ入りという願いが叶う事もなかった。

「高校最後の試合が終わって引退となった後に、松本山雅さんから少し話を頂いたんですけど、もう自分は立正大学に進学する事を決めていたので、結局その話も流れちゃいましたね。同じ県でライバル関係だった前橋育英からはプロ入りする選手もいましたし、高卒でプロ入りできなくて本当に悔しかったですね。

だから立正大で成長して、必ず4年後にプロになるっていうのは強く誓って大学に進みました。」

大学で成長し、今度こそプロ入りする!

心に誓い、大学でのサッカー生活をスタートさせた宏武だが、
大学1年の夏に田中宏武にとって生涯、忘れられぬ事件が起きる。

「大学1年の夏あたりに弟から【プロ入りが決まった】って連絡が来たんです。その時は自分の中でも一番後が無くなった瞬間でした。

正直、弟も大学に進むと思っていたので、大学を経験して自分の方が早くプロになれるだろうと考えていたんです。

ただ、弟が先にプロになった事で、プロは必ず行かなくてはならない場所になりました。その日を境に一層、大学での生活の仕方や考え方も変わった記憶があります。あの瞬間は今でも鮮明に覚えてますね。

翌年、画面越しに弟がプロとしてプレーする姿を見ると、めちゃくちゃ悔しかったです。大学2年の頃は自分も大学でスタメンで試合に出てなかったので、俺はここで何をやってるんだろう…と自分に腹が立って仕方なかった。」

弟からプロ入りの一報を聞いた時、兄としてどんな反応をしたのだろうか?

「本当に精一杯…おめでとうと伝えました。悔しさのにじみ出た、おめでとうでしたね。

弟からは「ありがとう。頑張るよ」と返信が来たと思います。

これは性格上の違いでもあるんですが、弟は自分に対してライバル心とかはそれ程ない一方、自分はもう剥き出しなので。

それこそ高校の練習では、自分が左サイド・弟が右サイドでマッチアップする事が多くて、本当に削る勢いで自分は行っていたので。
だから、マッチアップしたら、どちらかが怪我をするので、以後ずっと同じチームになりましたね。

そういう意味で、弟は自分にプロ入りを伝えるのもまたなんか言われると、ちょっとびくびくしてたんじゃないかなと(笑)

勿論、応援したい気持ちはあるし、お互い頑張っていきたいんですけど、自分の中でこの〝弟に負けたくない〟って気持ちがなくなったら成長も終わると思うので、そこは今後も無くさないでやっていくつもりです。」

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弟・渉のプロ入りで火が付いた兄・宏武はその後、大学で大きな成長を遂げる。

特に成長を実感したのが大学3年時のコロナ禍を通しての活動だった。

「自分的に一番伸びたのが大学3年の時だと思います。
1・2年の頃はチームでもアクセント止まりだったというか、流れを変える要素で投入される事が多かったんです。

ただ、昨年は自分と向き合う時間が増えたので、自分の得意な部分以外でもやらなきゃいけないと日々トレーニングに取り組んだら、試合にスタートから使って貰う機会が増えました。

すると、ゲーム体力もそうですし、自分の特徴の出し方も徐々に分かってきました。それでやれるという自信が付いて、90分間を通して試合に使える選手になったのかなと思います。」

念願のプロ入り!射止めたのは北海道コンサドーレ札幌

評価を高めた宏武は今年の3月、地域選抜代表毎に争う『デンソーカップチャレンジサッカー熊谷大会』に関東選抜Aチームとしてプレーした。

そして、そこでの宏武のプレーに一目惚れしたチームこそが北海道コンサドーレ札幌だ。

コンサは大会翌日、いの一番に田中宏武への練習参加を要請する。

デンソーカップで「自分の特徴は出せた」と語る本人も、このスピード要請には驚いたという。

「デンソーカップが終わって、その翌日にコーチから連絡を貰って凄くビックリしましたね。ただ、札幌は立正大学の先輩の大八くん(岡村大八/大学1年と4年として共にプレー)がいることもあったし、高校の先輩の鈴木武蔵さんも在籍してた事もあって、元々札幌にいい印象がありました。

実際に1週間、練習参加をさせて貰って、自分がこのチームでサッカーをやれば絶対に上手くなるっていうのをすごく感じられましたし、ミシャ監督にも自分の特徴をどんどん見せて欲しいと言われて、それは見せる事もできたと思います。

最終日には「今すぐうちでやったほうがいい」と言って貰って、その言葉も入団を決めるに当たって大きかったですね。

その後、一度帯同を終え、レッズとのエリートリーグに出場させて貰った時も、十分やれるなと感じた所で正式なオファーを頂いたので、すぐに入団を決めさせて貰った感じです。」

念願の吉報は3月27日のエリートリーグでのプレーを終えた帰りの車内で大学のコーチから、聞かされた。

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「勿論、オファーを貰いに行ったというか、絶対にオファーを勝ち取るという気持ちでいったんですけど、エリートリーグの試合が終わって、立正のコーチと一緒に帰ってる時に車内で「オファーを貰えたから」と言われて。
マジっすか!?みたいな感じでしたね。」

