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初恋の記憶〜『流れ星』と『運命の人』〜

「流れ星 流れ星……」

中学生の頃、スピッツ好きな隣の席の男子はその歌をよく口ずさんでいた。その後に続く歌詞は覚えていないけれど、確かに「流れ星」と二回繰り返す曲を歌っていた。「流れ星」という珍しい歌詞と、その曲の儚い世界観が伝わってきて今でも印象に残っている。しかし、それだけではない。当時私は、少し不思議で面白い彼のことが気になっていて、彼の口にする言葉を少しでも多く掬い取ろうとしていたから覚えているのかもしれない。

***


テスト返しの日、私は問題用紙を忘れてきた。授業のまるまる1時間を使って、解答と解説があるのに問題用紙がなければ話にならないので、その隣の席の男子に見せてもらった。淡々と進む解説は正直退屈だった。彼の解答用紙を見ていたら、端の方に不思議な文字列があることに気づいた。

『バスの揺れ方で人生の意味が解かった日曜日』

「これって何?」
聞くのは躊躇われたけれど気になって、尋ねてみた。
「あー、これね。気に入ってるスピッツの歌詞。まさか、誰かに見られるとは思わなかったけど」
笑いながら彼は言った。
「それは、ごめん。でもそれ、どういう意味?」
「俺もまだよくわかってない。けど、バスの揺れ方で人生の意味が分かるって、なんかよくない?」
「そうだね」
私は頷いた。

素直に、素敵だと思った。
その歌詞も、テスト中にお気に入りの歌詞を書く彼も、私の知らない大人びた歌詞を好む彼も。それは、彼が私の中で微熱ではなく、はっきりと熱を持つようになった瞬間だった。
誰かを好きになったのは、それが初めてのことだった。

***


それから数年後、大学の講義を終えて、荷物をまとめていると、ふと、あるメロディーが聞こえてきた。

「流れ星 流れ星 すぐに消えちゃう君が好きで」

まさか、と思って後ろを振り向いた。

が、歌っていたのは知らない人だった。顔の中に少しばかりの面影を探したが、別人だった。

……いるはずないか。

そう思って1人で笑ってしまった。

でも、その出来事によって私は彼のことを思い出し、懐かしい気分にさせてくれた。

もし、またどこかで会えたのなら、バスの揺れ方で人生の意味が解かったのか彼に聞いてみたい、そんなことを思った。




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