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初等教育過程における #保健 の教科書(2020年)から多様な性を考える。📚

はじめに

 「思春期になると、異性に関心をもつようになる」と書かれた教科書で学んだ人、あるいは、学んでいる人たちへ。

 多くの人はさらっと読み進めてしまう中、この文章を見て不安を覚える人たちがいます。なぜならば、同性が好きな人や他者に恋愛的に惹かれない人(無性愛者:Aロマンティック)などは前提に含まれていないからです。

 こうした当たり前のように語られる「異性愛者」に含まれない人たちは、不可視化されることに悲しみや疎外感、怒りの感情を抱く場合もあります。

 そもそも教科書とは、学習指導要領に基づいて、教科書会社が作成しています。では、小学校の学習指導要領を見てみましょう。

(平成20年)「小学校学習指導要領解説 体育編」
イ 思春期の体の変化 (イ)思春期には, 初経, 精通, 変声, 発毛が起こり, また, 異性への関心も芽生えることについて理解できるようにする。さらに, これらは, 個人によって早い遅いがあるもののだれにでも起こる, 大人の体に近づく現象であることを理解できるようにする。

文部科学省(平成20年)「小学校学習指導要領解説 体育編」東洋館出版社 57頁

(平成29年告示)「小学校学習指導要領解説 体育編」
(イ) 思春期の体の変化 イ 思春期には,初経,精通,変声,発毛が起こり,また,異性への関心も芽生えることについて理解できるようにする。さらに,これらは,個人差があるものの,大人の体に近づく現象であることを理解できるようにする。

文部科学省(平成29年告示)「小学校学習指導要領解説 体育編」東洋館出版社 109頁

 平成20年の指導要領および、平成29年告示の指導要領において、どちらにも「異性への関心が芽生えること」を思春期の体の変化の一部として、理解させるとあります。なお、平成20年の指導要領では「個人によって早い遅いがあるもののだれにでも起こる」と記されていたのが「個人差があるものの」と記載が変更されています。つまり「異性への関心」のみが記され、多様な性に関する言及はありません。

 この指導要領をもとに作られる教科書のため、異性愛について触れることになります。けれども、教科書会社によっては工夫が見受けられます。

 本記事では、教科書会社5社の記載内容から該当箇所を引用し、内容を整理します。また「もしも、自分ならばどのように書くのか」もあわせて記します。

【教科書会社5社】 ①株式会社文教社、②大日本図書株式会社、③株式会社学研教育みらい、④東京書籍株式会社、⑤株式会社光文書院   

よろしくお願いします。

各教科書会社の記載内容

①株式会社文教社
 思春期になると,異性への関心が高まってきます。異性に関心をもつことは,おとなになるための自然な変化です。しかし,その時期やてい度は,人によってちがいます。そのことでなやんだり心配したりすることはありません。また,男女が仲良く協力し合うことも大切です。

『わたしたちのほけん 3.4年』(2020年) 文教社 26頁 

②大日本図書株式会社
 思春期には,自分や異性のことが気になり,仲良くしたいという気持ちが強くなったり,相手と気持ちがぶつかったりします。
 そのような心の変化にも個人差があります。 

『たのしいほけん 3•4年』(2020年)大日本図書 30頁

③株式会社学研教育みらい
 思春期になると,心にも変化が起こります。異性への関心が高まり,異性のことが気になったり,仲よくしたいという気持ちが強くなったりする人もいます。
 体の中の変化や心の変化は,大人に近づいているしるしです。その変化の起こる時期や起こり方には,個人差があります。

『みんなのほけん 3•4年』(2020年) 学研 27頁

④東京書籍株式会社
 思春期には心にも変化があらわれ,異性のことが気になったり,仲良くしたいという気持ちが高まったりします。心の変化の仕方や,あらわれる時期には,個人差があります。

