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夏の終わり

恐ろしいのは、愛する人以外に抱かれることではない。

愛する人以外に抱かれることに
恐怖を感じない自分だ。

愛しい人に嘘をつくことに平気になっている自分だ。

慣れていく自分が怖い。

怖いと泣くわけでも、悲しみに打ちひしがれるわけでもなく

居酒屋でオーダーを聞くように
コンビニでレジを打つように

そんな感覚で、他の男に心や体を委ねている自分が怖い。

私達は一体、何者なのだろう。

親しい人に話すのは「嘘の自分」

虚像だ。

その人達の中に存在する私達は、
紛れもなく「虚像」であり、
存在しない空っぽのマネキンだ。

親しい人?私の何も知らないのに?

「親しい人」は、私達の本当の姿を知ったら
「親しい人」のままいてくれるのだろうか。

いや、知られてはいけない。
事実を知って傷つくのはきっと
私達ではなく、「親しい人」だ。

例えばあの時ああしていたら
この仕事をしていなかったのかもしれないと考える。

この仕事をしていなかったら
こんな気持ちにもならなかったのかもしれないと考える。

優しい言葉を透かしてみたり
愛の言葉を右から左にしかな流せなくなったり
あつい視線や抱擁にもいやらしさしか感じられなくなったり

抱きしめられながら
キスをしながら
sexをしながら浮かんでくるのは
いつもその先を見据えた虚しい感情だった。

あの時、
愛する人以外に抱かれたあの日から
お金で体を買われたあの日から
商品になったあの日から、

平気なようで
氷が溶けるように少しずつすり減った心は

無条件の愛情や優しさを
受け入れられなくなっていた。

受け入れたくても
受け入れるだけの容量をなくすくらいに

行き場のない虚しさや不条理で
いつもどうしようもなく満たされているのだ

この満たされたガラクタたちを
どうしたら整理できるのか
どうしたら吐き出すことができるのか

私にも、多分あなたにもわからない。

窓を開ける。

生ぬるい空気と、それにからまったせみの鳴き声が、まるい大きな塊になり、ふわりと私を通り過ぎる。

あぁ、今年も夏が終わる。

はるこ《公式》
#エッセイ #コラム #写真 #夏の終わり

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