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【イベントレポート】DX(デジタルトランスフォーメーション)時代に必要な「データ利活用」とは?

こんにちは、Plug and Play Japan Fintech Program ManagerのHarukaです。

先日2020年7月8日(水)にオンラインオープンイベント「DX(デジタルトランスフォーメーション)時代に必要な「データ利活用」とは?」を開催いたしました。当日は90名程度の様々なゲストの皆さまにご参加いただき、質疑応答も交えながら、急遽15分程延長し盛況イベントとなりました。ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました!

さて、本記事ではイベントの要約レポートをお届けします。

なぜこのテーマを選んだのか?

Plug and Playでは”Innovation Should be Anyone, Anywhere.”をコアミッションの一つとして、大企業、スタートアップ企業を中心にオープンイノベーションの創出支援をしています。コロナショックの影響を受け、DX(デジタルトランスフォーメーション)による働き方の変革が進む今日、企業の「データ」というアセットの活用方法や「データ」を取り巻く環境も複雑化してきました。

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オープンイノベーションを実現する上で、必ず見つかる障壁の一つに「企業データの取り扱い」が挙げられます。「データがどこにあるのかわからない」、「データをもっと活用したいがコンプライアンス上、活用できない体制にある」、「データの取り扱いに関するリスク・リテラシーが足りず身動きが取れない」、etc。Plug and Playではこのような声を拾う機会が多くありました。

企業がこれから考える「データ」の構築・管理・活用のあるべき姿を紐解き、「データ利活用」による異業種間連携やスタートアップとの協業によるオープンイノベーションの在り方について、大企業の取り組み、法改正に伴う法務的観点、高技術を保有するスタートアップという多角的な視点からディスカッションすることで、参加者の皆さまが現在・今後取り組んでおられるDX(デジタルトランスフォーメーション)、オープンイノベーションの成功へのヒントを得る機会としたく、有識者4名の方々にご登壇いただきました。

登壇者紹介

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ヤマトホールディングス株式会社 執行役員 中林紀彦氏
2002年、日本アイ・ビー・エム入社。データサイエンティストとして数々の企業のデータ活用を支援。その後、オプトホールディング データサイエンスラボの副所長、SOMPOホールディングス チーフ・データサイエンティストを経て2019年8月、ヤマトホールディングス入社。また、筑波大学大学院の客員准教授としてビッグデータ分析の教鞭も取る。

※お詫びと訂正※ 
2020年7月8日のオンラインイベント当日及びイベント登録サイトにて、中林紀彦氏の役職紹介に誤りがございました。ご参加・ご登録いただきました皆さまにお詫び申し上げるとともに、ここに訂正いたします。
松田総合法律事務所 佐藤智明弁護士
東北大学大学院法学研究科総合法制専攻修了。都内法律事務所、ヤフー株式会社勤務を経て、現在は企業法務から一般民事まで幅広い法務案件に従事。

EAGLYS株式会社 CEO 今林広樹氏(Plug and Play Japan Fintech Batch5 プログラム採択企業)
シリコンバレーにてデータサイエンティストとして勤務。早稲田大学にて研究助手としてプライバシー保護ビッグデータ解析の研究を行い本専攻賞、博士課程に飛び級進学。2016年12月に、データセキュリティとAI技術の研究開発組織EAGLYS株式会社を創業。
Mostly AI Japan Representative Marcel Rasinger氏(Plug and Play Japan Fintech Batch4 プログラム採択企業)
オーストリア大使館副商務参事官補を経て、2019年5月に自社合同会社げんてんを設立しMostly AIの日本企業の法人窓口を務めている。(本社所在地:オーストリア)

さて、ここからは当日のアジェンダに沿ってセッションの要約をお届けいたします。

ヤマトホールディングスから学ぶDX戦略

セッション第一部ではヤマトホールディングス株式会社執行役員の中林紀彦さんに同社の経営戦略や現在の取り組みについてお話を伺いました。現在年間約18億個の宅急便を取り扱うヤマトグループでは、1月23日に経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を発表しました。「YAMATO NEXT100」は、“社会インフラの一員として、これからも社会の課題に正面から向き合い、お客さま、社会のニーズに応える新たな物流のエコシステムを創出することで、次の時代も豊かな社会の創造に持続的な貢献を果たす企業となること”を目的とした経営のグランドデザインであり、その中で3つの事業構造改革/3つの基盤構造改革を掲げられています。

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(画像提供:ヤマトホールディングス株式会社)

3つの事業構造改革
1. 宅急便のデジタルシフト(徹底したデータ分析と AI の活用で需要・業務量予測の精度向上、輸配送工程全体の最適化)
2. ECエコシステムの確立(EC事業者のサプライチェーンのスリム化や輸配送のオープン化、社会ニーズに応える基盤構築)
3. 法人向け物流顧客の強化(グループ各社より経営資源を結集、お客さまの立場に立ったアカウントマネジメントの実現)
3つの基盤構造改革
1. グループ・経営体制の刷新(2021年4月〜グループ各社を再編、4つの事業本部と4つの機能本部からなる事業会社に移行)
2. データ・ドリブン経営への転換(今後4年間で1000億円投資、300人規模のデジタル組織を立ち上げ、新組織立ち上げに向けて5つのデータ戦略を実施)
3. サステナビリティの取り組み