『新しいほけん3•4』(2020年) 東京書籍 35頁

⑤株式会社光文書院
 思春期になると,男女の性のちがいに気づきやすくなります。また,異性のことが気にかかり,好きになったり,なかよくしたいという思いが高まったりする一方で,反発しあうこともあります。このような心の変化は自然なことですが,人によってちがいがあります。
 わたしたちは,一人ひとりのちがいをみとめ合い,おたがいに助け合って協力していくことが大切です。

 この説明の右記に、子どものセリフでは「小さいころは,相手の性別なんて気にしてなかったな。」とある。また、先生と思われる大人のセリフでは「心の変化が起こる時期や変化の仕方などは,人によって,さまざまです。小学生の間には,変化が起こらない人もいますよ。」とある。

『小学ほけん 3•4年』(2020年) 光文書院 32頁

 こうした記載があるなか「光文書院」と「文教社」では、多様な性を発展的な学びとして位置づけ、次の通り記載がありました。

「性」についてのなやみ(発展)
 みなさんのなかには,自分の「体の性と心の性がちがう気がする」と感じる人や,「異性に関心がもてない」と感じる人がいるかもしれません。
 自分の性のことで,ほかの人とちがうと感じたり,不安なことや心配なことがあったりしたら,あなたが信頼している大人に相談してみましょう。だれに相談したらよいかわからないときや,周りに相談できる人がいないときには,性のことでなやんでいる人のための電話相談まど口で相談することもできます。

『小学ほけん 3•4年』(2020年) 光文書院 33頁

【発展】寄りそうことの大切さ~相手を理解するために知ってほしいこと~
 以前、わたしは女の子から,「先生、女らしさって何ですか。わたしは大きくなったら『男の子』になると思っていました。女の子の服は着たくありません。いつも自分らしくいたいんです。 でも, まわりからはおかしいと言われるんです。」と,相談を受けたことがあります。
 この女の子のように,自分の生まれた性別と心の性別が一致しないことで, 不安やなやみをもっている人がいます。不安やなやみには個人差がありますが、そのことをだれにも相談できずに, 一人でかかえこんでしまう場合もあります。これは, 特別なことでもまちがっていることでもありません。 人間は, 一人ひとり個性があって,それら一つひとつが尊いということを知ってほしいのです。
 現在では,その人たちの不安やなやみをケアしたり, サポートしたりする取り組みも行われるようになってきました。相談することは大変勇気のいることです。 相談されたときは, まず相手のことを理解し,「わたしのことを信じてくれているんだな。」と受けとめましょう。そして寄りそうことが大切です。

『わたしたちの保健 5.6年』(2020年)文教社 12頁 

各社の記載内容を受け、考えたこと・思うこと

 記載内容の表現はそれぞれ異なるものの、当然のことながら、思春期になると①異性への関心を抱くこと、②個人差があること、この2点が書かれていました。ただ、先述した通り、教科書会社によっては多様な性に関する記載がありました。

 まず、 光文書院では≪「性」についてのなやみ≫といった題目で異性を好きになる人以外の存在に触れ、不安や心配事があれば、大人や公的な機関に相談するように、とありました。こういった記載があることの意味は大きいと思います。しかしながら、どうして不可能を意味する否定形なのか、が気になりました。加えて、異性愛と同性愛(レズビアン、ゲイ)、両性愛(バイセクシュアル)、無性愛などが並列に書かれないのか、この2点が違和感でした。

 みなさんのなかには,自分の「体の性と心の性がちがう気がする」と感じる人や,「異性に関心がもてない」と感じる人がいるかもしれません。

『小学ほけん 3•4年』(2020年) 光文書院 33頁

 「異性に関心がもてない」では、あくまで異性愛が基準になっていませんか。もし、私ならば以下のように書きます。

 みなさんのなかには,自分の「体の性と心の性がちがう気がする」と感じる人や,「同性に関心がある人」や「異性と同性の両方に関心がある人」、「誰にも関心がない人」などがいるかもしれません。

