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みんなの教養 - 読書: UXライティングの教科書

以前から気になっていた「UXライティング」。WEBでその細かなハウツーなどを調べたことはあったけど、もっとプロダクトデザインの中でこれらがどう生きるのかを知りたくて読んでみた。

自分にとってタイミングもよく、とても面白い一冊だった。

言葉って軽視されがち問題

電機メーカーでデジタルプロダクトに関わって何年も立つので、そのなかで小さな言い回しについてメンバーで議論になることはよくある。

「もっとフレンドリーなのがいいのでは?」とか「この言葉こんなに長いけど本当に読まれる?」みたいな議論は嫌いじゃない(むしろ好きだ)けど、割とその都度思ったことを言い合ってその中で毎回結論を出す、ということが多い。

そもそもUXライティングを専門にする人は(自分の周りには、たぶん)存在せず、言葉については「最初にそのUI案を作った人が入れた言葉」がそのまま最後まで入ったりすることも多い。

つまり、誰もそんなには気にしてない(と思ってる)。

でも、重要だってのは薄々知ってる?

だけど、薄々みんなわかっていたはず。言葉が与える印象はブランドのイメージに直結する。

Slackのエンプティステート(未読はありません、的なアレ)とかは使っているときはあまり意識しないけど、振り返るととても「Slackらしさ」を僕らは感じている。

だけどSlackほど「自分たちのブランド」とその適切な表現をできる状態には無いプロジェクトもたくさんある。というか、これがわからないから都度議論、という方式から抜け出せないのだと思う。

そんな「そもそもどこから手を付けたら...」みたいな状況からでも、この本を読めば「イケるかも」と思わせてくれる。

会話体ライティングと、ブランドのパーソナリティ

以下がこの本の目次で、

Part 1. ボイス&トーン
Part 2. エクスペリエンスとエンゲージメント
Part 3. ユーザビリティ

Part 2と3は実践的な言葉の選び方などが書かれてる。

だけど、最初のPart 1 は「どうやって自分のブランドを理解するか」が主な内容。そして個人的にはここが一番おもしろかった。

というのは、たまたま今、新しい事業立ち上げのかなり始まり部分に関わっている件がありUIデザイナーとして参加しているのだけど、UIテイストを決定する上でメンバーそれぞれが思ってるブランドイメージをまとめることを進めている。

そして、その中でブランドを人格化する「ブランドアーキタイプ」を使っている。

この「ブランドを人格化する」という考えにとても近いと思ったのが、本書で書かれている「会話体ライティング」とそのためのブランドのパーソナリティ制定だ。

本書によると、人は機械やコンピューターに対しても、人間的に振る舞うことを期待していて、だから、機械から発せられる言葉も当然人間味がほしい、とのこと。

だけど今までは手紙など非リアルタイムで使う「書き言葉」と、直接人にリアルタイムで話しかける「話し言葉」の2種類しか無いかったところに、「書いてるんだけどリアルタイム」という新しい状況が生まれた。

新しい状況なので新しい書き方が爆誕した、それが会話体ライティング。

インターネットは、書き言葉と話し言葉を分断していた古い壁を壊し、第三の選択肢を出現させた:会話体ライティングだ。
(本書の引用)

そして、「会話体」という名の通り、会話を意識する以上、「どんな人が話しているのか」というパーソナリティが重要になり、そのためにブランドをよく知る必要がある、というのがPart 1. の「ボイス&トーン」だ。

ユーモアをどこまでいれるのか、などはこのパーソナリティに大きく左右されるため、逆にこれ無くしてUXライティングの大半は進められない。だからこそのPart 1として最初に出てくる重要なところ。

みんなで考えたい

UIデザインやグラフィックデザインなど、いわゆる「クリエイティブ」とか呼ばれるものは、今でも「ひらめきとセンスでイケてるものを作ること」と思われることはある。

だけど実際そんなんで作ったとしても「思ってたんとちゃう」って言われやりなおし。だから、プロジェクトメンバーと「思ってたこと」をすり合わせるスキルもあらゆるデザイナーに求められる。

そして、UXライティングももれなくそうだった。「専門用語を使わない」みたいなTipsより、「このブランドはどんな個性の持ち主なのか」のほうがよっぽど影響が大きく、そしてUXライター1人で解決できる事じゃない。

だから、UXライティングの価値をあらゆる職種の人がわかるとハッピーな未来が見えるし、実践する価値は十分あると思う。言葉自体、職種に関わらず誰もが扱ってきた表現手法なのだから、触り部分ぐらいは「教養」と言ってもいいのではないだろうか。

コミュニケーションであり、武器ではない

ちなみに、この本のPart2は実践的な「問い合わせフォームでの言葉選び」などが紹介されている。いかにしてコンバージョンを増やすか(とまではっきりは書かれていないけど)という目的にも自分は見えた。

ただ、最近はUXのダークパターンもよく問題になる。心理学を巧みに使い、言葉で人を誘導する、という見方も出来てしまうのがこのUXライティングの怖いところかも、とちょっと思ってしまった(実際そうならないように気をつけよう的な例も本書には出てくる)。

Brutal honesty: the new look sustainable marketing
https://www.voguebusiness.com/sustainability/brutal-honesty-the-new-look-sustainable-marketing-ace-and-tate

上記記事では、アムステルダムのブランドAce&Tateが「サスティナブルを目指して頑張ったけど実は結果がサスティナブルじゃない方向になったこともありました」ということを正直に吐露したことをとりあげ、また、今のZ世代は実に79%がサスティナブルを掲げる会社の対応を「正直ではない」と思っている、ということが書かれている。

そんな現代だから、余計にブランドがつく嘘はすぐ見抜かれる。そして「完璧さ」より「自然さ」が求められるようになった。

本書にもあったけど、UXライティングは元々問題があるものをよく見せるものではない。相手から何かを搾取する武器にせず、本当の自分を正しく伝えるコミュニケーション手段として、UXライティング、やっていきたいです。

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