見出し画像

無電柱化のトリセツ~防災とまちづくり~

無電柱化の必要性

 道路の防災・減災で最も大事なことは災害に利用できる道路を一つでも多く確保することです。道路が通行できないと避難ができなかったり、救護・救援活動ができなかったり、救援物資が届かなかったりと復旧・復興が遅れてしまう要因になります。そのためには災害に強い道路を増やすことが求められており、道路を防ぐ原因にもなっている電柱をなくす無電柱化を進めることが必要です。

災害時の様子

 災害時の電柱による被害はどれくらいあるのでしょうか?
 東日本大震災の時には28,000基の電柱が倒壊するなど大きな被害がありました。 また、阪神淡路大震災時のケーブルの被災について、電柱の架空線は2.4%の被害と地中化の被災率0.03%よりも多くなっています。                    

電柱の倒壊状況

ケーブル被災状況

  また、無電柱化をすることで他にも「安全で快適な通行空間の確保」や「都市景観の向上」にも寄与します。

安全な通行空間

無電柱化の進め方

 では無電柱化は実際にどのように進めていくのでしょうか?
 無電柱化を進めるためには①電線を地中化することで電柱をなくすこと、②電力線や通信線をまとめて収容する電線共同溝を整備することが必要です。費用負担としては管路や特殊部は道路管理者(行政)ケーブルや地上機器は電線管理者(電力会社や通信会社)が整備することとなっています。

電線共同溝のイメージ

 そして、無電柱化を優先していく道路は災害時に通行阻害されてはいけない道路や人の通行が多い道路、景観面に配慮が必要な道路などです。具体的には国・都道府県では緊急輸送道路の指定、市町村は無電柱化推進計画によって整備の優先度を定めています。

緊急輸送道路とは以下のように決められています。

・第1次緊急輸送道路ネットワーク
県庁所在地、地方中心都市及び重要港湾、空港等を連結する道路
・第2次緊急輸送道路ネットワーク
第1次緊急輸送道路と市町村役場、主要な防災拠点(行政機関、公共機関、主要駅、港湾、ヘリポート、災害医療拠点、自衛隊等)を連結する道路
・第3次緊急輸送道路ネットワーク
その他の国道・県道

以下のホームページで各地域の緊急輸送道路が示されています。

 一方で無電柱化推進計画ではH30~H32で1,400㎞/3年の整備を目標として進められています。

無電柱化延長

 大阪市では整備目標を10年間に定め、①都市防災機能の向上②都市魅力の向上③歩行者空間の安全・快適性の向上に向けて緊急交通路のうち重点14路線や観光魅力向上のために都市魅力重点エリアにおいて公民連携による無電柱化を進めていく予定です。

重点14路線

都市魅力創造戦略2020

無電柱化の課題

 このように無電柱化を進めている日本ですが諸外国と比べて整備状況は10%以下と整備が進んでいない状況にあります。

海外との比較

 無電柱化がなかなか進まない理由としては市町村のアンケートから以下のような理由が挙げられています。
①コストが高い。
②電力会社や通信会社との調整が困難である。
③トランスの置き場所がない。
④道路が狭くて事業ができない。
 このように物理的・技術的な制約とコスト面・事業調整の制約が大きな課題として挙げられます。また、地中埋設や架空線の事業者が多くて、現況を道路管理者が把握しきれていないということも無電柱化事業がスムーズに進まない要因になっていると思います。

無電柱化課題

 しかし、そもそも電柱は事業者が道路管理者にお金を支払って道路を占用して設置しているものなので道路管理者が電柱の設置を制限することは可能です。
 実際に無電柱化を進めていくために以下のような取り組みや制度が定められています。
・緊急輸送道路を対象に電柱の新設を禁止する措置
・固定資産税の特例措置
・低コスト手法の導入
・埋設基準の改定

この中で低コスト手法は以下のような3つの手法があります。
①管路の浅層埋設②小型ボックス活用埋設③直接埋設
海外では直接埋設が主流となっており、コストは1/4程度に抑えることが可能です。

低コスト手法

コストの比較

 このように技術面での手法は検証が進んできているため、あとは事業を円滑に進めるために配線計画を決める事業者調整、地上機器の設置箇所を決める地元調整をどのように進めるかが重要になります。

海外の事例

無電柱化率が高い海外の都市におけるポイントは以下の通りです。
①架空線が法律・条令により規制
②地中化の事業主体は主に電線事業者
③無電柱化のため技術開発等により低コスト
 
 日本ではようやく平成28年に緊急輸送道路における電柱の新たな占有を禁止にしましたが諸外国は早くから架空線を条例や法律、契約等で規制しています。

架空線の規制

 また、事業主体は電力・通信事業者で自治体の補助や負担は特になく、進められています。その代わり、電力事業者は電気料金に上乗せをして、整備費用を回収しています。このように、無電柱化の必要性を国民が理解し、費用負担を容認して進めてきているということになるかと思います。

海外費用負担

 その他にも電線類の地中化コストを削減するために、以下のような様々な技術を開発・活用をしています。

低コスト化の技術開発

 この中でも埋設物件の損傷回避の技術として、ケーブルの上部にICタグを設置、埋設物件のデータベース化を進めていることが施工調整をしていくうえでスムーズに事業者の協議ができていると考えられます。

埋設物件の損傷回避

今後に向けて

 このように無電柱化は課題も多いですが道路の再整備事業と合わせて、無電柱化・埋設物の整理を進めていくということは私たちの生活基盤であるインフラを守るうえでとても大切になってくると信じています。
 また、歩道が狭くて地上機器が設置できないような場所も今後、交通量の減少により、車道を狭くして、歩道を広くしていくことで設置場所を確保していくことも考えられます。
 一つの事業が相乗効果を生み、よりよい街にしていくために少しでも無電柱化事業が進むことを願っています。

<参考文献>
国土交通省HP:無電柱化の推進

国土交通省資料:無電柱化の現状
国土交通省国土技術政策総合研究所資料:海外の無電柱化事業について
大阪市無電柱化推進計画


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?