 *「誰にも関心がない人」とは、話の流れとして、他者に恋愛的に惹かれないことを意味しています。ただ、この文章だけを見れば「冷たい人」といった偏見を助長させてしまう懸念もあります。

 次に、光村書院では≪寄りそうことの大切さ~相手を理解するために知ってほしいこと~≫といった題目で、社会的に求められる女性らしさとのギャップに悩んでいる子どもを例に挙げた後、出生時に割り当てられた性別と自認する性別が異なる人の存在を示しています。そして、一人ひとりが尊い存在であるメッセージを打ち出し、相談されたときは寄り添ってあげようと、あります。

 現在では,その人たちの不安やなやみをケアしたり, サポートしたりする取り組みも行われるようになってきました。相談することは大変勇気のいることです。 相談されたときは, まず相手のことを理解し,「わたしのことを信じてくれているんだな。」と受けとめましょう。そして寄りそうことが大切です。

『わたしたちの保健 5.6年』(2020年)文教社 12頁 

 皆がみな、シスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と自認する性別が同じ人を指す)ではないことを知ることや、相談されたときは寄り添うことを伝えることは大切です。

 ただ、学習者はシスジェンダーが前提になっていないでしょうか。学級、学校のなかにトランスジェンダーの子どもがいる場合だって考えられます。

 また、性的指向・性自認を表す「SOGI」を語ることなく「私たちと違う存在がいるため、寄り添いましょう」では、支援する人、支援される人の構造を生み出しやすいです。多様な性を生きる人たちは「支援が必要な人」ひいては「かわいそうな人」といったふうに、自分とは切り離し、受け止めてしまう場合を懸念しています。

 さらに、寄り添うことが大切とありますが、具体的にどう寄り添えばいいのか、は言及されていません。もし、私ならば以下のように書きます。

 相談を受けた場合は、まず話してくれてありがとう、と伝えましょう。多くの場合、あなたを信頼して話してくれたからです。また、相手は単に話したかっただけなのか、何か困りごとがあって打ち明けてくれたのかを確認しましょう。避けるべき対応としては、相手の話を否定することや、知りえた情報を許可なく、第三者に伝えることです。わからないことを本やインターネットで調べたり、相手に直接聞いてみるなどして、寄り添いましょう。

 上記で示した内容はいかにも真面目な説明です。必ずしもこうでなくてはいけない、ということではありません。けれども、特におさえたほうが良いのは避けるべき対応で上げた2つです。

・相手の話を否定すること
・知りえた情報を許可なく、第三者に伝えること(アウティング)

 この2つを踏まえておくだけで、寄り添い方は大きく変わると思います。また、これらは他の相談事にも通じる対応であり、汎用性があるでしょう。

おわりに

 本記事では、学習指導要領の記載から各教科書の記載を確認し、その内容をもとに私の考えや思いを述べてきました。また、多様な性に関する内容が記載される教科書がありつつも、改善点があることを共有できたことで、子どもたちにかかわる現場の先生方をはじめとする人たちのお役に立てれば幸いです。また、教師を目指す友人が読んでくれていたら、うれしいです。

 本文では述べませんでしたが、発展的な扱いとして挙げられることについて、人それぞれ解釈が異なると思います。たとえば、文科省の指導要領に「多様な性」に関する記載がない背景を踏まえたうえで、教科書会社(光文書院と文教社)の試行錯誤がみられると考える人がいるでしょう。

 私もそう思う反面、次回の改訂では、発展的な扱いではなく、基本的な事項として扱われてほしい思いもあります。

 というのも、発展的な扱いであると、授業内で必ずしも触れなくてもいいニュアンスを感じてしまいます。思い返せば、算数の教科書などで「発展」と書かれた設問や説明などは授業で皆に定着させることは少なかった経験があります。

 多様な性に関することはマイノリティだけの問題ではなく、多様な性を生きる皆の問題であることを踏まえることが必要です。

 したがって、次回の学習指導要領改訂において、文科省は多様な性に関する記載を加えてほしいです。

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