団員募集。じおらまを立ち上げます。
これからの変身
今年は秋が長いなあと思っていたら、一気に冬がはじまりましたね。体は気候についていくのがやっとですが、みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
ぼくはいま、いつもお世話になっている急な坂スタジオ(横浜・日ノ出町の、坂の上にある演劇の稽古場)にて、『へんしん 〜へんしんひとつに、どんだけかかる?〜』という作品を上演しています。今年でvol.3となる「急な坂スタジオショーケース」という企画で、ほかに"libido:"の緒方壮哉さん、新田佑梨さんx関田育子さん、そして"ルサンチカ"が参加するイベントです。横浜を中心に繰り広げられるYPAMという演劇祭のフリンジプログラムに組み込まれているようです。
日芸同期で「ハウス」「てつたう」出演の小松弘季くん、「KAMOME」と「胎内」でずっとご一緒だった原雄次郎さんと、3人でつくりました。そこに演出部として、頼もしき山田朋佳、"みちばたカナブン"と"にもじ"でご活躍の渡邉結衣が加わり、お客様をお迎えしております。(残りの2公演は原さんverです。小松、お疲れさまでした!)
『へんしん』は、カフカの名作「変身」を原作に換骨奪胎した短編作品です。今年6月の中野企画"パフォーマンス・アート「虫の瞳」"でも扱ったのですが、今回はどうしても喜劇にしたくて、3人でディスカッションしまくりました。実際の立ち稽古に移ったのは3週目くらいからだったかもしれません。
最近は、とにかく時間を惜しまずにつくることを心がけています。結果、夏休み終盤みたいに慌ただしくはなってしまうのですが、頭に隙間がある状態で進む稽古は非常に豊かで、自由で、なにより発想の飛躍があります。ウンウンうなって考えるときもあれば、1時間くらい雑談したり散歩したり、ひらめいたときにパッと動いて試す、という稽古だったように思います。
これが実現できたのは、信頼関係があってこそのことだと思いますし、何より、ずっと「上演するその場」で実際の稽古ができていたからだとは思います。これは本当に貴重な経験だと思います。ありがとうございます。
さて、話は「じおらま」のほうへと移るのですが、じおらまでは、まさにこういった「場」をつくっていく方向に、ぼくは積極的に進んでいきたいと考えています。
おもえば、ずっとぼくは変身を繰り返していたのかもしれない、と、そう思います。だからまだまだ、きっとこれからも変身していきます。
健全で豊かな「場」づくり
劇団"じおらま"は、健全で豊かな創作環境づくりを目指したいという意欲から構想が始まりました。今年の春ごろ、演劇界におけるハラスメントの問題がこれまで以上に浮上して可視化し、ぼくなりに何ができるのかをモヤモヤと考えていました。
いくつもの団体がアンチ・ハラスメントに関する声明やステートメントを公開していく中で、ぼくは、「創作や人々の関わり合いにまつわる自由と不自由」に真摯に向き合ったルールづくりが必要だと感じるようになりました。ただドラスティックに制限を設けるのではなく、きちんとみんなで考えて、互いの尊厳を守ることを諦めずにい続ける「姿勢」づくりからはじめなければ、と思いました。
ぼくが考えたのは、「どのように作るのか」を明示し、共鳴する人と出会っていくことが大事なんじゃないか、ということでした。そして、クリエイションにまつわる権利やルールと、尊厳の遵守にまつわる権利やルールを、大きく2視点に分けて考えていく必要があるのではないかと考え至りました。
そうして生まれたのが、じおらまの「2つのポリシー」です。
互いの尊厳を守る「ハラスメント・ポリシー」と、創作の手法や方法のすれ違いを減らす「クリエイティブ・ポリシー」の2つの領域からなっています。
じおらまは、制作募集に応えてくださった、本田瑛美子さん・西垣内園佳さんの2名を制作とし、動き始めました。また、渡邉結衣さんも、劇団員としてではありませんが、打ち合わせや意見交換に積極的に参加していただいております。5人で何度も話し合い、ポリシーは今の姿になりました。そして、これから出会うであろう人々との相互作用で、ポリシーは変身し続けます。
互いの尊厳を守る
ハラスメント・ポリシーは、互いの尊厳を守るための姿勢や方法などについて書かれています。詳細は上記サイトよりご確認ください。
ぼくがここに特筆したいのは、
という部分と、
という部分です。これらはどの立場からの視点においても、事件や事故を防ぐための大きな抑止力になる考え方なのではないかと思っています。
