落葉
ひどい有様だな。
頭上で革靴が言った。もう頭を持ち上げて顔を確認する力も無い。誰か知りたいとも思わなかった。右下腹部の激痛で何も考えられない。子どもの頃は死ぬときに感じる痛みはどんなだろうと想像しては戦慄していた。死への恐怖はそのまま痛みへの恐怖だった。確かに叫ぶことも息を吸い込むことも出来ないほどの苦しみだ。鋭利な刺激に意識が朦朧としてくる。身体が重く、冷えていく。命が失われつつある。もう助からないだろう。絶望はなかった。ただこの耐えがたい痛みにもまもなく終わりが訪れるという希望があるだけだ。同時に耐えがたい人生もようやく終わる。死に瀕して真に逃れがたいものは痛みではない。痛みは冷たい目を向けて通り過ぎていく他人と同じだ。過去には触れられない。自己という状態を保てなくなるその瞬間最も恐ろしいのは存在理由を問う現実そのものだ。
この孤独。
命がつきるまでの凄惨な時間が人生の意味を責めてくる。一体なんだったんだろう、この人生は。私の人生は、一体何のために・・・・・・。
泣いてるのか?
声がくぐもって聞こえる。視界が狭く暗くなる。影が覆い被さったのがかろうじて分かる。答えることが出来ない。指一本動かすどころか声も出せなかった。これが終わり・・・・・・。まだ意識はある。かすかに音が聞こえる。
可哀想に。
耳元でささやかれた。可哀想にね。きっと私は泣いている。苦しむために生まれてきたような人生が、他人に利用された挙げ句絞りかす同然に扱われて死にゆく命が可哀想で泣いている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?