Yamato Digital Platform ー 「データ・ドリブン経営への5つのデータ戦略」

中長期的(2024年3月期)な経営指標として営業収益2兆円、営業利益1,200億円以上、ROE10%以上を達成目標に掲げた「YAMATO NEXT 100」の基本戦略のひとつである、「データ・ドリブン経営への転換」では次の5つの戦略についてご紹介いただきました。

1. データドリブン経営の基盤となる需要予測の精緻化意思決定の迅速化
2. アカウントマネジメント強化に向けた顧客データの完全な統合
3. 流動のリアルタイム把握によるサービスレベルの向上
4. 稼働の見える化、原価の見える化によるリソース配置の最適化・高度化
5. 最先端のテクノロジーを取り入れた、デジタル・プラットフォームYamato Digital Platformの構築基幹システムの刷新に着手

各戦略の実施に向けて、基盤・組織の確立、基幹システムの刷新を行う「データファーストの基盤構築」→基盤・組織を活用した収益/利益の拡大に向けた「データトランスフォーメーションの推進」→最先端テクノロジーの導入、新規事業の創出による「イノベーションの加速」と、短期・中期・長期ロードマップ戦略によるデジタルイノベーションの中長期戦略。

最近の取り組みでは、ZOZOTOWNとの取り組みで商品購入後の「非対面受け取り」指定が可能となる「EAZY」の導入グローバル・ブレイン株式会社とのCVCファンド「KURONEKO Innovation Fund L.P.」の設立についてもご紹介いただきました。また、イベントの2日後にはビッグデータ分析ソフトウェアプラットフォームを提供するPalantir Technologies Inc.への出資及び提携リリースが発表されました!今後も様々なDX(デジタルトランスフォーメーション)施策の発表が期待されます。

スタートアップ企業によるデータセキュリティ保護・強化

第二部では、企業のDXを推進する上で障壁となるデータのセキュリティ保護について、スタートアップの技術を通してセキュアなデータ基盤を構築し、これからのデータ利活用の在り方を考えるべく、Plug and Play Japanアクセラレータープログラム採択企業2社、Mostly AI、EAGLYS株式会社に事業紹介ピッチをしていただきました。

Mostly AI ー データ価値を担保したまま合成データをAIで自動生成

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(画像提供:Mostly AI)

オーストリアに本社を構えるMostly AI社では、ビックデータの旧来の匿名化技術の脆弱性やデータの曖昧化によるデータ価値の損失、ビッグデータの活用におけるGDPR(EU一般データ保護規則)等の法規制上のリスクや、一案件毎の承認プロセスを経て取引される高コストや遅延プロセスによって企業のデータ資産の利用が制限され、活用されないまま社内に閉じ込められているという課題を解決すべく、実存するデータの質・相関性を担保したまま、データの特定を防ぐ、合成データ(シンセティックデータ)を無限に自動生成できるシンセティックデータエンジンを提供しています。

これにより、携帯電話、クレジットカード、生年月日、性別、郵便番号等から成る個人情報の特定を防ぎ、データ流通市場の創出を可能にします。グループ企業間における円滑なデータ連携や開発テスト、複数企業間における共同研究、外部データの収益化を図る上での市場調査やデータマーケットプレイスの構築等、様々な利用シーンが期待され、現在は金融機関・保険会社を中心にオンプレミス、プライベートクラウド環境での実装が進んでいます。

EAGLYS株式会社 ー 秘密計算(セキュアコンピューティング)によるデータ暗号化

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(画像提供:EAGLYS株式会社)

EAGLYS株式会社(本社所在地:東京)では、クラウドコンピューティングにおける外部からのデータ侵害や、内部のシステム環境構築ミスによるデータ漏洩問題等のデータセキュリティ問題を解決すべく、データを常時暗号化したままAIによる分析や収集を可能とするセキュアコンピューティング・プラットフォームを提供しています。従来の「データ暗号化」技術では、実際にデータを利用する際には暗号化を解除、生データを復号して使っているため、活用時のデータが危険に晒されるという課題がありました。

EAGLYS株式会社では、データを常時暗号化したままデータベース操作やデータ分析・機械学習が可能となる技術・製品を開発・提供しています。リスクの高い機密データの利活用、組織間でのデータ連携・集計分析も、データを常時秘匿化したまま実行できます。従来はセキュリティのため困難であった製造・物流データのクラウド集積基盤の構築、データアセットの連携も可能になります。その他SaaS事業者のデータベース保護のために活用されており、現在も株式会社東芝など大手企業との協業検討や実証実験をされています。

パネルディスカッション ー 改正個人情報保護法、企業間連携、etc...