事件であれ事故であれ、信頼関係が崩れ、立場がフェアじゃない状況のまま作品づくりを続けることは危険ですよね。そうなったら、一旦ストップするしかないと思うし、有事の際はストップするということを、全員が「前向きに」理解しておく必要があると僕は考えます。
それを「前向き」に考えるのが難しいことは、とてもよくわかります。実際、上演に間に合わなかったら困るし、不完全な作品をお客様に見せるのは不誠実ですよね。しかし、そういったことを"許容"していくことで、乗り越えられるものもあるんじゃないかと僕は思います。そこで、クリエイティブ・ポリシーでは、作品づくりに向かうモチベーションについても言語化し、合意形成することを試みました。
創作の手法や方法のすれ違いを減らす
創作の場において往々にして事件や事故のタネとなるのは、創作の手法や方法の違いにまつわるすれ違いがあげられると思います。そこで、クリエイティブ・ポリシーでは、手法や創作方法の「根っこ」となる部分について可能な限り言語化しました。
現時点ではじおらまの作品を神保が演出することを想定しているのですが、今後、スタイルが変わってきたらこのポリシーも変わっていくものと思われます。
あえてここに特筆したいのは、
という部分と、
という部分です。
演劇はその性質上、どうしても「上演」に向けて動き、上演を中心に回転する集団ですから、上演自体に活動のウェイトを重くしがちです。でも、前述の通り、いつでも「一旦ストップ」できる状態にしておかねばならないと考えており、つまり、結果的に上演が実施されなくても仕方ないと考えなくてはならないと断言します。上演に全ての価値を見出す上演至上主義だけでは見過ごすものが多すぎることに気づきました(もちろん、上演と収益で、商業的に価値を見出していくことも、一つの方法だと思います。じおらまではその方向を志しません)。
上演至上主義とは、つまり成果主義であり、成果とは資本主義的な価値観に連続しています。資本至上主義を中心に回る集団は、「逃げ場」を失います。なぜならその集団の外側にある「社会」が資本至上主義で回転しているため、内外の境界がなくなってしまうからです。資本至上主義の連関から抜け出すことを宣言するというのは、つまり、かえって、いつでも誰でも資本主義の世界へと自由に出入りできるという意味でもあります。重要なのは「逃げ場」と「選択肢」がある状態を保つことだと思います。
本当の意味で「上演だけがすべてではない」ということを実践していくためにも、企画立案段階から、「収益の最大化を目的としない」ことをハッキリと決めておく必要があると僕は考えました。
一旦ストップすることが憚られる要因には、「上演にまつわるさまざまなプレッシャー」があると考えられます。上演にまつわるさまざまなプレッシャーは、上演に資本的な価値/評価が集約してしまうことに起因して生じてくると僕は考えます。たくさんの人を呼ばなければいけないというのも、創作を通してステップアップしなければいけないというのも資本主義のイドラだと思います。
本当に大事なのは、安全で豊かな場で表現についてじっくり考え、人や作品と向き合い、良質な作品づくりを「続けていく」こと、つまり持続化するということです。持続のためには資本が必要になりますが、その原資を演劇創作で創出するというエコシステムを、じおらまでは採用しません。アルバイト等、ほかの仕事などで創作生活を持続させる原資を得ます。つまり、資本主義の世界から原資を輸入して、じおらまの世界内では資本以外の価値に変換していくとも言えるでしょう。創作と生活の持続を可能にするため、短期間でガッと作るのではなく、ぽつぽつと長く作っていく方法を試します。
もちろん、多くの人に作品を届けたいのは本音です。でも実は、観客の「量」ではなく、観客の「多様さ」こそが真に重要なのではないかと気がつきました。じおらまの広報活動の指針は、「さまざまな人」に見ていただくことです。
じおらまを立ち上げる
"じおらま"という名前は、小松くんと話していて見つけました。
じおらまを英語表記したとき、「diorama」の中に「drama」、つまり「物語=生き様」があることに気づきました。残った「iとo」は「in /out」、つまり「呼吸」を表しています。そして、「diorama」はそのまま「舞台装置や劇空間」そのものを差しています。
個人的に、とても気に入っている名前です。都市での暮らしの中で、豊かな景色が見られそうな気がします。
上演中に繰り広げられた舞台装置や小道具などの痕跡が終演後も残っていて、そこに残像や残響としての物語が立ち上がっている。。。そういった作品づくりを目指していきたいと考えています。(終演後、その場で作品について観客と対話するようなことが定例化できたら、とても素敵だなあと思います。)
団員と『たいない』出演者募集
