【小説】黒い子供

黒い子供

私は何度かこの話をしているのだが、これはある夏の宵の事だった。
私は不眠症という事も有りあまり寝つきがよくないのだが、エアコンのない私の部屋は三十度という気温も相まって余計に寝苦しかった。
寝床について一時間くらいした頃、ようやく、うとうとしてきた。
しかしうとうとすると同時に、足の先から徐々に全身がびりびりとする様な感覚に襲われた。
私は「金縛りが来る」という事は今までの経験から容易に想像できた。
不眠症になってからというもの、ほぼ毎日と言っても良い程金縛りに遇っていた。
金縛りになったからと言って、どうなるという事でもないし、何度も金縛りに遇っているので怖いという感覚も無くなっていた。
それに金縛りに遇ったとしても、指先に意識を集中させて徐々に手を開いていくと、私の場合、金縛りが解けた。
対処法も分かっている今、金縛りが起こることに対して何の不自由も感じていなかったのだが、その晩は違った。
ガン、と身体が一気に硬直して金縛りが起きた。
いつものように落ち着いて指先に意識を集中させてみたものの、全く金縛りが解ける気配はなかった。
おかしいとは思ったが、私は放置していればじきに解けるだろうと、眠りについてしまった。
私は三十分程眠りについた後、目を覚ました。
金縛りはまだ解けていなかった。
これは面倒な事になった、と思ったのだが身体が動かない以上、今の私にはどうすることもできなかった。
私はただ天井を見つめ放心していたのだが、視線を足元にやると、一つの黒い影が私の左足をよじ登ってくるのが見えた。
気色の悪いことに、次に右手に視線をやると、もう一つ影が、私の右手をよじ登ってくるではないか。
徐々に冷や汗をかき始めた私は、その影が一体何なのか気になったため右手の影を観察すると、その影は子供のような形をしていた。
私はだらだらと冷や汗をかき、怖くて目を閉じていると、体が回転する感覚があった。
もう一度意を決して目を開けると、なんと私の身体には先程の子供が九人まとわりついて、ぐるぐると私の身体を回していた。
まるでおもちゃで遊んでいる様だった。
私はもう怖いという感覚が最高潮になり、身体に強く力が入り続けていた。
そうすると次第に身体が動いてきた。
回転する身体を自力で止め、空いた片手で窓を開けると、身体に纏わりついた九人の子供を片端から外へ放り投げた。

そこで私はハッと目が覚めた。
手を開いたり閉じたりして身体が動くか確認すると、金縛りは解けていた。
冷や汗はかいたままで、時間を確認すると寝た時間から十分も経っていなかった。
体感では一時間以上経っていたと思っていたのだが、そうではなかったようだ。
あの黒い影の正体は何だったのか、夢だったのか、それとも本当に起こっていたことだったのか。
後で近所のおばさんに聞いた話だが、この家の裏山には小さな沼があり、何人かの子供がそこで亡くなったと聞いた。
ある盆中の夏の、不思議な出来事だった。


(※これは私が本当にあった話を元に作られた話です)


春生 志乃

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