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ふえるメガネ。-メガネさんが身を挺して教えてくれたこと

「ちょっとー!! 誰!私のメガネ壊したのはー!」

お風呂からあがった私の目に飛び込んできたのは、洗濯機の上にちんまりと陳列されたメガネ。

つい先ほどまで、お風呂に入る前の私がかけていたメガネ。だけど、明らかに様子が違う。
メガネのつるの部分が、根本からぼっきり折れていて、一目で修復不能な状態だとわかる。

「こいつがやったんよー」
一足先にお風呂を出た娘の髪を乾かしていた夫が、自分は悪くないと言わんばかりに、犯人を指さす。まあ、うちは3人家族だから、犯人を特定するまでもないのだが。

おそらくわざとじゃない。子供のやったことだから仕方ない、という思いと、大事なものを壊したんだよ、ということは伝えなきゃという思い。

いや、そんな思い以前に、あまりに私が大きな声をあげて残念がるものだから、娘もしゅんとしてしまって。
「ママ、ごめんなさい。」
「もーどうしてくれんのよー」

物はいつか壊れるものだから。壊れたら買い直せばいいのだけど。
変わり果てた姿を眺めていると、長らく私の生活を支えてくれたメガネさんも、ついにここまでか、というしみじしみとした思いになる。
ここ数年の、私のおうち生活の相棒の最期。

だって彼女は。

・ ・ ・

私は普段、外ではコンタクトだが、家でコンタクトをはずし、メガネをかけると、一気におうちモードになる。ただいまおうち。あーラク!

リモートワークで、おうちメガネの時間が増えて、お仕事するのにもメガネは楽だと気付いた。
そもそも、出産育児で家の中を這いずりまわってるとき、メガネさんなしの生活は考えられなかった。

何より、彼女はとても強かった。
何度も私に落とされ、何度も娘に踏まれ、娘を寝かしつけた後の、まくらの下で押しつぶされても、某Zブランドの最新の素材をして、しなやかに耐え続けた。

フレームが歪んで何度も店舗に修理にもっていったことがある。(かけるとおもしろい顔になる)
店員さんに毎回、「今回はどうされましたか?」と聞かれるのだが、「子供が…」と言えば、それ以上は何も追及されなかった。
つるの部分を、同じような素材に交換してもらったこともある。
「まだ、なんとかいけます、でも次ここがやられたら、もう修理はできませんよ…」彼女はいつもぎりぎりまで踏ん張った。

必要な存在でありながら、何度も部屋の中で行方不明になった。数日経つと、思いもかけない場所から姿を現してくれたりして、その不意の再会がひどく嬉しかったりしたものだ。

粗雑に扱われながらも、けなげに、たくましく生き抜いてくれた相棒。

もう使い物にならないであろうその姿をあらためて見ると、肝心のレンズはキズだらけ。満身創痍で最後のとどめをくらったのだ。

さようなら、メガネさん。
でも、あなたなしでは私の生活は成り立たないの。

・  ・  ・

「今日は私のメガネを買いに行きます。皆さんついてきてください」

目指すはやはり某Z店。何度も彼女を復活させてくれたのだ。もしかして。最後にダメもとで店員さんに聞いてみるが、もうできることはありません、と首を横に振られた。そして、壊れたメガネは下取りで500円引きになりますとのこと。最後の最後まで、身を挺して新しい子の割引になってくれるなんて。泣ける。

店内には、たくさんのおしゃれなメガネたち。でも、私はどこかに彼女の姿を探してしまう。手に取るのは、やはりよく似たデザイン。
「ていうかそれほぼ同じじゃない?」という夫。
娘は娘で、自分が壊した責任を感じてか、同じメガネが見つかればママは喜ぶと思っているようで、どこからか次々と同じデザインのものを見つけてくる。
黒っぽいべっ甲柄の細いフレーム。やっぱり長年見慣れてるしね。
もうこれしか私の顔には似合わないんじゃないかとさえ思う。
落ち着くし。何より機能的にも、軽くてかけ心地がよく、疲れないし。

結局、迷うこともなくスムーズに、ほぼ同じデザインの子をみつけて、買うことにしたのです。

そして、レジに向かう途中のこと。

「ママ見て!プリンセス!」
娘が指す先には、へえー、ディズニーコラボモデルなんかやってるのね。100周年か。
ふと手にとってみると、あら、この赤いフレーム、かわいいね?
鏡を見てみると、あらやだ、赤なのに、なぜかしっくりくる。おしゃれ!

でもねえ。でもの理由はいくらでもある。
・赤は派手じゃない?
・デザインも私の歳にしてはかわいすぎるし。
・メガネがディズニーである必要はない(ディズニーフリークではない)
・見た目はいいけど、機能的には劣る(軽量モデルではないから重い)
・実用性を考えるとね。

いつもの私なら買わない。だって本来の目的にそぐわない。
そこでなぜか夫が一言、「じゃあこれはオレが買ってあげるよ。」
!!!!
いいんですか!
ありがとうございます!!!普段はそんなじゃないのに、そういうところ大好きです笑

ということで、実用的な黒メガネと、おしゃれな赤ブチメガネをゲットしたのでした。

メガネは壊れたんだけど、なぜかメガネが増えている。
旧メガネさんを失ったのは無念だが、結果、新しいおしゃれな相棒もできた。

ここ数年、私と生活を共にしたメガネさんはお亡くなりになったが、もしかして最後に大事なメッセージを伝えてくれたんじゃなかろうか、などと思う。

部屋でメガネかけて引きこもってばかりないで、たまにはおしゃれして、人に会いにいきなよ。
実用性ばっかりじゃなくて、たまには楽しくなるようなことを選びなよ。
そして、新しい自分に出会うことを恐れないで♡

そんなことを、身を挺して伝えてくれたような気がするのであった。
ありがとうメガネさん。







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