角田光代『対岸の彼女』
角田光代『対岸の彼女』
小夜子視点▽
葵視点○
一章 ▽公園の人間関係にうんざりし、友達が出来ずに一人で遊んでいる娘も自分を見ているようで見るに堪えなくて働くことにする。葵と出会い、掃除業務をすることが決まる。
二章 ○いじめが原因で転向した葵が女子ばかりの新しい学校に初登校し、ナナコに出会う。家までついてきたナナコに感涙する。友情の始まり。
三章 ▽初研修。指導係の中里典子に出会う。愚痴と悪口を言う岩淵がいやだと思う。愛想のいい木原にうさん臭さを感じる。親睦会兼歓迎会に行く気になる。
四章 ○河原で好きなものを言い合うナナコと葵。ナナコの人となりと葵がナナコに惹かれていること、二人が親密になる様子が、クラスの状況や葵の母親の屈折した様子などを背景に描かれる。夜の電話でナナコがダイアナとアンの話をする。クラスではいじめが始まり、葵はナナコに中学時代のいじめを打ち明ける。二人は互いに一九歳になったらシルバーリングをプレゼントすることを約束する。
五章 ▽あかりを保育園に預ける。中里と葵のエピソードから葵の明るい性格が分かる。あかりに保育園の友達は出来ていない。親睦会兼歓迎会後に葵の家へ行き二人で飲む。タクシーで葵に仕事の話をする木原に嫉妬する。〈仲間外れにされたような、子供っぽい気持ちを抱いた〉「ひとりぼっち症候群」の話になる。「友達、たくさんできたほうがやっぱりいいじゃない?」と言う小夜子に葵は「ひとりでいるのがこわくなるようなたくさんの友達よりも、ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何かと出会うことのほうが」大事だと言う。葵のことが好きになっている小夜子。
六章 ○夏休みに伊豆のペンションにバイトしに行く二人。母親にナナコのことをあんな子と呼ばれて激昂する葵。家族経営のペンションでくたくたになるまで働き、働く喜びを知る。ペンションのおかみから昔家出したことがあるという話を聞く。学校ではナナコがいじめの標的になっていた。葵はナナコの家に行き、がらんどうの家を見て、ナナコと東京の大学へ行こうと決意する。バイトが終わり、おかみからの手紙を読む。ナナコが帰りたくないと言い、葵は帰るのをやめる。
七章 ▽会社に馴染み始めた小夜子、疲れ具合を辛い、甘い、で表現する社内用語を覚える。掃除業務にもやる気になり、中里に注意されながらも、働くことが楽しいと感じ始めている。姑の誕生日祝いが煩わしく、土曜日を仕事にしてもらい家で青いとチラシを作る。葵と小夜子の仲が深まるエピソード。
八章 ○横浜方面を目指す二人。ナナコの家に行った時のことを思い出し、ナナコのことを全く知らなかったと思う葵。バイト代とこずかいを使いラブホテルを泊まり歩き逃避行の旅を続ける二人。葵はナナコに「ナナコと一緒だとなんでもできるような気がする」と言う。ナナコは冷静な声で「なんでもできるよ、あたしたち」と返した。金がつきてくるとナナコが身体を売ると言うので葵はいじめ加害者の同級生から金を巻き上げようと提案し、実行する。カツアゲした二人は昔葵が住んでいたアパートの屋上へ行く。祖母が死んだ時ほっとした自分は冷酷な人間だとナナコが話す。どこにも行けない絶望。二人は手をつないで屋上から飛び降りる。
九章 ▽あかりを叱っているところを見た修二に仕事よりあかりを優先したらどうだと示唆され、保育園にいくことで変化した娘と働き出して変化した自分に全く気付かず仕事を馬鹿にする夫に虚しさを覚える。仕事は研修が終わりチラシ配りを積極的にしていた。事務所には不穏な空気が漂い始めている。木原に車で送ってもらい、木原への不信感が強くなる。
十章 ○一命をとりとめた葵は家族に監視され不自由な生活を送っていた。世間では葵とナナコの逃避行と飛び降り自殺はレズカップルの心中としてあることないこと報道されていた。祖母の監視をくぐりぬけナナコの家に行くがナナコはいなかった。
十一章 ▽あかりの運動会。先週の見積もりが成約したことを葵が知らせに運動会に来る。小夜子は自分のやってきたことに意味があったと実感し嬉し涙する。葵がカメラを回してあかりを撮影する。小夜子は葵に「楢橋さんといっしょだと、なんだかなんでもできそうな気がする」と言う。葵は小夜子を熱海に誘い、二人は熱海へ行くが、小夜子は修二に向き合わなければいけないのではないかと思い、帰ると言う。葵は木原を呼び、それを見た小夜子は葵に幻滅する。
十二章 ○ナナコに会えないまま終業式を迎えた葵は父親に欲しいものを聞かれ、一九歳の誕生日に銀の指輪が欲しいと言う。父はそれならプラチナにしろと言う。父親のはからいでナナコに再会する葵。二人は早朝の川を眺めながら再会の約束をする。そしてお互いにプラチナのリングを送り合う約束をする。車の中で黙ったまま手を握り合う二人。ナナコが去った後葵は嗚咽する。
十三章 ▽岩淵と木原、関根が葵の愚痴を言い募る。木原が葵の愚痴を扇動しているのに気づく。葵の過去を聞き、小夜子が特別関心を寄せていた事件の高校生が葵だったと知る。関心を寄せた理由として友情に懐疑的になった小夜子の過去が語られる。事務所に行くと葵一人だった、木原の策略で社員が取られたと告げ、掃除を手放し旅行の方の仕事をしてほしいと言われる。小夜子は葵に自殺未遂のあと結局どうなったのかと訊く。
十四章 ○ナナコのいない学校で、葵はナナコの言葉の真意を実感していた。沈黙のうちに高校を卒業し大学に進学し、友達もできたが、葵は特別に親しくなることを恐れていた。旅で騙され、今まで人を信じていたことに気づく。そして騙す人間がいることを認め、親切な人もいることを信じた。起業し経営者の立場になることで人と関わることに疲れてしまい、自分が不安になる中で小夜子と出会った。小夜子との友情の芽生えは高校時代を彷彿とさせた。小夜子と掃除したとき、高校時代のアルバイトを思い出した。時間軸が現在に追いつく。葵は小夜子におざなりに話し、小夜子は葵の元を去った。葵は人と関わることにうんざりするが、旅で人に騙された直後にもう一度人を信じようと奮い立った自分を思い出す。かつての喧騒が静かなオフィスにフラッシュバックする。
十五章 ▽小夜子は家じゅうを掃除したが磨き忘れがあるような気がする。仕事を辞め、葵のことも忘れようとしていた。義母の家で夫に買い物を頼み、言えばやってくれると気づく。義母と夫と娘の運動会のビデオを観ている中で、転んだ男の子と転んだ子を助けに戻った男の子を映した葵の優しい眼差しに触れ、醤油をスカートに零す。保育園のママ友同士の付き合いの中に入り、悪口を言い合う集まりに辟易する。公園ではあかりとママたちに悪口を言われていた男の子がままごとをしている。二人の「バイバイ、また明日」を見ながら葵の撮った映像を思い出し、事件の高校生二人が何故それきり合わなかったかをふいに理解する。自分の過去が思い出される。小夜子は葵の事務所を訪ね、働かせてほしいと願い出る。掃除の際偶然にナナコの手紙を読む小夜子。高校生の何気ない文面にタイムスリップしたかのような錯覚を覚える。対岸の彼女たちを追うように橋を目指し小夜子も走った。
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