そんなじおらまの、団員募集を行っています。まずは俳優部の募集のお知らせです。できれば、旗揚げ公演『たいない』へも出演していただける方で、団員として参加していただけるととても嬉しいです。
『たいない』とは、三好十郎の「胎内」を、新しい解釈で作る新作です。神保は「胎内」の演出で、2021年、演劇人コンクールで奨励賞を受賞しましたが、まったく異なる作品になると思います。
(↑こちら、2021年に上演した『胎内』です。ご参考にぜひ。この上演台本は、かなりテキレジして原作とは違う解釈になっておりますのでご注意願います。)
最近、僕は、町や暮らしが過去の歴史と地続きになっていることを強く感じています。過去と切り離された今を生きるのではなく、向き合いながらも、ポジティブに、今を健やかに生きるとはどういうことなんだろう、ということを想像しています。きっと、そういう作品になると思います。
本作に登場するのは3人の人物ですが、一人一役で演劇をつくるというのも、なんか窮屈なんじゃないかというような気がして、少し多めの人数で作ってみたいと思っています。群読や群舞などのシーンの連続の中で、イメージを膨らませていけたらいいなと思っています。
上記はわりと重要ですので、お時間かかって恐縮ですが、きちんとお読みいただいた上、ご応募いただけますようお願いいたします。
以下、選考スケジュールです。公演までかなりの期間がありますが、ギュッと詰め込むようなスケジュールにせず、じっくり作れるような日程を想定しております。
上記を読んで頂いた上で、応募頂ける方は、下記ページにある応募フォームより応募ください。
さまざまな方のご応募、お待ちしております。
"ART JOB FAIR"に参加します!
次に、スタッフの募集についてです。
じおらまでは、舞台芸術の技術・クリエイティブスタッフの募集も行っております。舞台監督、演出助手、舞台制作、照明、音響、音楽、美術、小道具、などなど、、、なるべく、旗揚げ公演を団員のみで上演したいと考えておりますので、技術スタッフ、大歓迎でございます。
とはいえ、じおらまは団体としての実績がまだありませんので、じおらまの活動内容をイメージしづらいかと思い、「じっくり相談できる場」を設けることにいたしました。
"ART JOB FAIR"は、アートにまつわる仕事の「求人」と「休職」のマッチングをサポートするイベントで、じおらまは唯一"劇団"として参加させていただきます。会場は浅草にある「KAIKA 東京 by THE SHARE HOTELS」さんで、ワンフロアまるまる借りての大変ゴージャスな企画です。じおらまは、うち一室をお借りして面談会場としてお客様をお迎えし、ご質問にお答えしたりいたします。
とはいえ、前述の通り、じおらまは収益を期待する場ではありませんので、アート・ジョブというイメージとは多少異なるかもしれませんが、じおらまに興味のあるさまざまな人と会ってお話しできる「場」の開放として、大変貴重な機会をいただきました。
面談の事前予約もできるようです。こちらから、ご予約をお願いいたします。
ちなみに、ほかにも豪華な出展者さまがおり、見て回るだけでも楽しそうです!
舞台美術やまちづくりの活動を行っている「アトリエヤマダ」さん、秋田でアートと教育と向き合う「NPO法人アーツセンターあきた」、映画からは「一般社団法人 Japanese Film Project」などなど!(詳しくはこちら)
そして、さまざまなイベントも開催するみたいです。
僕も昨年お世話になった"YAU"による、「アートの創造性をビジネス街に取り入れる新たな実践」の講座(1月28日(土) 15:00-15:45)や、「文化芸術の活動基盤の強化に求められること」と題したアーツカウンシル東京の今野真理子さんやON-PAMの塚口麻里子さんご登壇のプログラム(1月29日(日) 17:00-17:45)など。
アートマネジメントに興味のある方は、ぜひ併せてご参加ください。
盛りだくさんすぎて、息切れしそうです。運営スタッフの皆さん、日々の準備、本当にご苦労様です。
最後に
但し書きとして、この記事の公開日が今日になったことは、演劇界で明るみになったハラスメント事件に関係しません。1週間前から書き始め、たまたま、書き終えたタイミングが今日でした。
とはいえ、改めて、ハラスメントのない演劇づくりの場を作らなくちゃいけないと強く思いました。同時に、無力感もありますが、ひとつひとつ、向き合っていくしかないです。全ての方が、理不尽な暴力と不公平から守られますよう。
ここでサポートいただいたお気持ちは、エリア51の活動や、個人の活動のための資金とさせていただいております。どうぞよろしくお願いいたします。