同時期にはタイトル経験豊富なチームからの誘いもあったが、札幌の熱意と自身が成長できる環境と確信し、迷う要素は何もなかった。また、宏武にはもう一つの決め手となる要因があった。

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「2019年のルヴァンカップ決勝を見ていたら、コンサドーレサポーターの方々の応援が本当に印象的だったんです。

マジか!?北海道からこんなに来てんのか!?って熱狂度合いが他のチームに比べても凄く感じて、ずっといいチームだなと思ってました。YouTubeでコンサの応援だけの動画とかもめっちゃ見ちゃいましたもん(笑)

自分は応援されればされる程、力を発揮できるタイプなので、チームの勝利に貢献して応援されるような選手になっていきたいと思います。」

コンサドーレの入団を決めた田中宏武は現所属チーム登録のままJリーグの試合に出場することが可能な「2021年JFA・Jリーグ特別指定選手」としても認定され、既にルヴァンカップでここまで3試合に出場している。

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自分の形でボールを受けた際の仕掛けは、プロでも十分通用する事を見せる一方でその回数やポジショニング。そして、連携面などにはまだまだ改善余地はあるだろう。

だが宏武自身も今後、プロで活躍していく為に必要な道筋は見えているようだ。

「実際にドリブルで仕掛ける部分や走力の部分を評価して貰っていますし、
前向きでボールを持った時というのは、やれると思います。

一方で、守備の規律の部分だったり、球際・判断力の部分はまだまだ足りないとはチームにも言われていますが、それも試合に絡んでいく為にはと言って貰えたので。すごくポジティブに受け止めています。

小野伸二さんからも全部、自分で行ってしまうと相手からしたら、読まれちゃうし、上手く選択肢を増やすことによって、次相手が何してくれるんだろう?って惑わす事が出来るよ。といったアドバイスを貰ったり有難い環境ですよね。

チームには多くの素晴らしい選手がいますし、ポジション争いは今までと比べ物にならない熾烈さですが、自分も負けるつもりは全くないです。

自信はありますし、そこを怖がってたら札幌を選んでないので。
競争の中でも常に自分が一番という意識でやっていきたいと思います。」

田中宏武の性格を自己分析すると?どんなキャラクターだと思うか?そう問うてみた。

「自分の信じたことを曲げずに突き進め、メンタルは強めです。そして、仲間が好きでイジる方もイジられる方も全く問題ない」と語る。

きっと、まだまだ、色々な表情を持ち合わせているに違いない。

「今大学ではチームメートにはいじられる側なので、後輩とかにも積極的に絡んでくれるし、先輩にも可愛がってもらっていると思います。

大学の先輩でもある大八くんとも適宜、連絡取らせてもらって、向こうでも色々とすごくよくして貰っています。大八くんはめちゃくちゃ面倒見がいいと思います。
大八くんのお父さんも僕の試合を見てアドバイスなんかもくれたりしますよ。

自分は一発芸とかも全然OKです。それこそコンサでも一回、既にやらせて貰いました。

荒野拓馬さんが誕生日の日で、ルヴァンの鹿島戦の時だったんですけど、宏武一発芸やって!と言われたので、やってそれなりに受けた手ごたえはありました!(笑)」

新しい環境にも既に馴染んだ様子の田中宏武はプロで今後、どんなキャリアを歩んでくれるのだろうか?

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「本当にコンサドーレは応援がすごく自分の中では凄く熱狂的だなと感じているので。チームの為に常に戦って、勝利に貢献して応援されるような選手になりたいと思ってます。

自分は攻撃の部分で違いを作れる選手だと思うので、そこをサポーターの方には見て貰いたいですし、これから試合にバンバン絡んで、コンサドーレの勝利に貢献できるような選手になっていきたいと思うので、応援の程お願い致します!

サポーターの方には〝ヒロム〟って呼んでも貰えれば嬉しいですね。」

背負う背番号は30番。金子拓郎より受け継いだ出世番号を更なる輝く数字にするつもりだ。

「背番号を決める時に、拓郎君が昨年付けていて、30は出世番号だよ!って言われたので、じゃ出世するんで。と貰いました。人気が出るような活躍を出来ればなと思います!

弟にプロ入りを伝えた際「おめでとう」という感じではあったんですけど、やっと来たね?みたいな感じで自分は受けとったので、ちょっとまあこれから見とけよ?(笑)みたいな気持ちです。」

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田中宏武の大学ラストイヤー。
そして、プロキャリアでの活躍が楽しみでならない。

6/6(日)には関東大学サッカーリーグ第8節
慶應義塾大学@西が丘との一戦も控える。

応援されればされる程、活躍する田中宏武。

〝ヒロム〟の躍動する姿に刮目せよ

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写真提供:高校サッカードットコム、田中宏武



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