いつかこの子がおっぱいを飲まなくなる日までに
授乳をしながら本を読む。
赤ちゃんの体は授乳クッションにすべて預けているので、両手が空く。
ときどき胸元に目をやって、ちゃんと飲めているか、鼻がおっぱいに埋もれていないかを確認しては、本に視線を戻す。
そうしているとあっという間に15分が経つ。
赤ちゃんの頭の向きを変えて、さっきと違う方を吸わせる。
子どもを産む前は、授乳がこんなに時間のかかるものだとは思いもしなかった。
片方の胸で10分から15分、左右あわせて20分から30分。
おむつを確認したりゲップをさせたりなんだかんだやっているうちに、平気で40分経過していることもある。
これを2〜3時間おきにやるのだから、なんかずっとおっぱいあげてないか?という気持ちになるのも無理はない。
本を読んでいればすぐに経過する15分が、夜中だとそうもいかない。
ベッドの上にあぐらをかいて小さな読書灯をつけ(昔、自分でガラスを埋め込んで作ったトルコランプだ)、自分も赤ちゃんも半分寝ているような状態で授乳を始める。もうそろそろいいかなと時計を確認すると、まだ5分しか経過していなかったりする。
おっぱいを飲むこくこくという音だけを聴きながら、自分もやけに喉が渇いていることに気がつき、そろそろ加湿器をつけなきゃな、なんていう思考が浮かんだり消えたりする。
朝方の空にはまだ夏の名残があって、さっきまで真っ暗だった窓の外がだんだんと青白くなり、授乳が終わる頃には腕に抱えた赤ちゃんの顔がはっきりと見えていることに気づく。
肌は白玉のように発光していてきれいだ。
読書灯を消して、しばらくそれを見つめる。
夜が明ける。
昨日より確実に大きくなっている我が子を、その変化を、目に焼き付けようと思うけれど、それを目視することはできなくて、ただしっとりと熱を帯びた体を抱きしめてみる。
いつかこの子がおっぱいを飲まなくなる日までに、何冊の本が読めるだろう。
読んで下さってありがとうございます。思考のかけらが少しでも何かの役に立ったなら幸いです。