本セッションの最後の時間となる第三部では、前半部分でご登壇いただいた3名に加え、松田総合法律事務所の佐藤智明弁護士にご参加いただき、今年6月12日に公布された改正個人情報保護法による個人データを取り巻く環境の変化にも注目しながら、パネルディスカッションを実施しました。ディスカッションの一部をご紹介いたします。

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(2020/07/08 パネルディスカッションの様子)

企業の「データ利活用」を考える上で、改正個人情報保護法の注目すべきポイントは?

■ 今回の法改正では個人情報利用におけるフェーズを以下の4つに区分することができる
1. 取得・収集の段階
2. 利用・保管の段階
3. 事故・違反等インシデントの段階
4. その他
(法の域外適用の拡大や、外国へのデータ移転取り扱い、特定認定団体制度など)

■  「仮名加工情報」「個人関連情報」という制度が創設された。「仮名加工情報」により、個人情報利用の特定目的に限定せず利活用の範囲が広げられるよう制限を部分的に緩和。データの有用性をできる限り低減させることなく、またデータの量を維持することが可能となり、ビッグデータを継続的に利活用することが期待されている。

■ 「仮名加工情報」の制度は、外部連携のための法整備ではなく、あくまで自社内部でのデータ活用を進めるための一歩と捉えるとわかりやすい

Mostly AIの「合成データ」やEAGLYSの「匿名化データ」における改正個人情報保護法との関連性は?

■ 両社のソリューションを導入する上で、「個人情報の第三者提供」という観点に着目すべきであり、ここで重要となるのは個人情報の定義。
「個人情報」の定義
1) 情報単体で個人を識別できる情報
2) 情報単体で個人を識別できなくても、別の情報と照合することで個人が識別できる情報

■ Mostly AIの「合成データ」を利用する場合
「合成データ」は一方向的(One Way)であり、元データから学習してAIが自動生成する段階でデータの復元機能は存在しなくなるため、元の個人情報を辿ることは出来ない。つまり、原理的には上記の個人情報には当てはまらないが、データセットが少ない場合は匿名性を保ちづらくなる場合がある。

■ EAGLYSの「秘密計算」による匿名化データを複数企業間で利用する場合例えば、「特定の個人が識別できない情報」を、現行の個人情報保護法は適用範囲外となるが、今回の改正によって、A社にとって個人情報の範囲にあたらない情報が、B社が保有する自社情報と照合することで、B社において個人の識別が可能と成る場合には、今後「個人関連情報」の第三者提供として法の適用対象となる可能性がある。注意すべき点は、両社間におけるデータアクセスへの制限・制約上、B社に渡ったデータが個人情報と定義できるものであるか、A社が識別できないケースが生じること

■ 「個人情報の第三者提供」において、提供元が「個人情報」と定義(再定義)できる場合は個人情報保護法規制の対象となる。上記の例を挙げると、A社において「個人情報」であればA社が対象個人に同意を得なければいけないケースも発生する。一方、同意が得られている場合においては、活用する企業においては情報管理の問題となり、秘密計算はセキュリティ向上のために活用できる。

■ 結論としては、公式発表の有無に関わらず、企業間の提携により様々な機密データの連携や活用など、可能性を模索するためには、健在かつ信頼ができるビジネスパートナーとしての関係構築が重要

Mostly AI、EAGLYS両社のソリューションを連携利用することは可能?

結論からいうと可能:技術的に競合はしない点と、利用フェーズが異なる
■ 実証実験フェーズ:Mostly AIの合成データによる学習データを構築
■ データ運用フェーズ:EAGLYSのセキュアコンピューティング・プラットフォームでリアルデータとの分析
シンセティックデータをで生成したデータをどのように活かすか、という段階でリアルデータとの融合が必要となる。過去に蓄積したリアルデータに秘められているビッグデータの付加価値を掘り起こし、予測モデリングを行い、現在の課題をよりデータ・ドリブンに解決していく。

スタートアップと事業会社が協業する上で、スタートアップの目線から事業会社に求めるものとは?

ビジネスゴールの明確化、最終的な付加価値の数値化
例えば銀行における社員教育コストや離職率、離職要員の定量化・計算による、ROIの可視化にMostly AIの技術を役立てることができると考えるが、ビジネスゴールを明確にしなければ、導入コストの予算検討も難しくなり、ROIも可視化できず、また、必要なデータ整備も難しくなる。協業の成功要因は、事業会社のマチュリティに依存することが多く、ゴールの擦り合わせが重要。

いかがでしたか?
本セッションがこれからのデータ利活用を考える上で参考となりましたら幸甚です。Plug and Play Japanでは今後もDX / Open Innovation / Startup Accerlationを推進すべく様々なコンテンツをお届けしてまいります。是非セッションの感想や今後のテーマに関するご希望等、お気軽にお寄せください。最後までご覧いただき、ありがとうございました!




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